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Time is over  作者: 十色市
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第6話〜行先〜

「よう。新婚生活はどうだい?」

「いやいや、色々と大変だよ。生活用品で足りないものがまだ多くってさ…。冷蔵庫にテレビ、キッチンとエアコンがあればなんとかなると思っていたけど、少し考えが甘かったよ」

「それでも、楽しく過ごしているんだろう?」

「まあ、それなりにね」

真っ先に小柳に話しかけたのは金井。

やたら彼女の生活に対する質問している彼を見て、

彼も本気で同棲を考えているのかと思ったりした。

彼らの会話が一息ついた頃合いを見て、僕も彼女に話しかける。

「結婚式の写真はもう出来たのか?」

「うん。今日は会社帰りだから持って来ていないけどね。今度持ってくるよ」

「期待しているよ。新婚旅行はまだなんだっけ?」

「来月にオーストラリアに行く。何かお土産で欲しいものとかある?」

「オーストラリアのお土産って…アボリジニーのブーメランくらいしか思い浮かばないな」

「カンガルージャーキーとかは?」

「うまいのか?」

「さあ?」

さしてオーストラリアに興味があるわけでもないけれども、

思いつく話題らしい話題がなかった。

「いらっしゃい。花嫁さん」

店の奥から店長の登場。

懐かしい顔ぶれが揃うと、

大人になっても10年前と僕らの関係はさほど変わっていないんだと思う。

ただ一つ、僕と小柳の関係を除いては。

「いやー、でも本当に久しぶりじゃない?こうして昔のメンツで集まるなんて」

「結婚式のときも全員集合していたでしょ」

「あのときは、私はみんなとあまり絡めなかったからさ」

それからというものの、くだらない世間話をしたり、会社の愚痴から恋愛話、

ありとあらゆる話題が飛び交い、僕らは店の閉店時間を迎えるまで皆バカ騒ぎをした。

そんなこんなで閉店時間を迎えると、僕らは杉山にお礼を言って店を後にする。

本当は彼も一緒に交えて飲みたかったのだけれども、

「これから店の片付けが残っているから」

と食器を片付ける彼を連れ出すわけにも行かずに、

僕らは4人でそれぞれの家路に着くことなった。


「それじゃあ俺はこっちだから。またな」

しばらくみんなで並んで歩いた後、最初に別れを告げたのは金井で、

「私もここでお別れだね。今日は楽しかったよ。またみんなで飲もうね」

次に宮本が僕と小柳に別れを告げる。

偶然かあるいは仕組まれたシナリオなのか分からないけれども、

残ったのは僕と小柳の二人。

二人で歩くのは公園で別れてから以来で、僕の左側に歩く彼女を見て僕は少し緊張する。

「地下鉄に乗って帰るんだろ?駅まで送るよ」

「ありがとう。でも、その前に1つお願いしていい?」

僕を少し見上げながらそう言う彼女。

思い出がフラッシュバックしそうな光景だ。

「ああ…なんだ?」

「久しぶりにあの公園に行かない?」

彼女の口から出た思わぬ提案。

僕の奥のほうで止まっていた時計の針が動き出すのを感じた。


「いやー、10年前とほとんど変わっていないね」

そう言いながら、夜景を眺める彼女の姿を僕は黙って眺めていた。

あれから10年。

二人とも大学生になって卒業し、そして今は社会人として働くようになった。

あいにく僕は、その間に新しい相手を見つけることは出来なかったけれど、

彼女は結婚して、楽しい新婚生活を送っている。

僕らは間違いなく10年の間に色々と変わった。

だけど、夜景を眺めながらそう言う彼女の姿は10年前より少し大人っぽくなっただけで、

紛れもなく僕が知っている小柳有里だった。

「そういえば、ここでお互い30歳になっても相手がいなかったら、結婚しようなんて言ってたっけ?」

「ああ、そんなこともあったな」

「私は結婚したからね。次は淳の番だよ」

いたずらな笑みも相変わらずだ。


「なあ、一つ聞いていいか?」

「なあに?」

僕は一呼吸おいて話しを始める。

「最後に二人でここに来たときに、俺は有里から大学受験が終わるまで会うのをやめようと言われてフラれたと思ったんだ。無理もない。俺は正直言って、フラれても仕方ないようなことをしていたから。だけど、もっと違う結果があったんじゃないかって考えるときがある。二人で手を繋いで公園に行き、遠くに見える夜景を二人で肩を並べて眺めたり、海に行って砂浜で二人の並んだ足跡を見比べてみたり、そんなことも出来たんじゃないかって」

「淳…。私はさ、あの時別れるつもりで言ったんじゃなくて、私は大学受験に集中したかったし、それに淳にとってもそのほうが絶対にいいと思ってそう言っただけだったんだよ」

「有里が俺に不満を感じていたのは分かっていたよ。だけど、それに気付かないふりをして過ごしていた。いつかフラれるかもしれないって感じていても、僕は君を必要としてなんていないって自分に言い聞かせたりしてさ。ずっと言えなかったけど…。僕は10年前、有里のことが好きだった」

ようやく言えた。

「うん」

彼女は僕にそう一言だけ答えた。

彼女も分かっている。

僕が今更、彼女とよりを戻そうと思ってこんなことを言ったんじゃない。

ただ、一つのことに終わりを告げるのに僕にはどうしても必要だった。


「お前は30までに結婚したからな。俺も頑張らないといけないな」

「いい相手でもいるの?」

「どうだろう?僕を飲みに誘ってくれる女性はいるけど…。まだ紹介出来るような関係じゃないよ」

「淳がそういう風に言うってことは、紹介出来るような関係でなくても、そういう気持ちはもっているんでしょう」

「それは考えすぎだよ」

僕はそう言いながらも、彼女には適わないなと思い、自然と笑みがこぼれる。

「また自分で気付いていないふりをしているだけじゃないの」

「言ってくれるね」

「伊達に10年以上友人やってないからね」

「お前も幸せになれよ」

「ありがと」

それからしばらくして終電の時間が近づいてくると公園を出て、

駅まで彼女を送り別れを告げた。

公園から駅までの帰り道も互いに憎まれ口を言い合うような会話だったけれども、

僕らは昔からこんな風にやりあう感じのほうが合っているんだと思う。

駅から自宅に戻る帰り道。

一人きりになった僕は携帯電話のメールの受信メール欄を開き、


-喜んで。来週の週末にでも。


と打ち込み、送信ボタンを押しベッドに横たわった。

少し飲みすぎたせいか、頭がグラグラしていたけれど、

その日僕が見た夢は、大人になった僕と金井、宮本に杉山、そして小柳がいて、

僕の横にはメールを送信した人が僕らのバカなやりとりを見て笑っている。

そんな夢だった。


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