RPGが来たッ!!
「う~ん、剣の実力を試す場が欲しい」
「章始めから何を唐突にッ!?」
いつもの昼休み、学食にいつもの様に集った四人。坦々麺を啜りながら姫律はおもむろに血を求めだした。
「まぁ、この前の事もありましたしね。人間、力があれば使いたくなるものです。銃があれば撃ちたくなる、刀があれば斬りたくなる。新撰組の近藤勇も『今宵の虎徹は血に飢えている』だとか、年齢考えろよwww 見たいな事言ってたそうですし」
「精霊としてその反応で良いのかよッ!?」
「えぇ、僕は精霊であって常識人ではありませんし」
「まぁ、その辺はこの世界の精霊なんてやってる時点で分かっているけども……」
小希はため息を一つ吐き、味噌カツを口に運ぶ事にした。
「しかし大っぴらに人なんて斬られてたらこっちも寝覚めが悪いわよ……やるなら夜道で、私達に分からないようにやりなさいよね」
「あぁ、いや違う違う! 別にそんな辻斬りの様な真似がしたい訳では無い!」
人を斬りたいという衝動を抱いたと勘違いされた事を立ち上がり、必至に否定する姫律。確かに彼女の性格を考えればそんな辻斬り衝動の発現とは思わないだろうが、そう捉えられない事も無かったわけで。
「おい、ピペット。とうとう志意のヒロインを捨てた発言を姫律先輩は拾わなくなったぞ」
「あぁ、そうでした。小希くんに言われるまで僕もすっかり忘れていました。けどもう気にするだけ無駄なんじゃないですかね?」
他人の命よりも自分の寝覚めを気にする志意はそんな小希のしつこい気遣いも何処吹く風、姫律の発現について掘り下げる。
「腕を試したいってんなら、剣道場を回るとか、剣術の達人とかに勝負を挑んで回ればいいんじゃないの?」
「そう思ってこの前の土日で関東周辺の道場をしらみつぶしに回ったんだが……どこも手堪えが感じられなくてな……」
「まさかの道場破り済み!?」
「あぁ、看板もこの通り、ログハウスなら立てられそうな程に持ち合わせがある」
「いえ、ログハウスというのは棟木や柱などには強い木が必要になるんです。この材料では強度の面で問題が出てきますよ」
「いや、ピペット! まず姫律先輩がどうやってこのうん百枚の木の板を学食まで持って来たのかを突っ込めよッ!!」
小希が指差す先には確かに内装工事の業者でも来ているのか錯覚しそうな程の木の板が床に積まれていた。
「まぁ、せっかくだし今日はこの木の板を使って何を作るかを考えるか」
「いや、今日は……って、いつも何かしてるみたいに言わないで下さいよ。俺今日普通に家帰りますし」
「何ィッ!? じゃあ私はどうやってヒマを潰せばいいんだッ!」
「知るかッ!! 道場行くなりなんなりすればいいでしょ?」
「いや、この不況が続くコンクリートジャングルに囚われた現代人が今時、剣術一本で食っていけるはずが無いと何故分からん? 剣術家だって平日はネクタイ締めてスーツ着て、下げたくも無い頭下げて取引先回ってるに決まっているだろう」
「剣術どうこう、道場なにがしと言っておいて良くそんなリアリスト染みた事を……」
「まぁ、そうだとしてログハウスを作る事には賛成もしませんしね」
「くッ、き、貴様ら薄情なッ!!」
と、そんな話をしていたまさにその時だった。
――――スカラカ、チャコポコ、チャカポコチャカポコ
「なんだぁ、この精神に異常を来たしそうな不穏なサウンドは!?」
「あぁ、穴沢爺ですね……」
ピペットは小希曰く不穏なサウンドを奏でるケータイ端末をブレザーのポケットから取り出すと、画面を開いた。
「って、えぇエエェッ!!」
パリンッ!!
