偽物笑顔の暗殺者―嘆きの精霊バンシーに取り憑かれた青年の行く末―下読み結果(文:Kei.ThaWest)
さて、下読み企画一回目である。初回なので下読み結果のフィードバックの前に少し雑談を。
本企画はよくある“評価シート方式”を採用しないところにその特色がある。評価シート方式とは、下読み対象の作品を文章力、構成力、キャラクターのような様々な要素ごとに分けて評価点を出し作者にフィードバックするやり方の事だ。
これはパッと見、いかにも“ちゃんと下読みしました感”が出ていて優れた方法のように思えるが、思わぬ落とし穴がある。
考えてみて欲しい。
あなたはテストの点数が80点だった時、内容の見直しを行うだろうか。あるいは90点だったら、100点だったらどうか。こんなに高得点であれば、何も問題はないと判断し見直しなど行わないだろう。
客観的に正誤の存在するテストならまだしも、正解などない創作の分野に評価シート方式を採用した場合、作者がシートの返却をもって満足してしまい全く改稿を行わないケースが発生してくるだろう。現に、僕はそういう例を知っている。
もちろんこんなものは作者の心掛け次第なところはある。あるのだが、もし、自作がウケないことに悩んでいる作者が下読み企画に作品を提出し高評価をもらってしまったら、「あなたの作品は素晴らしかったです」と太鼓判を押されてしまったらどうなるのか。最悪の場合、「こんな高評価をもらえる作品が読まれないのは読者の質が悪いせいだ」などと歪みまくった意識を持ってしまうことも充分考えられる。
評価シートはわかりやすく魅力的でもあるが、作者の側にちゃんとした心構えがなければもらった時点で“完結”してしまい、真に重要な作業が疎かになるリスクもまた、孕んでいるのだ。
転じて本企画はどうか。
評価シートなど端から作らない。授業の内容を色ペン等を駆使して丁寧にメモするような無駄は必要ない。
問題点を挙げ、指摘し、改善提案を出し、後は作者に対応を丸投げだ。実にわかりやすい。
と、ここまで色々語ってきたが勘違いされないように言っておくと、評価シート方式自体を否定しているわけではない。自分達のやり方の方が優れているとも思わない。
ただ、作者に問題意識を持ってもらいたいなら下読み結果は生々しく叩きつけるのが良かろうと個人的に思っているだけなのだ。
なので本企画や別の方の下読み企画に応募を考えている全ての作者に予め言っておきたい。
作品をより良くする努力は、自分でやらなくてはならない。
誰に意見を伺ったところで、主観全開の答えが返ってくるだけだ。創作とは孤独な作業なのだから。
よって本企画に提出した作品が仮に下読み人によって酷評されようとも気を落とす必要はない。それもまた主観でしかない。
我々は可能な限り客観性のある下読みをしたいと考えている。が、正解ではない。
再度、言っておく。
本企画のフィードバックを受けた後、どのようにするかは作者の皆さんの自由だ。
まずは気楽に構えて、作品の向上に使えそうな知見だけ盗んで帰るような心持ちで読んで欲しい。
では、下読み企画スタートである。
対象作品:偽物笑顔の暗殺者 ―嘆きの精霊バンシーに取り憑かれた青年の行く末―(作:猫屋敷たまる)
ジャンル:ヒューマンドラマ
文字数:38万字以上
総合評価:230
今回、作者様から伺った自作のウケない理由は以下の通り。
【ウケない理由】
それが分かったら苦労してません!(笑)
そもそもにして、PVが低い。連載当初から。恐らく、手に取ってみようと思わせる「何か」が足りないのだとは理解してます。
これを見ると、PVが低いことを気にかけておられるご様子。読者に対する訴求力が足りないという自覚症状もあるようだ。
ということは今回の下読みにおける目標は、作品の魅力となる部分をしっかりアピールしてたくさんの読者を呼び込もう、ということになる。
この点を念頭に作品を読んでいくことにする。以下、細かく分けて見ていこう。
まずタイトルについて。
なろうのタイトルとしては適切でないと感じた。なろう小説はタイトルが命。
