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噛み合わない二人


 二度目になるが、時の流れとは残酷なもので、特に嫌な事というのはあっという間にやってくるのだ。


 エマは学園の裏庭の芝生に豪快に寝っ転がり微睡んでいた。

 現実逃避中である。


 なにせ卒業試験はもう、明日に迫っているのだから。


 悪役令嬢エマがどういった幼少期を過ごす予定だったのかはわからないが、今のエマは極々静かな暮らしを送ってきたつもりだ。

 引きこもりのレッテルを張られ、友達もおらず(一応仮にはいるが、もはやあの二人は腐れ縁)、成績も運動も目立つものはなく、ただ自分のしたいことだけを自分の世界の中だけでマイペースにやってきた。


 自分は死ぬために生きているわけではない。悪役なんて大層なものでもない。

 モブ。今世のエマは究極のモブなのだと、世界に言い聞かせるような地味っぷりである。


 ┄┄このままこうして、穏やかに生きていけたらいいな……


 淡い希望を抱きながら、現実逃避に浸り込んだ。


「なにやってんですか……」


 まどろみの中で、呆れた声が耳に届いた。

 エマは目を閉じたまま「光合成」と答える。


「言いつけ守ってんのはお利口さんですけど、ちょっと無防備すぎやしませんかね」


 言いながら、隣に腰かけたようだ。


 学園では基本的にユーリにくっついているリュカだが、四六時中というわけではない。平和な学び舎において従者が不要なタイミングは多い。今もそうなのだろう。

 相変わらず神出鬼没で、ユーリが呼べばどこからともなく現れる男である。

 誰もいないことを見越してのんびりしていたエマの元にふらりと現れるのも不思議ではない。


 奇しくも今はよく知った間柄となってはいるが、ふとエマは閉じていた目を開いた。

 悪役令嬢からモブへと役替えを進めている自分に、大した事件など起こりっこないと思っているエマは、こうして裏庭で堂々と昼寝に耽ったりするわけなのだが、『無防備』なんてことを攻略対象に言われるとギクリとする。

 最大の敵は彼らなのだ。


 もしかしてこの男、今ぶっすり殺る気か? と起き上がり、身構えながら距離を取った。


「ちょっと、なんでそんな構えるんすか」


 怪訝そうにこちらを見るリュカに、


「………なにもしない…?」

「はあ!?!?!?」

「なにかするつもりなの?」

「なんっっっで俺がアンタに!?」


 彼の戸惑いように、エマはホッと息を吐いた。

 リュカが本気であれば、こんな風に動揺したりはしないだろう。


「むしろ危なっかしいから付いててやろうと思ったのに、酷い言われようですね。心外です」

「そうだったんだ……ありがとう」

「つーか、アンタの目に俺がそんなことする風に映ってんのも地味にショックなんですけど」

「そ、そうだよね。だって私たち友達だもんね。ありえないよね。ね?」


 確信が欲しくて語尾を強めるエマに、リュカはぐっと押し黙った。


「待って!? なんでそこで黙るの!? 絶対絶対ぜーーーーーーったいないって言ってよ!」

「いや、それは……ないと思いますけど……絶対とは言い切れないというか……先のことはわかりませんし……」


 ガーン、と目に見えて絶望するエマに、リュカもなんとも言えない表情を作る。


「まぁ……ないですよ。当然。アンタはユーリの婚約者で、俺には何よりも優先する仕事がありますし」


 そのユーリから派遣される場合があるんだよ、と頭を抱えたくなるエマである。


「だからそんな身構えないでくださいよ。つーか、自意識過剰」

「あでっ」


 ばちこん、とデコピンを食らった。

 可愛らしいものではなく、割と本気で痛いやつ。


 しかし困ったように笑うリュカに、今から殺すぞ、なんて様子は全く感じられず、おでこをさすりながらエマは心底安心した様子でふにゃりと脱力した。


「よかったぁ~~~」


 吐き出す息に乗せてそう安堵するエマに、リュカは少し不機嫌そうに表情を歪めた。


「……そんなに嫌ですかね」


 視線を逸らしながら言うリュカに、


「嫌に決まってるよ!!!」


 即答である。


「絶対嫌だよ。ね、リュカ、ずっと友達でいようね」


 リュカの手を握り悲願するように言うエマに「もちろんですよ」とリュカは若干魂の抜けかかった様子で答える。

 よっしゃー! と高らかに拳を上げて喜ぶエマの姿はもう見ていられない。


「………てか、こんな話しに来たわけじゃないんすよ」

「というと?」

「明日、卒業試験じゃないですか」


 そんなリュカの言葉にエマは再び絶望へと引き戻される。


「ソーダネ」

「すげぇ嫌そうにしてるとこ悪いですけど、折り入ってお願いがありまして」


 リュカがお願い? と首を捻るエマ。


「ちゃんと良い成績残して、ユーリと一緒にワーズに入ってくれませんか」


 お前もか! と叫びたくなった。

 これはもうこの世界の抑制力としか思えない。


「俺はユーリの従者ですから変わらず付いてはいるんですけど、やっぱ同じ研究員って立場のアンタが傍にいてくれると安心感が増すっていうか」

「はー……」

「聞いてます?」


 よくよく聞いていますとも、とエマは力なく頷いた。


「それに、セットでいてくれた方が俺も楽というか」

「どういうこと?」

「アンタのことも見ておくように、ユーリに言われてますから」


 つまり監視か。


 エマは戦慄した。

 末恐ろしいことに、どこで間違ったのか物語スタート前から怪しまれているようだ。

 身の潔白を示したい。悪巧みの予定はないのだと。

 しかしもうどうしていいのかわからない。


(だって、何もしてないのに……)


 エマは今度こそ「ぬわーーー!」と頭を抱えて叫んだ。

 ところがもう長い付き合いになるリュカである。またエマのマイワールドタイムが始まったかと、特に気にする様子もない。


「頼みますよ」


 ポンと肩に手を置かれ、有無を言わさぬ迫力の篭った笑顔を向けられ、エマは押し黙る他なかった。


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