第1章 【岩陰からの出発】
気がつくとアダムは姿を消していた。
あたしは腰掛けていた岩陰からゆっくりと立ち上がり、大きく伸びをして、次はどこの星へと旅立とうか考えた。
一晩この岩陰で居眠りでもしてから、出発しようか。
その時だった。
オーロラがグニャリと揺らぎ、星空から微かな声が聞こえて来た。
ガガ…ガ…と機械音のような音に混じり、聞き取れない。
あたしは顔を顰め、星空に耳を傾けた。
「S.O.S」
聞こえた。見知らぬ女の声だ。
あたしは特にそれを気にも留めず、今日は岩陰で居眠りをして、明日出発しようと決めた。
そして瞼を閉じ、深い眠りへと落ちていった。
ー… 目が覚めると、すっかり朝になっていた。
風が強く吹いていて、肌寒く、昨日より雲行きが怪しい。
酷い嵐が来る予感がしてならない。
あたしは一刻も早く、次の星へ向かわなければと立ち上がった。
そして近くに置いておいたロケットに高いヒールで乗り込み、次の星へとエンジンを発信した。
「やっぱり、ここが一番落ち着く場所だな」
ロケットの中が所謂あたしの住処のようなものだ。
あたしは宇宙飛行士では有るが、スパイでも無ければ、これを仕事でやっているのでは無い。
単なる趣味だ。義務的なものに興味など皆無。
金色の短髪にモノクロボーダーのニット。
鈍色の赤のショートパンツに黒色のタイツ。
そしてブーツのような高いヒール。
いつも同じような格好をしている。
そして今日追加されたのが例の三日月のピアスだ。
果たしてこれは何の役に立つのか。
アダム曰く、不思議な力を持つピアスらしいが…。
とりあえず腹が減ったのでロケットの中で食事でも済ませておくか。
あたしはロケット内の宇宙食を取り出し、封をビリビリと素手で開けてあれやこれやと口に放り込み出した。
宇宙食は大量に用意してある。
アイスも有ればパンも有る。
ラーメンやうどんや焼き鳥も有る。
こうして夜空の星を飛び回り、宙を舞いながら食す宇宙食はあたしにとって最高に旨い。
その時だった。
ガタタ。ガタン!
ロケット内部から微かな音がした。
「……?」
あたしは又もや顔を顰め、内部を確認した。
「おい。誰か居るのか」
あたしは警戒心を示しながらもむしゃむしゃと宇宙食を貪り食い、声を掛けた。
ゴトン!!!!
唐突に重い鉄パイプのような金属音と共に、背後に何かが落ちる音が盛大に響いた。
キーン……カラン。コロン。
後にその余韻の残る音が続く。
あたしは特に動じず、音の正体を確かめようと背後を振り返り其処に目をやった。
その正体に、あたしは顰めっ面を崩さない。
小さなロボットがあたしを見上げていたのだ。
フクロウのように丸く、身体は全身黄色。
目は青いランプで出来ており、六足歩行の小型ロボットだ。
「誰だ。お前。侵入者か?名はなんという」
あたしは冷酷な目でロボットを見下ろしながら、問い掛けた。
ウィーン。ポン。ガシャン。ウィーン。
ロボットはあたかも自分で自分がロボットだと認識していないような動きで、小首を傾げながら、問いに答えた。
「ワタシノ ナマエハ バーソロミュー」




