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人ぎらいの慣性ドリフト。  作者: 西薗上美
3/27

きらいな人のいる、ヒロイン

「リョウコさん。」


最近本読まなくなったよね・・・


「リョウコさん」


他になにか興味があることでも出来たの?・・・


「リョウコさん!」


えっ、私?私は相変わらずな本の虫ですから!


「リョウコさん!!」


「静かに!皆さんの迷惑になりますよ!」

「すいません・・・もういい加減起きてください」


んっ?ここって・・・

「わっ!すいません!」

「ちょっ、ちょっと、リョウコさん!声!声大きい!」

「え・・・・・?色葉?・・・ここって・・・!」


またやってしまった・・・。

昨夜の待ち惚けが祟った。

もしかしたら連絡が来るかもと思っていた私が馬鹿だった。

昨日のうちに連絡があれば、・・・あれば・・・。

まあ、あんな7つの大罪の集合体のような人間、というか、その7つ全てに愛されているようなヤツ・・・なな・・・ナナ・・・7・・・ラッキーセブン?


「ちょっと、あなた達!いい加減にしなさい!!」

「すっ、すいません、今すぐに行ってきます!さあ、早く起きて、行きますよリョウコさん!」

「あ、うん。すいません」


私は、図書館長に平謝りをし、その後で、私の視野内に入っている人達だけでなく、それ以外で現在、読書を楽しんでいるであろう人達に向かって会釈をした。

右腕全体に掛かっている到底女子の力とは思えないこの私よりも小さな体躯の後輩によってもたらせられている痛みにほんの少しの怒りを感じながら。



あそこから逃げ出してどのくらい時間が経ったんだろう・・・

私のしたことは、大人という立場を使った我儘だ。

それも、子供の我儘。

別に自分の置かれている立場になんら不満は無いし、一応、人間だとカウントしてもいいと世間が認めてくれるのであれば、彼氏も居た。

が、こんな風に私がなってしまった原因はそれだ。

アイツと『付き合う』なんて形をとらなければ今の私はなかった。

んっ?なんか使い方とニュアンスが違ってない?


「リョウコさん」

「・・・」

「リョウコさん!」

「ん?」

「しっかりしてください!もう、いつもいつも。私はリョウコさんの母親じゃないんですから!まったくもう!いっつもいっつも」


『ブツブツ』という音にしか聞こえない。

何を言われているのか理解出来てしまうほど聞き慣れた。

だからそうとしか聞こえないようにしている。


「色葉、今日は何件?」

も~う、という顔をしている。


最近は色葉も学習して、なにを言っても無駄な、私のリアクションの薄さを鑑みて顔芸の類に文句を昇華させている。いや、言葉を使わなくなってしまった以上退化してしまっていると言っても良いかもしれないが。

あーあ、この子めちゃくちゃ頭の良い子なのに。私なんかとつるむなんてことになって気の毒に。


「上の空で運転しないで下さいね。なにかあっても私、免許持ってないんですから」


免許・・・。そうだ、教習所なんか行ったから。


「私って運無いのかな」

空振りな独り言は上滑りして、今日も青色を通り越し、白一色な雲ひとつ無い空と、誰かさんの心の中のように燦々としたバカみたいな太陽が当たり前だとそこにある。


ゆっくり進む時間、平穏でのったりもったりしている空気、それと同じくらいな私の脳内。今日も私は生きている。


「何か言いました?」

「だーかーらー、今日回らなくちゃいけない件数」

「ああ、今日回るお宅ですね。えーっと、8件ですね」

「多っ!?」

「ですね、頑張らないと!」

はぁ~。色葉は今日も元気だなぁ・・・。


「ふわー、あー眠い」

「居眠り運転は勘弁ですよ。また例のやつですか?」

「・・・まあね」

「治・・・らないんでしたよね。でも、いくら本が好きだからと言ってそんな事になります?普通」

「まあ私は普通じゃないのかもねぇ~」


自動車文庫。

それが私の現在の職業だ。


「なんか日を追うごとに発注件数増えてきてない?確かに、受け一片な図書館のシステムを根本的に変えた前衛的なアイデアだとは思うけど、こんな田舎ならではな方法だとは思うけど、ここぞとばかりだと判断した館長は良いことしたとは思うけど・・・」


