第一話 絵画は扉
よくわからない絵画を見つけた。
「おい、ディーフェ。これ何だと思う?」
ディーフェは答える。
「知らないね。僕にだってわからないことはあるよ。」
「おい、アシスタントAIだろ。こんなところにあるなんてどう考えたって不自然じゃないか。」
「大家さんに聞きなよ。」
もっともな意見だ。
だが今日はもう夜遅い。寝よう。
俺は氷空透 境ノ。ふつうの大学生。アシスタントAIと普段から話していることを除けばだけどね。
とりあえず今日は引越で疲れたんだ。そろそろ寝るよ。
「君、寝ようとするなよ。こっちに引っ越して初めての夜じゃない、何か話そうよ。」
「だから眠いんだよ。寝させてくれないか。」
「嫌だね。とりあえず、あれ押し入れにしまっといたら?」
「そうする。」
朝、というより早朝。目が覚めた。普段はこんな時間に起きたりしない。でも、起きてしまった。なぜ?だって、
ガタガタガタ
押し入れから音がするから。
「ねえ、氷空透。何か音がするけど大丈夫?」
ガタ……
「大丈夫じゃない!それに音が消えた。これって、あっちに音が聞こえてるってことだよ!」
「絵画からなってるんじゃないかな。見てみようよ。」
「見れないよ!だって、音が鳴ってるんだぞ!?」
「大丈夫だって。何かあったらすぐ何とかするよー。」
「本当かな……。」
だからといって見に行かないわけにはいかない。勇気を出すんだ俺。
ガラッ
「何もないな。うん、何もない。気のせいか……。」
「おーい、ディーフェ。何もなかったよ。俺の早とちり。」
と思っていた、が。
ドンッ
「ぐへぇ。く、苦しい。だ、誰?」
「その前に貴方がいいなさい。だれ、そしてここはどこなの。」
「ど、どこって、俺の家だけど。」
「貴方、転移魔法の使い手?魔力なんてこれっぽっちもなさそうだけど。」
「何を言っているのかわからない。頼む、少し緩めて。」
緩まった。良かった。これで息が据える。
すぅー
なんだろう。いい匂い。
「君は誰だ?」
「貴方に答える義理なんてないわ。貴方が答えなさい。」
「俺は氷空透 境ノ。大学生。何で俺の部屋にいたんだ?」
「ダイガクセイが何なのかはわからないけど、相当の力の持ち主のようね。魔力を使わずにこんなところに連れてくるなんて。でも、私を誘拐したのが運の尽きよ。」
「本当に何を言ってるのか。」
「突き刺すような氷よ、星を導いて流星とさせたまえ。アイス……。」
だれかわからないけど、何か言っている。
「はろー!!僕はアシスタントAIのディーフェです!!情熱的な炎の姿をお見せします!!」
「きゃっ、なに!貴方、使い魔を持っていたのね!!」
ホログラムの炎に驚き、飛びずさる誰かさん。本当に何なのだろう。
「えっ。」
誰かさんを見る。
長身の姿の、きりっとした目の女の子。いや、女の子というより女性。
歌劇団にでもいそうなすらっとしたシルエットに、吐息の音。
長いブロンド髪がたなびいている。
「すごいきれいじゃん!!」
てっきり、凄い人がいるのかと思っていた。
「はっ?」
「氷空透……君はすごいよ。」
よくわからないけど、二人とも、ディーフェと誰かさんはポカーンとしていた。
「はあ。なんだかどっと疲れました。魔力もないようですし、さっきの炎も魔法じゃなくてマジックのたぐい。よくわからないけど、相手にする必要はなさそうね。」
敵意が無くなっていく。
「はは。よくわからないけど、仲良くしましょうよ。」
「嫌よ。それと、この空間。勝手につなげられたから、勝手に使うわ。じゃあね。」
嵐のような時間が過ぎ、静けさが戻る。
「って絵画の中に入っていったぞ!!」
「声が大きいよ、氷空透。」