「ピペットがあまりの驚きに目が飛び出て、その勢いで眼鏡のレンズが取れて割れたッ!?」
「何よ、侵略者が来るのなんていつもの事じゃない。そんなに慌てる事無いじゃない」
「侵略者か! 来たなァ! ログハウスの件は残念だがまた今度だな!」
「い、いえ! それどころではありませんッ!! 皆さん、早くここから出ましょう、危険です! いや、ここから出たところで、逃げ場なんてあるのかどうか……」
「なんだ、そんな焦るほどの事」
小希があまりのピペットの反応に顔を顰めたその時だった。
「きゃぁあああぁぁアアアアッ!!」
小希達だけで無く、学食内にいる全員がその悲鳴の上がった方、中庭と続くテラスへと視線を向ける。
するとそこには緑や茶色の肌をした、革の腰巻を巻いた豚顔の巨漢がこん棒を持って学食内へと足を踏み入れる姿があった。
「な、なんだあいつら!」
「明らかにアルピジ系の脳筋パワーキャラ、あるいはエロゲのモブで使用されるオークじゃない!」
「なるほど! 相手にとって不足は無い、と言う事だなッ!!」
「今の志意さんの発言を聞いて飛び出すこれは、勇気では無く蛮勇な気がするッ!!」
ピペットの発言もしかり、しかしオークの目の前の女子生徒にその手はもう伸びていた。
「その汚い手を、退けろッ!!」
対タロス戦で遺憾なく発揮された機動力と剣術で腕を斬り飛ばす。
「うぎゃァアアァッ!! おいどんの腕がぁアアァッ!」
「だ、大丈夫だかぁ? オークどん?」
と、斬りつけられたオーク達はお互いを気遣う。
「おい、あいつら見た目の割りにいいヤツっぽい言葉使いだぞ」
「うん、なんだかエロゲ畑の人では無さそうね」
「良かった。エロゲ界からの方々では乗せる場所を考え直さなくてはいけなくなる所でした」
「ピペットのメタ発言はあれとして、お前らッ! ここは危険だ、早く逃げるんだッ!!」
そう言って姫律が学食内の生徒に向け、呼びかける。
そして刹那の静寂を挟んだ後、
「や、やべぇッ!! なんなんだよあいつらッ!!」
「逃げろ! 兎に角逃げろ!」
「え、でもちょっとあんな二人に無理やりやられるのも悪く無いかもッ……」
「何言ってんのよッ!! さっさと逃げるわよッ!!」
そんな具合にドタバタと生徒が学食から退避し始める。
「慌てるなッ!! 女子から先に逃げろ!」
姫律の声を聞いてか聞かずか、普段は三人並んでも通れる出入り口なのだが、そこまで到達する人の量と、出て行ける数が吊り合わず人が密集する。
「は、早く! 早くしないとオークどんが!」
「う、腕がぁ! おいどんの腕がぁ! オークやん!」
「お前らが来たからみんな逃げてるのに、お前らも逃げようとするなァッ!!」
最後尾で他の生徒と同じ様に慌てふためくオーク二人に思わず蹴りツッコみを入れる小希。それを受けると見事に床に突っ伏し、起き上がるなり言い訳を始めた。
「だ、だってこんな強いやつがいると思わなかったどん!」
「そ、そうだぁ! なんでこんな普通の若人が日本刀持っていて、あまつさえこんな太腕吹き飛ばすほど扱いに長けているなんて思わないやん!」
「やめろ! グロイから斬られた腕をこっちに見せるんじゃねぇッ!!」
「小希くん、もし仮にそいつらがRPGの世界だとか、それに順ずるファンタジーの世界から来たヤツらなら、倒せばボゥッ! と音を立てて消えるはずです!」
「ピペット、あんたのアルピジの感覚古くない?」
「えぇ、生粋のレトロゲーマーですから!」
「なるほど、この前のゾンビとは違い、死体は残らないのだな!」
それを聞いた姫律が刀を振りかぶり、目を輝かせる。
「ひ、ひィ!」
「お、おたすけ」
――――ボゥ! ……ボゥ!
「ホントにボゥって音した!」
「まぁ、死体が残らないのはいい事ね。もぐもぐ」
「志意さん、事が済むなり食事の続きを再開し、あまつさえ逃げた生徒の食べ残しまで手をつける火事場泥棒的発想のヒロインは新しいとは思いますが、需要は無さそうですよ?」
「しかし今回はどんなヤツが来たんだ? あいつ等はこの前でいうゾンビと同じく、侵略者が生み出した副産物であろう? ズズー!」
姫律は刀を鞘に戻すと、席に戻って蕎麦の続きを啜り始めた。
「生み出したか、連れて来たのかは定かではありませんが、しかし外からの者である事は確かです」
「で、さっきはなんで偉い驚いてたんだよ、ピペット? お前いつも侵略者が来てもそうそう慌てる事なんて無かっただろ?」
「それが、ですね。今回の侵略者の持つアナザーワールドエナジーが、僕と同等、あるいはそれ以上の精霊クラスの力の持ち主なんです」
「えッ……それって、世界丸ごとの改変だとか、人の人格まで弄れるって事かよ……」
「えぇ、それだけの力を、侵略者が持っているという事です。勿論、僕が健在である今は世界の改変にも気が付けますし、それを同じだけの力で正す事は可能です。しかし、この前のピーターの様に、簡単にはいかないと思います」
「兎に角教室に、校舎に戻るぞ、もしかしたら早退できるかもしれん!」
「え、理由そこッ!?」
姫律が早退したいが為、四人は校舎へと続く渡り廊下へと出る。しかし瞳に飛び込んできた世界は今までのそれとは違っていて……
「な、なんなんだこいつらッ!」
そこかしこにモンスターが闊歩していた。いや、半固形、半液体のぬるぷるしたまるっこい何かであったり、下半身が尻尾だけの鳥が居たりと闊歩という表現はまた違うのかも知れない。
しかし逆に言えば闊歩という一般的な表現に収まらない、枠に囚われないタイプの生き物がいるという事で……
「キシャァアアァッ!!」
「来るぞ! 私の後ろに隠れろッ!!」
「つい今しがたのオークやん、オークどんは日本語を話していたというのに!」
鳥と蛇を合わせたような有翼の怪物が小希達目掛けて突っ込んできたのを、姫律は迎え撃つ。 抜刀と同時に頭から尾までを二等分にする。
――――ボゥ!