「・・・・・」

「えーっと・・・うーんっと・・・」

「・・・・・」


「寝てませんよね?」


私も器用なこと出来るようになった。

こんなこと、免許とったばかりの時には考えられなかったことなのに・・・。やっぱり、時間は過ぎ去ってしまっているんだな。


「寝てない・・よ」

「リョウコさん」

「ごめんなさい」


交差点に差し掛かったところで信号機の赤色に安心して車を一時停止する。

眠気を覚ますには丁度良い。

ここに来てからというもの私のスタンダードはこんな状態だ。


寝不足に、軽度な無気力。


アイツほどでは決してなく。社会に出て生活していれば誰しもが少なからず持ってしまっている程度のものだとは思うが、そんな調子が常となれば、横で何かしらの書類に目を通している後輩がブツブツと音を立てることはしょうがない。


「そろそろ?最初のお宅っていつものところよね?」

「そうです。一人暮らしの雪おばあちゃんの家です。」

「それじゃ、その前にスーパーね」

「ですね!」


いちいち受け答えがうるさい。

でもまあ、そんなところが年寄り達に好かれるところなんだろうけど・・・。


前衛的かつ、この地域に対してビビットなシステムの本来の内容は、図書館内の本の貸出を、電話やインターネットでのみ受注し、その本を私達『自動車文庫』の担当が直接自宅まで届ける、というシステムなのだが、その実態は、体の良い、サザエさんでいうところの三河屋のサブちゃんのような仕事内容になってしまっている。


もちろん最初は、本来の仕事内容だけをこなしていたし、それで十分成立していた。

だが、そんな機械的で、実に今の怠惰な私にはピッタリな作業は、横で今度はなにやらゴソゴソとタブレットなるものを取り出し、おそらく図書館を出発する前に取った自分のメモを確認している最先端女子によって脆くも崩された。


「やっぱり、そいうのって使えないとこれからの時代不便かねぇ~」

嫌味だと聞こえるには十分に追従な年寄り口調でそう言うと、「なんですかそれ。ふざけないで下さい」と一瞥に両断された。


「リョウコさんって、お年寄り嫌いですか?」

「別に」

「そうですか。・・・それなら、人が嫌いってことですか?」

「はっ?色葉、あんた、私のこと馬鹿にしてる?」

「いいえ。でも、リョウコさんが普段からしていることって、傍から見てるとなんだか、他人に興味が無いというか、自分がどう思われても良いみたいな感じがして、その・・・心配になるんです。」


そんなこととっくに知ってる。

心配してくれていることだって、とっくに・・・。

なぜなら、それは、私が元々その立ち位置に居たことがあるから。


未だに、昨日のように思い出すときがある。

別に未練とか、そんなくだらない感情なんて微塵もない。

思い出としての価値も私にはない。邪魔なほどだ。


でも、それでも思い出す。

思い出の中からわざわざ、これだと選んで、今まで生きた時間、経験した自分の体験、体感の合算、言わば、私という人間を形成している、エネルギーのような、生きていく為のガソリンのような成分から。

それが瑕疵を再認識してしまう行為だと解っていようと。


元々私はそんなじゃなかった。

いや、本質的な本性がそうだと解ってしまった。

アイツに影響されなければ。

影響なんて、ただの逃げでしかないけれど、結果的にはそうだと言っても間違いじゃない。

自分では分からないところだってあるし、自分以外には分からないことだってある。

自分のことを迷うなんてとても正気とは思えないけれど。



「色葉、あんた今年で何年?」

「何がですか?」

「ふーーー。勤続!確か4年目だよね。となれば、司書講習受けれるようになったんじゃないの?」

「司書講習・・・?あっ!そうです。4年目です。受けれます司書講習!」

「あんたこそしっかりしてよね、いくら田舎で利用者がそんなにいないからって、館長と私だけじゃ規定の仕事量こなすだけで手一杯なんだから。そこに来て、このシステムの導入・・・。館長は提案しただけで、後は私に丸投げなんだから。あのババア、自分が免許持ってないくせに完全に確信犯じゃない」

