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Time is over  作者: 十色市
3/6

第3話〜予感〜

「あっ電話。ちょいと待ってくれ」

僕にそう言い、電話に出る金井。

電話を手に話をしている彼を見て、僕も携帯電話の受信メールの画面を開く。


-お疲れ様です。いつも手伝ってくれて本当にありがとうございます。

この前、友人と行ったお店で会社の近くでおいしいお店を見つけたんです。

今度、よければ御礼も兼ねて一緒にご飯でも食べに行きませんか。


会社の同僚から届いたメール。

相手の女性に好意を持ちつつあるものの、僕は踏み出すことが出来ない。

「おっ、なんだ?女性からのお誘いか?」

僕の横から首を伸ばし手元を覗き込む金井。

「人の携帯電話を覗きこむなよ。まあ、そんなようなもんだ。そういうお前はどうなんだ?」

「ああ、この間の結婚式の2次会で出会った人からだよ。来週末にディズニーランドに行く約束をした」

「そうか、そりゃよかったな。お前もそろそろ身を固めたらどうなんだ?コロコロ乗り換えてばかりいないでさ」

「人の心配よりお前は自分の心配をしろよな。自分で自分の感情を制御して、いつまでも自分に嘘をついて生きていくつもりか?」

「しつこい奴だなお前も。勝手に人のことを決め付けるなよ。俺はお前みたいに、先が見えないことが分かっているのに付き合ったりする真似をしたくないだけだよ」

「確かに俺は何度も付き合っては別れてを繰り返してきたよ。それは否定しない。だけど勝手にうまく行くわけないと決め付けて、心を閉ざすようなことをするお前は臆病者だ」

「…金井、お前は俺にどうして欲しいんだ?」

「俺が言いたいのは自分の気持ちに素直になれってことだよ」

自分の気持ちだって?

僕は本心から彼女の結婚を祝福しているさ。

それに僕らは気が合う仲ではあったけど、

似た者同士とはとてもいえないほど性格は違っていたし、

彼女が求めていることに僕は応えることが出来なかった。



僕と小柳が付き合い始めて、3ヶ月ほど経った頃。

僕らの通う学校の近くで殺人事件が起きて、マスコミや警察官に野次馬が集まり、

街はいつもと異なり騒々しく、学校でも下校の際に注意を呼びかけ、

教師が街をパトロールする事態になった。

「なんだか嫌な感じ。自分達の大切な空間を乱されているような気分」

「1週間もすれば落ち着くだろう。それまでに犯人が捕まるかどうかは別だろうけどさ」

「テレビで言うには通り魔の可能性が高いんでしょう?それだったら犯人が捕まるまで安心出来ないよ」

「テレビの言うことなんて当てになりゃしない。通り魔に俺々詐欺、こんな世の中ではいつだって安心なんて出来やしない。誰かを信じれば裏切られて、一人で歩いていると見知らぬ人に襲われる」

「随分とネガティブな発言だね」

「そうかい?」

「ま、淳らしいっちゃ淳らしいんだろうけどね。きっと君は誰にも騙されることなく、通り魔に襲われることもなく生きていける人種だよ」

彼女はたまに僕のことを君と言うときがある。

まるで他人のように君と言うときの彼女を見ると、

僕との距離が目の前にいる距離であるにも関わらず、

手の届かない場所にいるような錯覚に陥ってしまう。

「なんでそう思うんだ?」

「なんでって…そういう生き方をしているからだね」

なんだかしみったれた話になってしまったなと思い、

何か面白い話でもしようかと考えたものの思いつきはしない。


「自分と近い感覚の人間はいても同じ人間なんて絶対にいない。愛があれば全てを分かり合えるなんて奇麗事だ。自分と違う誰かに出会い、お互いを尊重し合って社会ってのは出来ているものじゃないのかい?」