「またこの音か」
「すっかりSEは固定の様ですね」
「まぁ、音付きって事はゲームかしらね? この前のトーマスの時も扉開ける時の音とか変ってたし」
「ぼさっとしてるな! 次が来るぞ!」
今度は鎧と剣を装備した骸骨が前方からやってきた。動きが遅く、それ程脅威には感じなかったが、姫律はさっさと倒す事を選び、蹴りつけ、倒れた所を頭蓋骨に刀を突き刺しトドメを刺した。
「いや、しかしまだまだうろついてますなぁ……こいつはそうそう害も無さそうだけど」
そう言って半透明、半固体、半液体の目玉がくりくりとした青い生き物を指で二、三回突く。
そうされてももにこにことした笑みを崩さず、その丸い目を小希に向けるだけであった。
「そいつ何で出来てるのかしらね?」
「まぁ、こっちの世界には無い物質かもしれませんね。透けて見える中身も、アメーバの様に何かしらの器官が見える訳でも無いですし」
志意とピペットは小希の後ろからその生き物を眺めている。するとその生き物は後ろの二人にも視線を向けるも、特に攻撃を仕掛ける事も無かった。
「おい、ピペット。その丸いのは別として、他の凶暴なやつらはどうするつもりだ? 幾ら私が風紀委員でもこの数は手に余るぞ」
「風紀委員=戦闘力の高さという方程式はともかく……そうでしたね、分かりました。小希くん、志意さん。何か武器を授けます、希望の物があれば仰ってください。これでも精霊ですからね、退魔の属性の武器、それと神々の金属、ミスリルで羽の様に軽い、鋼よりも丈夫な物を用意できますよ!」
「おぉ、マジかッ!! これは不幸中の幸い……男の夢と言えば剣だろ! 柄のところに宝玉とか嵌ってるのがいいな!」
「フフフ、小希くんもなんだかんだと男の子ですね。いいでしょう……トゥルーワールドエナジー! フルスロットル! マキシマム、オーバードライブッ!!」
「出た! 例のヤツだ!」
例によって詠唱と共にピペットが青白い輝きを佩びる。
「ず、ズルい! 小希、ズルいぞ! 私も精霊の加護を受けた両刃剣欲しい! それで横文字の必殺技叫びたいッ!!」
そう言いながら姫律は小希の襟首を掴み、ぐわんぐわんと揺らす。
「ここに来て姫律先輩のコンプレックスがッ!!」
そんなコントをやっていると、辺りは暗くなり、霧が立ち込め、そしてピペットの周囲を覆っている青白い光が宙に浮かんだ。
「こ、これはッ……!」
「す、すげぇ……!!」
そして光の中から現れた剣は銀色の美しい素材で出来ており、刀身にはこの世ならざる文字で何かが刻まれ、そして柄の部分には青く輝く宝玉があった。
「さぁ、小希くん。手に取ってください」
「あ、あぁ……あぁッ!!」
ゆっくりと宙を舞い降りる剣は差し出されたピペットの手の平の上に載った。
そしてピペットはその手を小希の方へと差し出す。
「聖剣、コマゴメピペットです……」
「うぉおおぉッ!! ここまで名前に台無しにされた剣が歴史や神話の中にあっただろうか!」
そう叫びながら聖剣コマゴメピペットを手にする小希。しかし物は本物だった様で、特別な訓練を積んでいない小希でも片手で持ち上げる事が出来た。
「いや、でも……これ、性能は確か見たいだな。すっげぇ軽い」
そう言って誰もいない方向に向けブンブンと刃を振り回してみる。それを片手でこなしているのだからこの剣は大したものだ。普通、竹刀であってもここまで軽々と片手で扱う事は出来ない。
「ずっちぃぞ! 小希!」
「気に入りましたか?」
「あぁ! 軽さも勿論だけど、宝玉も綺麗で、刀身に入った文字もなんて書いてるのか分からないけどカッケぇし、言う事無しだぜ!」
「あぁ、ちなみにそこには製作著作:ピペット駒込ってルーン文字で書いてあるんですよ」
「「ダッサッ!!」」
西洋剣の登場で踊るように喜んでいた二人がズッコケながら言った。
「えー、でも日本の方たちだって海外の大学の地名が入ったトレーナーとかシャツ着てるじゃないですかー」
「いや、だとしてもこの大きさで製作著作は無いわ」
「ホントだぞ! この大きさ、パーカーで言ったら胸部分に収まって無いじゃないか! その上で製作著作とか!」
「全く、注文が多いですねぇ……出しちゃったもんはしょうがないんで、それ使って下さいね。さ、志意さん、何かご希望の武器をどうぞ……あ、製作著作の文字を小さくしたりとかは先に言ってくださいね」