「リョウコさん、館長のこと嫌いなんですか?」

「いろは~・・・、鋭感か、鈍感なのかどっちかにしてよね。」

「さっきからリョウコさん私の質問に答えてませんよね」

「そういうとこ」


この世には面倒くさい人間が存在する。


拳に力が入ったせいで書類をくしゃりと折り曲げてしまい、こっちに上半身を90度捻りながら、両頬をプクリと膨らませて誰がどう見ても怒っていないことがバレてしまう顔を作ってしまう、私の数少ないそのうちの一人、希少で稀で稀有な友達がそれだ。


そもそも人付き合いというものを私はそんなに得意としていない。


そんなに、という程度だけれど、正直に言わせて貰えば、多分、それは私の逃げなんだろう。

もやもやして、声に出せばもごもごと、それでこそ、そう言ってしまったほうが私としては真意をついていて都合がいいけど・・・。でもそれもまた逃げでしかない。

要は、私が人と付き合うというのは『私の好きになった面倒くさい人』という大いにこじれた人種に限るということ。


色葉は、悪口や陰口といったのを使った人間が、その人のことを好きではない、もしくは嫌いだからだと結論付けて考えてしまうみたいだけど。この子はそれに当てはまっているかもしれない私を心配している。

もしかしたら相思相愛なのかもしれない。


「アイツ、この子が目の前に現れれば速攻で惚れてるだろうな」

自画自賛は恐い。


「多いですよね、独り言。凄いですよね、普通そんなこと他人が近くにいる状況で平然として出来てしまうなんて、ありえません」

「ひとの得意技を変態扱いしないでよ」


とにもかくにも本来の目的を最優先すべく今一番の処理すべき事は、生命線を切られないように、生きていく糧、世に云うところの金のために雪ばあさんに本を届けなければ。


「今日はなにを頼まれたの?」

「このリストから推測するに、雪さんの今日の晩御飯はカレー・・・ですね」

「いや、そんなこと聞いてないから。じゃ、なに、じゃがいもにんじんたまねぎ、それと・・・三種類のどれかの肉類、あと市販のカレールゥってところね」


まったく、面倒くさい。

この仕事を選んだ最大の理由は仕事内容だったのに。

本来の仕事だけでも手一杯なうえに、イレギュラーと言っても過言じゃないこの新事業・・・。そこに加えて、色葉によって追加された買い物委託サービス。

読んで字の如く、この仕事は『サービス』。完全な奉仕活動。金がまったく発生しない。私も人間、オカネハスキダ。


「着いたよ。私は待ってるから、さっさと買ってきてよね」

「何言ってるんですか、リョウコさんも行くんですよ」

「はあ?なんで?どちらか一人行けば事足りるでしょ」

「なにいってるんですか、二人で選ぶから良いんじゃないですか」


まったくもって意味不明だ。

確かに私は、買い物も、スーパーも好きなほうだ。けれどそれは私利私欲が働いた場合の話し。

色葉のように光った言葉で喋られれば断りずらくはなるけれど、それに抗うように私の培った暗がりな性格で自分で勝手に設けてしまった壁が邪魔をしてブレーキを踏ませる。


「わかったわよ、行くわよ。考えれば入り用もあるし」

好きな人の誘いだし、断る理由の要素のほうがどう考えても少ない。特別に付き合うことにした。


「もーう、またそんなこと言ってぇ。ここだけの話し、私にだって私利私欲はありますからね」


意外。

こんな純粋無垢な、清楚で聡明で清純で、私と真逆な良い子が、そんな考えを持っていたということもあったが、利欲なんて言葉を知っていてそれを実際使うなんて。


そういえば色葉には色んな方法で私のブレーキを掛ける原因になっている壁を何度も取り払ってもらっている。


すでに色葉の得意技になってしまっている力。

とはいっても、私の中でだけで得意技認定している技術ではあるけど・・・。

してもらっているその本人無自覚な能力には、私自身かなり助けられている。

前よりも関係が深く、複雑になっているのかもという不安が、邪な思考で私という人間を崩壊させるかもと懸念してしまっているけれど・・・。


「買い物って久しぶりだなぁ」

「え?久しぶりって、それならいつもはどうしてるんですか?まさか、通販オンリーってそんな訳ないですよね、パソコンはおろか、未だにガラケー愛用している時代遅れなんて言葉を私に言わせるような生活してる人なんですから」

最近こいつ、私のことイジる新しい能力身につけてない?