タイトルの付け方は、誰が(あるいはどんな個性を持った存在が)、どこで、何を目的として動き(あるいは何の影響で)、結果的にどうなるか、というような内容を可能な限り一般名詞のみを用いてまとめるのが上策だと思う。つまり作中の固有名詞の使用は避け、長文説明タイトルにするのが勝ち筋。(もちろん例外はあります)
では『偽物笑顔の暗殺者 ―嘆きの精霊バンシーに取り憑かれた青年の行く末―』というタイトルはどこが問題か。
まず、何をする話なのかがはっきりしない。このタイトル中から拾える情報だけで作品の内容を推理するなら、まぁ暗殺という単語があるし裏稼業についてのお話かな、くらいなものだ。
“偽物笑顔”“嘆きの精霊バンシー”は固有名詞に近いのでタイトルのみで意味を察するのは困難だ。バンシーというキャラクターも知名度的に見てややマイナー。
そして何がウリなのかもこのタイトルからは見え辛い。ランキングページにずらずらーっと作品タイトルが並んでいる中にこの作品が紛れ込んでいても、読者に読んでもらうのは難しいと言える。
次にあらすじについて。
暗殺者である青年、蓮は【嘆きの精霊バンシー】に取り憑かれている事により、特殊な方法で暗殺任務を遂行する。しかしそれは任務の為だけでは無く、自分自身の為でもあった。
記憶も無く感情の乏しい、天涯孤独な青年、蓮。
彼は仲間たちと共に暗殺依頼をこなしながら、やがて所属する暗殺組織やバンシーの謎に迫ってゆく事となる……。
というような文章になっている。これももっと膨らませていい。暗殺組織がどういう性質のものなのか、蓮が行う“特殊な方法”とは何か、自分自身の為とはどういう意味か、くらいはあっても良いかと。
あと“天涯孤独”と書いた次の文で“仲間たちと共に”はちょっと個人的に引っ掛かるところ。
あらすじの後半は、読者に対するアピールを行っておきたい。どういう読者層を想定しているのか、どういう部分を見て欲しいのか、が作者の中で明確であればそれを。はっきりとしていなければ、この作品のアピールポイント(出来れば不特定多数の読者に刺さるような)を書いておくと良いのではないだろうか。
以下、本文について触れてゆきます。このレポートをお読みになっている方で当該作品を読んでみたいと考えている方は壮絶なネタバレを含みますのでお気をつけください。
以下は僕が一章を読む際に簡単なメモを取ったもの。自分用なのでさほど重要ではないが参考までに。
序盤の展開
1話 蓮の説明。ターゲットのバックボーン。蓮の能力の説明。バンシーについて。
2話 蓮の暗殺の解説。依頼者とターゲットの結末。
3話 雫の説明。組織について軽く触れられている。
4話 灯里の説明。新しい依頼。
5話 蓮と灯里の情報収集。
6話 クズカップル双方の事情について
7話 依頼人の正体
8話 バンシーの呪いの本質
9話 呪いの発動場面
10話 蓮の能力について春樹の所感。組織の長官について
11話 暗殺前の最期のターゲットの動向
12話 暗殺の実行
13話 蓮の感情の変化、事後確認
14話 依頼の官僚と長官について。関係者のその後
15、16話 遊園地にて(一章エピローグ)
1~3話までは作品の導入部。主人公とその能力、暗殺方法と組織についての話。
4~16話までが実質的な一章の内容。
ここは3話までを切り離して“序章”とでもした方がいいような気がする。4話以降新しいストーリーが始まってしまっているので。
この一章は読者が最初に読む部分なので言うまでもなく最重要。作品の玄関みたいなものなので、ここが散らかっているとお客さんはすぐにブラウザバックしてしまうだろう。逆にここをしっかり作っておけば二章以降はまず読んでもらえる。
詳しく見ていこう。
まず読みはじめから強烈に気になった点。
バンシーの能力についての説明がわかりにくい。ここは結構致命的。何故ならバンシーの能力こそが主人公の暗殺の肝だからだ。
バンシーの能力とは何か。1話では“死を告げる”と曖昧な記載にとどまっていることが気になる。呪いとは具体的にどのようなものか。2話における“だが、蓮は玉に嘆きの呪いを纏わせていた。呪いを纏った玉は、物理法則に従わず天文学的確率をも無効にする。”が効果なのか。