「M202ロケットランチャーがいいわ」
「「ロ ケ ラ ンッ!!」」
その答えに刀剣類装備二人の目玉が飛び出る。
「トゥルーワールドエナジー! フルスロットル……」
「「お前もお前で出すんかいッ!!」」
そして辺りは暗くなり、霧が立ち込め、青白い光が……
「地の文も空気読まずにコマゴメピペット出てきた時の描写を転用するなよッ!! 侵略者の作り出してきた世界観に全くマッチしてねぇじゃねぇか!」
「うわぁ、さっきと同じく、宙からゆったりとロケランが光に包まれ降りてくるぞ……」
「さぁ、どうぞ、志意さん」
「ありがと、態々予備弾薬まで」
そして志意はミスリル製の軽くて丈夫なM202ロケットランチャーを手に入れた。
「って、ロケランにも製作著作が書いてあるのかッ!?」
「ホントだ、しかも今回は日本語になってる!」
「いいわ、いいわ。武器なんてのは見た目じゃない、火力と手数よ。これだけ予備弾薬あれば問題無いわ」
そう言って志意は体に弾頭が付いたベルトを巻き付け、ロケットランチャーを構えてみせる。
「いよいよもってギャグ小説のヒロインでは無くなったな……」
「あぁ、なんならちょっとサバイバルホラー系のヒロインとかで居たらアリな見た目になっちゃてるものな……なんで前回これが出来なかったのか……」
小希と姫律はそれを見て表情を引きつらせる事しか出来なかった。
「さぁ、ではモンスターを倒して侵略者を探し出しましょう!」
「そうね!」
「すっげぇ腑に落ちないけど行きますか……」
「そうだな……正直私も武器出して欲しいとかもう言う気も失せた」
そして学食を出た時とは逆に、ピペットと志意が先行し校舎内へと入っていく。
「そうだ、あんたは武器要らないの?」
「おっと、そうでした。僕はこれで……大丈夫です!」
そう言ってピペットは詠唱を挟まずに、何処からかL字形状の鉄の棒を取り出した。
「渋いな、トンファーか」
「えぇ、攻防どちらにも使え、取り回しも良い武器です。随分長い事使っていませんでしたが、気に入っているんですよ」
武器を持ったとて笑顔を絶やさないピペット。精霊という位だから随分長い事生き、その間に争いもあったのだろうか、と小希の頭に過ぎる。
人類とて争いを繰り返して来たのだ。それらよりも長い歴史がありそうな精霊なんかにも戦争があったのかも知れないな、と少し武器に対して気に入っている、との言葉を選んだピペットが遠い存在に思えた。
そんな時、前方に雲に乗って移動するアラブ系の格好の紫色の肌の人を見かけた。
「あれも恐らくモンスターでしょう……志意さん、ここは弾を温存してください! 僕が行きます!」
「分かったわ!」
そう言うと普段の穏やかさからは想像も付かない、豹の様な速さで廊下を駆ける。
「だ、大丈夫なのか、アイツ!?」
「まぁ、落ち着け、小希。ここはお手並み拝見と行こう」
焦る小希の肩に手を置き、その動きを制す姫律。チラと姫律に目をやり、肩の力を抜くと小希は再びピペットに視線を戻した。
「フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!」
雲に乗ったアラブ系は見下す様に笑いながら、実際雲に乗っているのでピペットを見下す。
しかしピペットはそのモンスターを睨みつけ、スピードを落とすどころか更に増した。
そして、
「本来は好戦的な性格では無いのですが……世界を書き換えようとする者に、容赦はしませんッ!!」
その声と同時、床を蹴り付け、飛び上がるとピペットはその長い足で雲に乗るアラブ系モンスターの後頭部に蹴りを叩き込んだ。
「フォ! フォぉオオオぉオオオぉおッ!!」
するとどうだろう。瞬く間にモンスターは、
――――ボゥ!
と、音を立てて消えた。
「いや、トンファー使ってねぇじゃんッ!!」
「なんだか懐かしいネタね……」
「まぁ、トンファーって体術家の武器だし、まぁ私は納得出来ない事も無いが……」
あまりのボケっぷりに皆気が付いていない様だが、モンスターを武器無しで倒している辺り、ピペットのスペックはかなり高い事になるのだが……
そんな事よりも突っ込みどころを逃すまいと、その事実には誰一人触れぬまま先を目指すのだった。
「おりゃあッ!!」
「逃がしませんッ!」
「でぇええぁああッ!」
「よいしょ」
――――カチッ!