「ふたりっ・・・誰かと・・・」

不意に言おうとして、それをやめた。

それは偏屈で、屈託していて、素直なんてかけ離れた私の中の純粋な自分らしさというやつからくるものだった。

自分じゃ認めたくなかったそれは、アイツに教えられた・・・というか、指摘されて、んじゃなく、ほとんど説教のように・・・言われて初めて気づけた私そのものだったんだけれど。


「さっきああは言いましたけど、その正体はこれらです」

そう言って色葉はレジに並びながら買い物カゴの中を指差した。

「・・・確かに。おいしいからね、雪ばあさんの料理」

「ですよね」

色葉は一切の躊躇も屈折もなく、どう見ても一人分とは思えないほどの材料を私に見せながら言いきった。


スーパーを出てからだいたい車で5分。

雪ばあさんの家は、独りで住むにはあまりにも大きく、敷地は更に広い。なんでも元はかなりな豪農で、ここら一帯の行事ごとなんかも仕切るような家柄だったらしい。

私も、色葉もここの出身じゃないからそこら辺のことは詳しく知らない。

まあ私も、この場合色葉も、そういった話には興味もないし、どちらかといえば嫌いな類のはなしだ。

とは言え、互いのベクトルは違っているけど。


「はじめて乗った時から思ってましたけど、リョウコさんって運転上手ですよね。車・・・は持ってなかったですよね?この仕事の前は何を・・・ってそれは禁句でした。運転する機会が多い生活環境に居たってことですか?」


色葉の悪い(?)癖だ。聞きグセ。

本人にそんな意識はさらさら無いだろう。

この子の天然は先天性なものなのだろう。

私は、女子の『天然』は存在しないし、同性として成立しないと思っていた。

けれど、こうして、生まれて始めて天然の天然物を目の当たりにして、自分の間違いを認め、その定義は存在すると知った、知れた。

まったくもっていい経験をさせてもらっている。


「その質問もこれからは禁止で」

「え~、どうしてですか~、そんな感じじゃ、全然知らないままじゃないですか~。リョウコさんのこと私は知りたいだけなのに~」

「色葉、それ異性に言ったら一発の破壊力とてつもないわよ」

「え?なんのことですか?」

「・・・・・」

「リョウコさん?」

「ほんと、貴重な経験させてもらえて私は嬉しいかぎりよ」

「そうですか?なら良いんですけれど」


スーパーでの買い出しは済んだ。

やらなければいけない本来の仕事内容ならばおそらく、雪ばあさんの要件を済ませ、三件目の家に向かっているくらいだろうか・・・まあ現実というのはこんなものなのかもしれない。