これはもう少し読み進めると答えらしきものにたどり着く。どうやら“対象にとって最大級の不幸をもたらすこと”のようだ。
このいかにもふわっとした能力の描写は本作の弱点だと思われる。バンシーの能力について厳密に定義しすぎると物語の幅が狭まるという事情もあるのだろうが、やはり主人公の特殊能力なので明快な書き方をしてほしいところ。
なお、個人的にはこの能力の存在感が弱い気がした。つまりあえて暗殺にこの能力を用いる必然性を感じなかった。
次に主人公の説明も少し釈然としない。
喜怒哀楽の“楽”以外の感情が極端に乏しい主人公ということらしいが一章全体の描写から僕が受けた印象は異なっていた。たんに感情の起伏に乏しい人物に思えたのだ。“楽”の部分がほとんど見えてこなかった。非常に物静かな人物というイメージに留まっていた。
物語は三人称でカメラを複数のキャラに移動させつつ進行してゆく。このことも、主人公である蓮のあっさりとしたキャラクターを悪い意味で際立たせている。“偽物笑顔”の説明も物語の本筋には特に関わっていないようだ。
が、恐らくなのだがこのタイトル、このキャラ付けからして本作は、“偽物笑顔”の主人公がバンシーの呪いから解き放たれることで記憶を取り戻し本物の笑顔を獲得することでフィナーレを迎える構成になっているのではないだろうか。
そうなると何とかして“偽物笑顔”を掘り下げておきたい。加えて“楽”の部分ももっと書いていいと思った。今のままでは無感情なサイコパスのようで少しかわいそう。
主人公サイドは4人のキャラクターで構成されているが、彼らの作中における役回りももう少し書き分けてほしい。暗殺組織のメンバーなので、もっとエキセントリックなキャラ造形でも良いと思う。
個人的には蓮のカウンセラーである雫は組織の人間ではなくあくまで一般人とした方が良いのではないかと。雫は最も常識人なので、暗殺組織の人間と知らず蓮のカウンセリングをしてゆく中で彼の闇に触れたり、謎の組織の存在を知ってしまったりした方がスリリングな物語になる気がした。あと一般人視点を一つくらい入れておいた方がメリハリが出るという側面もある。
暗殺組織についてだが、あまりに気軽に一般人がコンタクトを取りすぎだと思う。
一章の範囲では興信所経由でしかたどり着けなかったからまだよかったものの、二章になると“大手検索サイトの検索にはヒットしないよう、かつ心から求める人には辿り着けるよう絶妙な細工を施した新規サイト”であるはずの依頼受付用のサイトに、ひやかし半分の学生が大量にたどり着けているガバガバセキュリティはどうしたものか。
この物語は随所に実在の地名を用いたり実在の薬品の記述を行ったりしている。ということは読者としてはリアル指向の作品として読むだろう。舞台も現代日本だし。ならば物語への没入感を高める仕掛けは工夫をこらして欲しい。あるいはこんな些末な設定など気にならないほどキャラや展開が尖っているならいいのだが、突き抜けた部分より全体に漂うしんみりした空気感で売っている本作は、読者が随所で引っ掛かりを覚えやすいかもしれない。まぁ僕が設定にうるさいタイプ、というのもあるのだが。
さて、先に気になった点を並べてみたわけだが、ここからは逆に特筆すべき点を挙げていきたい。
何より僕が読んでいて素晴らしいと感じたのは、依頼人やターゲット、いわゆるゲストキャラの造形である。非常に生々しく、小物感やクズ感があって、いかにも小悪党らしい秀逸なキャラクターが揃っている。主人公サイドのキャラが妙にいい人揃いで影が薄いのに比べ、こっちサイドのキャラは本当に活き活きしている。僕としてはこっちのストーリーをもっともっと読みたかった。
そして、この作品の主たる部分である“復讐代行”について。
これ実はなろうに限らず古今東西、いつの時代も非常に人気のジャンルである。
か弱い被害者に代わって悪に制裁を加える裏稼業の者達の活躍! こんな謳い文句、どこかで見たことあるでしょう?