「ぎょわぁああぁッ!」
そして廊下に並ぶモンスターたちはM202ロケットランチャーの餌食となった……
「おい、志意! 俺達必死に戦ってるのに、空気読まずに指先一つで最強火力出すの止めろよ!」
小希の言うように、近接武器の三人があくせくダメージを稼いでいる間に、志意はロケットランチャーを担いでトリガー一つでモンスターを群れごと吹き飛ばすのだ。
隣でやられたらたまったものではない。
「何よ、あんたがカッコつけて剣なんて選ぶのがいけないんでしょ? 魔法使いだってべちゃくちゃ喋るだけで呪文唱えて敵の事倒してくんだから一緒じゃない。それにそんなデカイ包丁と焼夷弾の威力を比べて貰っちゃ困るわよ」
「志意よ、何故そのキャラ性と武器を前回発揮出来なかったんだ……?」
遠い目をした姫律が志意に訴える。確かにこれなら姫律の手を煩わせずとも、タロスを倒す事は容易かっただろう。
「そうですね、キャラ的にはトーマスと一緒に居たら大分様になったでしょうに」
「ってか良く考えたら前回ピペットがロケランをすんなり出してたら何も問題無く終わったんじゃねぇか?」
と、小希はある事に気が付くも、
「それは兎も角として随分モンスターの数も減ってきましたね」
「そうだな。ボスの前って敵が出なくなるってのは良くある事だけど、これもその前触れなのか?」
ピペットが前は前、今回は今回、と言ったスタンスで行く空気を出していた事、そしてだんだん疲れてきていたのでそのまま話を進める事にした。
「そうでしょうね。やたらと最深部か最上階を好むとろこもありますし、この階もあらかた調べ終わって、後は屋上、という事になりますね」
一階から次々にモンスターを倒し、各階の部屋を隈無く探して見たが、侵略者の姿は無かった。また途中で教頭の慣れない校内放送が入り、校内には小希らを除き、もう人っ子一人残っていない状況だった。
「間違いなく校舎の中に居るのか?」
「えぇ、穴沢爺が示しています。正直、測定不能の域にあるエナジーではありますが、場所だけは特定出来ていますから」
「と、なるとこの階段を上がれば、ラストバトルか……」
昼食時は刀を振りたくて堪らない風だった姫律も、表情に疲労の色が見える。
「みんな、おとりは頼んだわよ。私は気付かれないように戦闘に参加して後ろからぶっ放すわ」
「非情に効果的な作戦だ事……まぁ、それでいいよな、ピペット、姫律先輩?」
「ですね」
「そうだな、巻き込まれない様にだけ注意が必要だが、もう随分発射音も聞きなれたし、避けるのはそう難しく無いだろう」
「いや、多分それで避けられるのは先輩だけかと思いますが……まぁ、いいや、じゃあ乗り込むとするか!」
「ちょっと待って下さい」
階段を上ろうと足を踏み出した小希にピペットが声を掛ける。
「ここまでは雑魚モンスターの相手だったので、どうとでも成りましたが、ここから先は世界を改変しても尚存在し続け、モンスターまで生み出す程の敵です。どうでしょう、武器だけで無く防具なんかも装備して行きませんか?」
「出来るのか?」
「はい、ここで僕のエナジーをセーブした所で、負けてしまえばそこで世界は乗っ取られてしまう。なら、ここで多少消費したところで……と思いまして」
「それは助かるな。ぜひお願いしたいものだ」
「そうね、私も後衛とは言え、こんな世界観を持ち出してくる輩だもの、さっきの比較じゃ無いけど、魔法なんかで攻撃されたら後衛の意味も無くなるわ」
「そうですね。やはりここで装備を整えて行きましょう。志意さんの言うとおり、ここは対魔法の装備と
考え、多少デザインが定番化してしまいますが……トゥルーワールドエナジー! フルスロットル!」
すると三度周囲が暗転、霧に包まれ、今度は小希達の身体が青白く輝き始める。
「ま、まさか! 定番って鎧か!?」
「えぇ、それぞれの攻撃方法にあった防具が装着される筈です」
「な、何ッ……そ、それじゃあ!」
小希はこの時、定番と聞いてビキニアーマーを想像した。なんであんなもんが防御力があるといわれ続けているのか理解出来なかったが、志意と姫律の露出を想像すると思わず期待せずには居られなかった。
恐らくファンタジーの世界からビキニアーマーが無くならない理由も、今小希が心躍っているのと同じ理由だろう。
そして、その光が弾け、各人に合った防具が装備された。
「こ、これはッ!」
「な、なんだ……和式甲冑か……」
小希が期待して真っ先に目を向けた先は姫律だったが、そこにはかつての戦国武将達が身に付けていた様な甲冑に身を包んだ姫律の姿が。
