神の視点
ぶふぃ!今回は俺様、ブタの神ゴッドの視点だ。
マスターは、あまり自分のことを語らねえからな。
バガーン!
「ぶふぃ!今夜も来てやったぜ」
ドアは元気良く開ける。俺様が来たってことが、わかるようにだ。
「いらっしゃいまし」
マスターは「いらっしゃいませ」ではなく「いらっしゃいまし」と言う。関西出身じゃないから……らしいが、よくわからん。まあ、マスターがジェントルな豚なのは確かだぜ、ぶふぃ。
カウンター席に座ると、何も言わなくても酒が出てくる。「ワイルドピッグ」……俺様が愛飲してる酒だ。
「ぶふぃ、うめえ。うめえよ、マスター」
酒はいい。酔うと楽しくもなる。ただし、幻覚が出るほど飲んじゃいけねえぜ。
「ゴッドさん、ニック・スキャナーをご存知ですか?」
「んー?神聖肉食美食教会にいたニンゲンかい?ぶふぃ、知ってるぜ」
そんなのも、居たなー。
「そのニックが、最近客として来てるんですよ」
「ほーん。ブタ族しか入れない結界があるはずだが……少し前に、張り直したっけ。多分、ブタ族的な部分がある奴も入れるようになっちまったんだな」
「そうですか。つまりニックは、ニンゲンからブタへと進化しつつあるんですね」
「ま、そんな所さ」
俺は、グラスに残った酒を飲み干した。
「それで、そのニックなんですが。ニンゲン世界に伝わる、ブタが出てくる言葉を教えてくれました」
「ほう、ニンゲン世界に伝わる、ブタが出てくる言葉ね。俺たちの文化水準の高さを、模範にしようってことか。ぶふぃ、ニンゲンにも解ってる奴がいたんだなあ」
ん?マスターが、渋い顔をしてるな。
「それが……正直な所、訳のわからないものばかりなんですよ」
「ぶふぃ?例えば、どんなのだい?」
「自分の子どもを指して『豚児』って言うことがあるらしいです」
「ぶふぃ、そりゃもちろん頭が良くて可愛らしいって意味さ。親バカが言う言葉に、違いない」
「なるほど」
ぽん、とマスターが前足を打った。
「他には、どんなのがあるんだい?」
「ええと『ブタに真珠』でしたかね」
「なんだ、そんなことか。……ハナコちゃんが真珠を着けてるのを、想像してみな。つまり、『真珠みたいな価値あるものは、ブタ族にこそふさわしい』って意味に決まってる。ニンゲンにも、美のなんたるかがわかる奴がいたのさ」
マスターは、頻りに頷いている。まあ、もしヒトに真珠だったら「価値がわからんやつに、貴重な物をやっても無駄」って意味になるだろうぜ、ぶふぃ。
「流石はゴッド様、神の叡智ですね」
「ぶふぃ、まあな。また何かあったら、気楽に聞きな」
こうして、今夜もうまい酒をのんだ。
ゴッドの解釈は、ブタ族的な解釈であって、ニンゲン世界的には間違いです。 他にも幾つかのブタが出てくる言葉を使おうかと思いましたが、なんとなくやめました。
なお、ゴッドさんは、胡座をかいたまま飛び上がることが出来ます。