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Gauloises  作者: 尾川亜由美
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序章

Gauloisesゴロワーズ


新しいシリーズの一作目です。もう完結しているので、ちょくちょくあげていこうかと思います。

私立探偵ベルナールと、脚本家を夢見るリディ。

好意を隠さないリディと、恋に奥手なベルナールの行方は…。

俺には、宿命だとか運命だとか、造り上げられた言葉は似合わない。

俺のすべてはいつも、偶然の出来事だった。



Gauloises



―――目の前に座る、恰幅の良い初老男性は、指輪がはめられた中指を擦りながらぼうっと宙を眺めていた。

幾らか漂う、煙草の臭いは何年か前から、若い愛人の女のススメで変わったと知っている。

嫌悪している香りなのに慣れているのは、俺の唇が銜えているものが“同じ”であるからか。


気取ってつけている結婚指輪に視線を落としていた彼は、やがて琥珀色の瞳をこちらに向けた。

「ベルナール。元気そうで何よりだ。何年ぶりかな?母さんが出て行った後だから…。」

「もう、彼是10年は経つ。貴方と別れて暮らすようになってから。」

煙草を左手の指で挟み、答えると彼―――父であるアベルの口元に微笑みが募る。


アベルと絶縁したのは、高校生の頃だった。

父母と一人息子である俺の三人家族は、小さな商社勤めの父に似合う中流家庭で、仲も至って普通だ。


俺の母は、アベルから見れば二人目の妻でまだ年若く、芽の出ない女優を生業としていた。

上手くいかない仕事のストレスのうえ、アベルの唐突な裏切りで、何も言わず家を出て行った。

その内容を知った時、俺もこの男には完全に愛想が尽きた。


「――今日は感動の父子再会ってワケじゃあないんだ。客として来てる。

女を探してほしいんだよ。お前と同じぐらいの年頃の女だ。」

「人探しは確かに仕事としている。だが、申し訳ない。貴方の仕事だけは受諾できない。」

「私が憎いからか?仕事と私情をごちゃ混ぜにしちゃいかんよ、プロならね。」

黙ってアベルの視線を受け止めていると、彼はセカンドバックから一枚の写真を取り出し、

コーヒーテーブルに投げた。


新緑が芽吹く夏頃の公園をバックに、買い物袋を引っ提げている女が映っていた。

意志の強そうな薄青色の瞳に、顔の真ん中で分けた濃い金の髪が派手な容姿で、

俺はその写真を取り上げる。


「名前はリディ。駅前のカフェで働いているんだが、無断欠勤で連絡が取れないんだとかね。」

「…この女は新しい愛人か?」

憂鬱な気持ちで、写真を放すとアベルは首をゆっくりと横へ振る。

「いや?この子はマノンの一人娘だよ。家に居ないとあいつが騒いでいる。

これでも、ひとかけらぐらいは人情があるからね。

お前に探してもらって、マノンを安心させてやりたいんだ。」


アベルの仕事の同僚である女性、マノンの名を出されると何とも言えなくなる。

この男を父と慕っていた時。よく家に来ては、子供好きであることから俺を可愛がってくれた。

多忙な母がよく家を空けていた為、様子を見に来ては夕食を振る舞ってもらったこともあり、

その恩はまだ覚えている。


煙草を取り出し、喫いながらアベルはにやっと笑った。

「ベルナール。お前の為じゃない、マノンの為さ。恩返しをしたくはないか?

ああ、イエスかノーで良い。お前の気取った“貴方”って言い方は好きじゃない。」

指で遊んでいた煙草を灰皿に入れる。


わかってる。アベルは、この件を俺が断らないと踏んでいる。

この狡猾な男は、いつだって俺のことはお見通しなんだ。

そうやって、何年も俺と母を騙してきたんだから。


高校生の時、一度でも言いたかった言葉を呑み込んで、俺は小さく頷く。

どうしてか、嬉しそうなアベルの顔に、テーブル下で組んだ両手は軋むように震えた。


序章でした。

テーマになった煙草がフランスっぽかったので、名前もそれらしく。

少し長くなりますが、お付き合い頂けるとありがたいです。

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