ニック・スキャナー
「いらっしゃいまし」
そう言ってから、後悔しました。入って来たのは、ニック・スキャナー。かつてわたしが潰した、神聖肉食美食教会の生き残りです。
「へ、へへ。睨まないでくれよ。俺はもう、あんたと敵対する気はねえ」
神聖肉食美食教会とは、「牛やブタはニンゲンのエサになるために神によって創られた」という教義に基づき、違法なブタ狩りなどを行っていた組織です。
美味い肉を喰うためなら、どんな非道なことでもやる組織でした。
わたしは、ニックを睨み付けました。
「ヒイッ!20人殺しのトン・ブヒーガーと争う気なんてねえよ」
「……なんですか?それは」
わたしは、ニンゲンなど殺した筈は無いのですが……。
「とぼけなくていいぜ。あんたらが出ていった直後、七色のデンキパイロットが爆発して20人死んだんだ。神聖肉食美食教会を解散するって言ったのが、その場しのぎのウソだってわかってて、爆発するようにしてたんだろ」
七色のデンキパイロットというのは、デンキパイロットシリーズの兵器の一つです。そいつに倒されると、脳髄からギョロギョロしたドス黒いモノを流して死にます。
実は、わたしではなく、助けてくれた方が、壊したんですが……。 あの方も、まさか爆発するとは思っていなかったのではないでしょうか。
「俺はあれから、肉を喰うのが怖くて、一週間に4回焼き肉行ってたのを2回に減らしたほどなんだぜ」
「……それが何か?」
「ヒイッ!……トト、トンカツだって、だいたい昼飯はトンカツだったのを2回に1回はカツ丼にしたぐらい反省してるんだ!……殺さないでくれ!」
ふと見ると、ニック・スキャナーは、ぶるぶる震えている。
「……ブゥ。お客様として来たのなら、敵には回りませんよ。で、何を飲みますか?」
「へへっ、や、安いヤツを、一番安いヤツをくれ」
わたしは、ワイルドピッグをグラスに注ぎ、ニックに渡しました。
「……ブタ族しか入れない結界があったはずなんですが、どうやって入って来たんですか?」
「へ?よくわからねぇが、教会が潰れたあと再就職した会社で『このブタ野郎!お前はクビだ!』って言われて落ち込んでたら、なぜかここに来てたんだ。結界なんて知らねえ」
……まあ、敵対する気はないようですし、お客様が増えて良かったと考えましょう。
「くうぉおお!この酒、美味ぇ!」