なろう風に言えば“ざまぁ”だ。今まさに求められているジャンルではないか。
本作をもっともっと読んでもらう為に抜本的な改善に乗り出すとして、僕ならまず、ターゲットを徹底的にクズ野郎に描いて、“復讐”や“ざまぁ”のカタルシスで攻めると思う。で読者のほの暗い欲求を満たしてあげるわけだ。
ただ、恐らく作者様の意図するところとは異なってくるので強くオススメはできない。むしろ作者様の狙いはキャラクター達の“哀しみ”にあるようだからだ。
けれど、ジャンルとしてはなろうで戦う上で決して不利がつくものではない。書き方次第で十分爆発させられるポテンシャルを秘めている作品だ。僕はそう感じた。
ちなみに、だが。
作者様の活動報告を眺めているとどうやらそう遠くないうちに本作は完結になりそうだ。この場合、改稿など放っておいて何よりも先に物語をしっかり完結まで書き切ることが望ましい。
それなりのボリュームがある長編作品を一本完結まで導くと、作者には大量の経験値が入る。全面改稿をするにしてもそれからで構わないと思う。
僕が詳細を読み込んだのは一章だけであるが、さっきも言ったように改稿の中心になるのはこの一章だと思う。やるなら徹底的に、だ。
ここでつらつらと書き進めてきた下読みのまとめに入ろう。
なろうで本作がPVを最大限稼ぐ(=人気作品となる)為には、もっとお話をわかりやすくするのが効果的だろう。
1.タイトルとあらすじの再考
2.主人公の能力をもっと明快に
3.主人公のキャラクターをもっと個性的に
4.復讐、恨みを晴らすといったテーマを前面に
こんな感じか。けれど本来の作風とは全く異なった方向での改変を推奨しているわけで、この辺は受け入れがたいこともあると思う。冒頭でも言ったが無理に変える必要はない。作品の完結が可能ならまず終わらせて、それからじっくりと改訂版を進めるという手もあるからだ。あるいは新作を始める際にこういうテーマを扱ってみるのもよかろう。
とにかくweb小説は明快さとスカッと感があれば伸びやすい。特に改稿の際にオススメしたいのは現行の1~3話についてはプロットを変更し1話でまとめ、依頼人かターゲット、ないしはその両方をもっとクズに描いて暗殺の際の“ざまぁ”を演出すること。これなら続く4話以降は中身をほとんど変えずに済む。1話は試し読みなので少々長くても読んでもらえるだろう。だいたい5000字以下でまとめると読みやすいのではないかと思う。
バンシーの自己投影パートについては、序盤から読者に感情移入させるのは困難なので(キャラに愛着もないし設定も知らないから)あっさりとした記述に留め、標的となるキャラクターの描写を増やして、殺されることの必然性とカタルシスを前面に。主人公のバックボーン等については実質的な本編である4話以降で説明していけば充分だろう。
以上。
結構厳しい意見を述べた気がするが、あくまで一個人の主観である。参考程度にして頂きたい。