そして一縷の望みを抱き、志意の方へと視線をやる。
「やっぱりかよ……」
「最新式は伊達じゃないわね。重さも対して感じないし、動きも邪魔にならないわ!」
そこには防弾チョッキと軍用のブーツ、そしてカーゴパンツという特殊部隊さながらの装いの志意があった。
「しかし、これでそれぞれのスタイルに合わせた上で、こと魔法に関しては無類の耐性を誇る物へと変える事が出来ました」
「そうか……って、なんでお前がチャイナドレスなんじゃッ!!」
「え、なんでって、僕は体術を基本とした戦いをしますし……」
「そうよ。むしろ体術家がメイド服で出てきた方がおかしいじゃない」
「それにそんな事言ったら小希だってビキニアーマーじゃないか」
「なッ! お、俺が!? ホントだ! 俺、ビキニアーマーになってるッ!!」
窓ガラスに映った自分の姿を見て顔面蒼白になる小希。正直ピペットは腐っても美青年なので、彼に輪を掛けて酷い事になっている。
「さ、ボスに挑むとするか!」
「そうね!」
「ま、待った! この、この格好だけはどうにかしてくれないか!?」
「何言ってるんです? 折角装備したのに、それを取ったら危険ですよ! さぁ、行きましょう!」
「か、勘弁してくれ……あぁー、フトモモがスースーするッ!!」
そう言って志意と姫律は階段を駆け上がり、小希はチャイナ服姿のピペットに腕を引かれ、屋上へと上がったのだった。
ビキニアーマーからスラリと伸びた手足は高校生男子らしく、運動部でも無いのに思い立った時に行われる筋トレのためそこそこ筋肉が付いており、また腕毛、臑毛はまだしも、股毛がここまで大胆に露出す
る服は、あまり男性は着ないだろう。
そんな姿でチャイナ服姿の同性に手を引かれるのだ。いまだかつて無いテクニカルな展開に、小希はこの世界を呪っていた。
そんな呪詛の念に囚われていても、結局は手を引かれ、階段を上らされていれば、自ずと屋上に着くわけで……
「良し、開くぞ!」
戦闘を走る姫律が扉を開いた。
そこには……
「フフフフフ……良く来、ってうわ、キッつ! なんじゃ、お前らその格好!」
金髪を風に靡かせる、棘のある肩当だとか、重そうな生地の割りにたなびくマントだとかに身を包んだ、赤い目の巨乳女の姿があった。
金糸のような髪の間からは魔王というに相応しく、ヤギのように曲がりくねった角が覗いていた。
「お前には言われたくないぞ! なんだ、その世紀末もかくやと言った出で立ちは!」
屋上に足を踏み入れた姫律がそう答えるが、
「あ、いや、お前さんじゃなくてだなぁ、そこの男二人組みの事を言っておるのだが……」
と、やはりというかなんというか、小希が一番言われたく無い、核心をストレートにぶち抜いて来た。
「フッ、見た目で判断するとは……愚か者のステレオタイプですね。その言葉、後悔させてあげましょう……」
そう言ってピペットは真剣な表情でトンファーを構え、魔王を睨みつけた。
「あ、いや、実力云々じゃなく見た目に限った事を言ったのだぞ、ワシは! その点に後悔は一欠けらも無いと今のお主を見て確信したぞ!」
「うん、正直分かる。これはマジに成られれば成られる程キツいな……」
その様子を見て、魔王だけで無く姫律までもが否定的な態度と言葉を示した。
「あー、もう! だからこんな格好止めようって言っただろッ!!」
「し、しかし魔王の魔法攻撃を受けても大丈夫な様にするにはこれしか方法が!」
「なんじゃ、ワシの魔法に絶えられるようにその様な格好をしたという事か……どれ」
そう言って魔王は人差し指を立て、指先をクイと曲げ小希達の方へと向ける。直後空が輝き、小希達の全身をその光が包んだ。
ガラスの割れるような音と、地面が裂けるような音が同時に響く。そう、魔王は落雷を呼び寄せたのだった。それが小希達三人を直撃したのだ。
当然、そんな事が起きれば……
「いってぇーじゃねぇかッ!!」
「うわぁ! なんて事だ! 規律さん、小希くん! 頭が……」
「「「アフロになってるッ!!」」」
この世界ではこんな髪型になってしまうのだ。
「ギャハハハハ! お主ら、流石じゃ! ギャグ小説の世界とやらはどれだけの魔力やダメージを当てえても死なないと聞いていたが、よもやこれ程とはな! ぷ、くはは、ぎゃはははははは!」
そう言って魔王は腹を抱えて笑い転げる。時折肩当の棘が地面にぶつかり、屋上の床が削れる。ピペットはそれを見てここも後で直さないと用務員さんにいらん心配を掛けるかな、などと思っていた、アフロヘアーで。