「さっ、着いた。雪ばあさん今日は体調あんまりよくないみたいね」

「心配です。この前来たときには次に来たときに散歩しようって約束していたんですけれど」


雪ばあさん。

私はそう呼んでいる。本名は椎名雪せつ。お得意様だ。

確か今年で85歳くらいになる、正真正銘の老人。れっきとした婆さんだ。

何故か知らないが私はこの婆さんに懐かれてしまっている。いい迷惑だ。

それと、当然といえばそうなるのかもしれないが、色葉とは意気投合している。

年の差、えーっと、たぶん5つ回りくらい離れた友達みたいな、じゃなく親友だと前に色葉が自慢げに満面の笑みでそう言っていた。


「よく考えたらあんたらって似てるよね」

「リョウコさん、そういうの駄目ですよ」

「?」

「それじゃ早くいきましょう。ささ早く早く」

どっからどう見ても女子中学生が放課後親友となにかしらの密事を勤しむような、そんなテンション、そのもので足早に玄関へと向かっていった。


「こんにちわ~、雪さ~ん来ましたよ~」

今この瞬間ここだけが昭和だ。


「・・・・・」


「雪さ~ん、ご在宅でですか~」

言い方はともかく、生まれの良さが分かるその言葉遣いの自然さにはいつも感心させられる。


「・・・・・」


「いらっしゃらないんですかね?」

「心配だ、中に入らせてもらおう」

「え、あ、はい」

「ばあさーん、お邪魔させてもらうわよー」


少し強引ではあったが、家の中に入ってみてわかったことがあった。

現在時刻は昼前。

どうやら雪ばあさんは昼ごはんの準備をしていたみたいだ。


台所には、調味料が何種類かと、一定間隔に丁寧に切られた果物が色々、水の張った一人分には大きすぎる鍋がコンロにかけられている。

だけど、人の気配がしない。


「雪さん、居ないみたいですね。昼食の準備していたみたいですけど、この状況、なにか急用ですかね?」

「あのばあさんに限って急用なんてありえないとは思うけど、これじゃあね・・・、それに、私たちの推測だけど、雪ばあさん、体調良くなさそうだったんでしょう?それに、出掛けるにしたって、歩きでしか移動方法ないだろうし・・・」

「そうだ、玄関!玄関に靴置いてなかったですか?」


そう言って、私に聞いておきながら色葉は一人急いで今入ってきた廊下を戻り玄関に直行していった。


台所の四人掛けテーブルにはこれから使おうとしていた古いデザインの使いこまれた食器類。

それに、いつもこうして配達に来たときに出してくれる、菓子類が入っている木で出来た丸い入れ物。


「んっ?これって・・・」

それは、とても正真正銘な老人が食べるようなものが掲載されているとは思えない、イマドキな料理ばかり載った調理本が置いてあった。

開かれて置いてあったそのページには、重要だと思ったのかアンダーラインがそこかしこに引かれている。

それに、この本には、ところどころに付箋がはられていて、まるで、どの料理を作ろうかと迷っているみたいに思える。


「これ、雪ばあさん作るつもりだったのかなあ」

私は、その開かれているページがめくれないように、そっと、ゆっくり持ち上げ、これだと決めたであろうその料理の調理方法や、必要材料を適当にさらっと読んでみた。

「ぜんぜん関係ないじゃない。どうして・・・」

「リョウコさん!」

「わっ!なっ、なに?」

「くつ、雪さんの靴がありません」


予想を立てろというならば簡単。

ただ、間違っているということが解っていて、その答えが当たり前な場合、すごく難しい問題へと成り上がる。


「・・・出かけたことは間違いじゃないんじゃない?」

疑問文で返答することが精一杯だった。

けどそれが悪手だったことにすぐに気付かされる。

「どうして言い切れるんですか?」

色葉のその返答を一言一句間違えることなく予想できたし、こうなってしまったからには、終着点、到達点がすぐに想像でき、結末は先の簡単な予想になってしまうこと請け合い。


「・・・ちがうか(笑)」

「いやいや、違わないですって」

「・・・だよね、えへへっ」

「気持ち悪いですって」

「・・・だよね」


ごまかせ~・・・てはいないか。

いや、諦めるにはまだ早い。色葉の例の先天に、運を天に任せることくらいは出来るだろう。

・・・そんな表情には決して見えないし、私自身が運に見放されている自覚が十全。


「靴が無い以上出かけたことは間違いないとは思いますけど・・・、あのー」


もう私に残された道は、逃げ道は、色葉のそのまだ声に出していない、これから何を言わんとしているのが、これもまた一言一句間違うことなく、百発百中外すことがない、その言葉を受け入れるしかない。

先へ進むため、この件を解決するために・・・というのは綺麗事で、私の願いが天に届くことは決してなく。その結果、すでに約束されてしまった未来を知るしかない唯一の『手段』をとるしかなかった。

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