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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第一章 五百年後の世界に生きる者達
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九.疑り深い

「何故……のような…」


 低く、掠れて出た言葉。


 聞き取れず、「何?」と怪訝な顔をすると、眼鏡の奥の目が妖しく揺らぎ、その綺麗な顔が歪んだ。


「お前のような小娘が、何を知っている?」


 続けて彼は微かに口元から牙を覗かせ、唸るように小さく告げる。睨むように鋭い視線をこちらに向ける。


「…っ、ユリウス様…っ!」


 次の瞬間、ボッ!と音がして小さな炎が彼の周りに浮かぶ。


「ユリウスっ!?」


 椅子に座っていた偽アデルがすぐさま異変に気づき、さっと私をユリウスから守るように、立ち塞がる。


「退いて…。この娘、危険です」


 身体に流れるヴァンパイアの異能。ユリウスの能力だ。敵に向けて生まれた炎で攻撃する。その現象が今、まさに起きていた。私をどこかのスパイだと勘違いしたのか、突然の殺意ある敵意を向けられ、顔面蒼白。足が動かず、視線も逸らす事ができない。


「ユリウス!止めなよ!何を本気で怒っている!?」


 偽アデルは言葉で彼を止めようと説得している。


「退きなさいアデル様。この娘はエンジニアのスパイです!」


 私とユリウスの間にいる偽アデルに、ユリウスは叫んだ。


「何を言ってるの…っ?彼女は違うと言ったじゃん!エンジニアでは、人間がスパイになどなれない」


 どうして、彼がそれを知っているのか…。

 

 必死に止めようとしているのか、出てきたその言葉に、怒りに燃えていたユリウスの表情が固まり、周りに浮かぶ炎が消える。


「ユリウスっ、落ちついて!エンジニアは…あの魔術師は、人間の子供には手を出さない。それは前に調査済みのはずだよ」


 なんとか落ち着かせようとする彼だが、何故そんなにもエンジニアに詳しいのだろう。

 私がいない間、何があったのか。


「ユリウス」


 偽アデルが彼の横に立ち、その耳元で何かを囁いた。途端にユリウスの顔から血の気が引き、冷たい表情に変わる。


「ですがアデル様…!アレは…」


 偽アデルの言葉に対しユリウスが何かを言い返したが、偽アデルが首を振り、「やめろ」と強い口調で呟いた。


「こんなことでお前が取り乱してどうするの?今回の会合の目的はエンジニアではない。レオルドのことだ」


「…ええ、わかっています」


「彼女は客だ。あちらの思惑は分からないが、少なくともこの娘を使ってまで情報を聞き出すなんてことしない」


「…ええ、それも…この娘を見ていればわかる」


 チラッとユリウスが私を見て、苦虫を噛み潰したような顔をして、答える。


「だったら止めなよ。まだ、会合は終わっていないし、こんな風に取り乱して僕らがみっともないよ」


 呆れたようにため息をついて、偽アデルが肩をすくめた。取り乱していたというより私を疑って警戒しているのだ。

 ユリウス、悪いが偽アデルが言った通り、人間の娘に対して過敏になり過ぎている。

 前世で見てきた彼はいつも冷静だったのに…。

 こんなに反応を見せてくる姿は、ヴァンパイアとしてじゃなくても、少しみっともなく見える。


「アデル様…」


 ユリウスがフッと彼から一歩離れ、軽く頭を下げた。


「申し訳ありません。久しぶりの会合で少々、過敏になっていました」


 その素直に謝る姿に偽アデルは軽くため息をついて、「もういいよ」と許す。


「僕より、こんな態度を取った彼女に謝って。せっかく君に美味しいスイーツを作ってくれたんだ。失礼だよ」


そして、私に向けて、謝れと促した。ユリウスは素直に従い、私に向き直り、頭を下げた。


「せっかくのご好意を無駄にしてしまい、大変失礼した。この会合やレオルドのことで過敏になり、大人気ない態度を取った」


 もう怒っていない様子で真正面から真剣な顔で謝る。私はもう疑われていないのか、と安心して、その謝罪を受け入れた。


「私も、すいません。再会に喜んで、あなたたちに馴れ馴れしい態度をとりました。あの…もう、怒っていませんか?」


 私も正直な気持ちで、ユリウスに問いかける。

 ユリウスは一瞬固まったように無表情になったが、軽く首を振り苦笑して、「怒っていません」と答えた。今の表情が少し違和感を感じたが、怒っていないと言うならそうなのだと、彼を信じようと思った。

 

「うん…ユリウスらしくなってきた。それで、落ち着いたことだし、君の話に戻すけど」


 私達を和解させた偽アデルは満足そうにして、再び話題を戻すようにした。


 だけど、私はあんなユリウスをまた見たくないし、これ以上ギクシャクするのも嫌だった。出来れば今すぐに解決したいところだが、日を改めて、またこの話をしようと決めた。


「いえ…もういいです。こうして再びユリウス様に会えたんですから、それだけで充分です」


 この気持ちも、本物だ。


 再会できた事は本当に嬉しいので、にこりと笑って答えると、ユリウスは少し言葉を詰まらせたように息を呑み、居心地悪そうに視線を逸らした。


 ……今は、それでいい。


 まだ会ったばかりでこれ以上、彼に厄介な娘だと思われたくない。

 そういうことにして、今後の発言は気をつけようと思った。



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