「おい、ピペット! アイツの言ってる事マジなのか?」
「え? あぁ、そうですね。深刻に捉えたりしなければアフロになって、服が破けて所々煤汚れみたいになるだけですよ」
「じゃあなんで俺はこんな格好せにゃ成らなかったんじゃ!」
「服の方が絶えられないと読者を選ぶ様な露出になってしまうじゃないですかァッー!!」
小希に尻を蹴飛ばされ、飛びながらピペットは言い訳を放った。その時、ピペットの他に魔王目掛けて飛んでいく物があった。
「ん、なん……じゃこりゃァッ!!」
それの存在を認めるなり、魔王は声をひっくり返す。刹那、屋上は再びの衝撃に襲われる。今回は落雷では無く、爆発だという違いはあったが。
「フハハハハッ! 隙を見せたわね、魔王ッ!!」
そう高笑いをしながら校舎から姿を現したのはM202ロケットランチャーを担いだ、特殊部隊ライクな格好の志意だった。
「志意、登場方法、攻撃手段、笑い方、全てにおいて魔王より魔王してたぞ、おい」
「勝てば官軍! 魔王は正義の鉄槌(焼夷弾)によって滅ぼされたッ!!」
そんな事を胸を張り、ロケットランチャーを地面に立て、右手でそれを支えながら語る志意。
しかし、炎の中にゆらりとこけしの様なシルエットが一つ、立ち上がる。
「貴様ァ! なんで魔王たるワシ相手にロケランなんて使ってんじゃ!」
「おい、またアフロかよッ!!」
「仕方無いでしょう……爆発後に何も変化が無いとおかしい事になりますし。わかり易くアフロとか髪型単体で面白味もある髪型にしとくのが安パイなんですから」
「そもそもアフロになる事がおかしい上に、アフロになるのはこの世が面白くあるために出来た理だったと……」
すっかりアフロだらけになった小希、ピペット、姫律の三人が寄って話す。それを見て志意はあぁ、なんか一昔前の記者会見みたいだな、と思うのであった。
「貴様一人普通の髪型しおって……こうなれば全員お揃いにしてくれる!」
そう言うとアフロになった魔王はまたも指を突き出し、今度は志意を指差した。
「きゃあ!」
「志意ッ!!」
アフロになっても中身は変わらず、やはり志意は雷に打たれる事となった。それを目の当たりにし、小希は思わず彼女の名前を叫んだ。
「小希、心配しなくてもアフロになるだけだぞ?」
「いや、人が雷に打たれる瞬間に心配するなって中々難易度高くないすか? ……って、あれぇッ!?」
姫律の言葉に納得は出来るものの、やはり目の前で人が雷に打たれる衝撃について説明をしようとした
まさにその時、
「いたたたた……何よ、もう……」
立ち上がった志意はやはり煤に汚れてはいたものの、先ほどの三人とは明確な違いがあった。
それは……
「「「昇天ペガサスMIX盛りだとォッ!?」」」
アフロを期待していた魔王まで小希、姫律と一緒になってツッコむ。
「えぇ、ちょっと落ち見えてんだよ、的な流れだったのでギャグ界の精霊としては落ちを改変せずにはいられなかった……」
「何がどうしてこんな複雑な髪型になる物理法則になるんだよッ!」
「だから落雷時にこんな複雑な髪型になる物理法則に世界を書き換えたんです! 酸素を吸わないと体の何処がどうしてどうなって、そうなると何処がダメになって死ぬとか全部しらないでしょ? それと一緒なんです!」
「お前、精霊だったのか……さすがギャグ小説の世界、統治者までこんな事になっているとは……」
「いいえ、魔王。この世界で主に狂ってるのは統治者のこいつよ」
「そんな事を昇天ペガサスMIX盛りの真顔で言うお主も中々クレイジーじゃろ……」
かれこれ身長が二十センチほど伸びた志意の頭頂部、いや、毛先を眺めて魔王が言った。
「で、話し戻しますよ、魔王さん! あなたはこの世界を改変し、我が物とする為に、RPGの世界からこちらの世界に侵略しに来た。よって、我々はあなたのアナザーワールドエナジーが尽きるまで戦うと決めました!」
「ほう、さすが精霊。事情も飲み込めて挑んできているという事じゃな……いいだろう! この世界を改変し、理想の世界を作り上げるために異世界から来たこのワシ、フューラー:フレミングが相手になろうッ!!」
「うわァ! ちょっとカッコいい風に・じゃなくて:で名前が区切ってある!」
「コロンってヤツね。姫律は中学生みたいにそんなところにカッコよさ求めるの止めなさいよ。ってかコロンの意味分かって使ってんのかしら……」
「さすが小説の世界じゃのう、名乗りを受けただけで区切りの記号まで分かる辺り、アッパレじゃな!」