「なんだか哲学者みたいな発言だね」

「少年よ大志を抱け!!ってクラーク博士が言っていただろう?」

僕はおどけてみせたものの、

「大志と哲学は別物だよ」

少し冷たい言い方で僕を突っぱねるように言う彼女。

最近こうしてお互いの主張が強くなるにしたがって、すれ違うことが多くなってきた。

付き合いはじめて3ヶ月。

倦怠期とまではいかずとも、初めの頃のようにはいかなくなってきている。

「そういえば、最近公園に全然行ってないな」

「そうだねえ…ねえ、高い丘から夜景を見た公園に行かない?なんだか急に行きたくなっちゃった」

「通り魔はまだ捕まっていないんだぜ。夜の公園なんて通り魔の大好物じゃないか」

「私は平気だよ。だって襲われそうになったら淳が私を守ってくれるんでしょう」

随分と自分勝手で他人よがりな発言だななんて思いつつも、

僕はそんな彼女の発言に胸が熱くなる。

「あいにく僕は殴りあいは得意じゃないんでね。少林寺拳法の使い手の杉山とは違って、素手で凶器を持った相手に勝てるとは思えないよ」

「なんでそういうことを言うかね。結果として守れなくても、守ろうとする姿勢に感動するんじゃない」

幻滅したといった態度で有里が言う。

「守れる力のない奴が口先だけ守ると言って、守り抜けないっていうのは最低な行為だ。それになんの意味もありはしない」

「結果重視ってこと?プロセスだって大切だし、少なくとも私は守ろうとするその姿勢が素晴らしいことだと思うけど?」

「それじゃあなんだい?相手を養うお金も持っていないのに、愛だなんだと言ってゴムなしでやるだけやって子供が出来る。責任も取れないけどその愛とかいうプロセスが立派だって言うのかい?」

「それと今の話とは全然違うでしょ」

「一緒だよ」

「全然違う」

「一緒だ」

気まずい空気が僕ら二人の間に流れた。

僕だって彼女と口喧嘩したいわけじゃない。


「なあ、地元はこんな状態だし、今度の週末にでも何処かに出かけないか?」

「何処かって?」

「そうだなぁ…何処か行きたいところある?」

「ディズニーランド。それに温泉にも行きたいし、六本木ヒルズで買い物もしたいし…」

それからも次々と口にする彼女が行きたい場所。

行きたい場所ある?と聞かれて、何処も思いつかない僕とは大違いだ。

「よくそれだけすぐに思いつくよな。本当に感心するよ」

「私は自分の気持ちに正直に生きたいから。好きなものは好き。行きたいところは行きたい。理由なんて分からないけど、私はディズニーランドに行って楽しみたいし、温泉に行ってのんびりもしたい」

「俺とは大違いだな」

「そうかもね。君は人との距離を測りながら生きているでしょう。もう少し素直になったらいいのにね」

また有里が僕に対して君と言った。

「…ユネッサンにでも行こうか?あそこだったら日帰りでも帰ってこれるしさ」

「ユネッサンって箱根だっけ?温泉というよりもプールに近いようなところでしょ?」

「ああ、そこだ。俺も行ったことないし行ってみようよ」

「了解。それじゃあ予定空けておくよ。また明日」

「バイバイ」

いつものバイバイする交差点に着くと、僕らはそれぞれの帰るべき家へと歩き出す。

ついさっき、「帰りに公園に行こうか?」なんて話をしていたのに、

結局、何処によることもなく、僕らはお互いに別れを告げ一直線に家へと帰る。

初めの頃だったらなんてことない事と思っているだろうし、

客観的に考えればさして気にするような事でもないのだろう。

だけれども、なんとなく僕と彼女の歯車が狂いだしているように感じた。

いつからだろう?


付き合い出す前まではうまくいっていたのに、

お互いがお互いのことが好きだと分かり合えたときから、

自己主張が強くなって、お互いが自分の望むものを相手に求め出す。

それがキッカケなのだろうか?

答えなんて分からないけど、

どこかで今の状態を修正をしなければこのまま僕達の関係は壊れていく。

そんな予感がした。


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