何故かフューラー:フレミングもメタなネタに全力で乗っかる。どうにもそれを見ていると小希は調子が狂う感じがした。
「フューラー:フレミングって……なんだ、精霊だったり、魔王だったり、世界に大きな影響を与えるやつは理科系の名前でも付ける決まりでもあんのか?」
「いやー! そんな事無いんですけどねぇー! なんでですかねぇ、ホント、キャラ被りとかマジあり得ないと思うんですよねぇー!! アイデンティティの崩壊って言うか、ワシとか、~じゃとかでキャラ付け濃くしてるのに、理系ネームで被ってくるとか!」
「ど、どしたんだよ! お前だって金髪碧眼、眼鏡男子だろ? ってあぁ! 一章以来ずっと出てきてなかった翼まで出してキャラ立てしてるしぃッ!!」
小希がそれと無しに口にした事は、ピペットは随分と気にしていた様で、嫉妬の視線はひたすらにフューラー:フレミングに注がれていた。
どうにか話題を逸らす為に小希は侵略者を攻略する為の話題を引っ張り出した。
「な、なぁ、ピペット。アイツと話してるとどうにも侵略者って感じしないんだが……こっちの世界にもう侵食されてきてるって事無いか?」
「うーん、ちょっと穴沢爺を見て見ますね…………いや、どうやら彼女のエナジーは健在ですね。まだまだ僕と渡り合えるほどの力を持っています」
「そっか……ってかもうあいつら和気藹々としちゃってるんだけど。けどやっぱりあいつはまだまだ侵略するき満々なんだよね?」
「そうですね。この世界を改変し、理想の世界を作り上げるために異世界から来た、と明言してますし。あ、そうだ。この隙を突いて……攻撃とかしちゃいます?」
そう言ってピペットがフューラー:フレミングを指差す。
「えー! でも今回って今までと違って直接攻撃とかするんだろ? あいつ角生えてる以外は普通の女の子じゃん! 巨乳の」
「なんですか! その巨乳ならおけ、みたいの! クソぅ、小説だから巨乳って分かるものの、アニメだったら文字が見えないという側面を利用して『いや、彼女はきょにゅうだと言われていたが、それは巨大のの巨ではなく、虚像の虚だったんだよ!』という叙述トリックも使われる可能性もあったのに!」
「いや、アニメだったら姿が描かれてるんだから巨乳だって分かるだろ……」
「だから甘いんですよ! 小希くんは知ったほうがいい! パットというシュレディンガーの猫理論にも
影響を与えた偽りのペルソナがある事を!」
「与えてない与えてない! 確かにブラを取るまで分からんだろうけども! けどフレミングのは乳の大半が見えてるじゃねぇか………………って、なんの話だよッ!!」
そこに来てようやく本来ツッコみ役の小希が乳に踊らされて、本分を忘れていた事に気付く。
「と、いう事なので話を戻して、剣を借りて! 小希くんが出来ないのなら、僕がやります!」
「って、なんの躊躇も無くッ!!」
小希から剣を奪うなり、ピペットは女子トークを繰り広げる魔王フレミングに向かって疾走する。
「でな、向こうの世界では……って、ぐはッ!!」
そして指を立てながら世間話をするフレミングの腕が、人差し指を立てたまま地面に転がった。
「はっはっはっはっはッ! 油断したな、魔王、フューラー:フレミング!」
「お前そのセリフと行動、志意に続いて完全にお前が悪役だからなッ! 今フレミング話してただけじゃん!」
「うわー! うわー! 腕、腕、転がってる、志意!」
「ちょ、なんで押すのよ! 無駄に道端に排泄物を見つけた時の小学生じゃあるまいし!」
大きな出来事の中で気が付か無かったのかも知れないが、志意が気を使って排泄物という単語を使ったのは、ヒロインの片鱗を見せたと思うところであったのかも知れないが、そんな物の単語を口にしなければならない時点で随分な扱いである事には関係ない。
「くッ……くそォッ!! 人が親切にRPG世界の村の性風俗について教えてやっていたというのにッ!!」
その言葉を聞き、小希は志意と姫律を睨みつける。
「なッ!? お前ら、なんて羨ましい情報をッ……!!」
「い、いや! 違うのよ! ホント、そういうんじゃ無くって!」
「そ、そうだぞ! 夜這い文化は田舎に行けばまだあるとか、メイン・ヒロインである志意とクールポジである私が気にするはず無いだろうッ!!」
「いいや! 小希、騙されるで無いぞ! そいつらは、いや、そいつらに限らず、女子高生なんて生き物は性にバリバリ興味あるんじゃからな!」
そう良いながらフレミングは左腕で斬られた右腕を拾い上げ、傷口にくっつける。
「よし、と……」
そして何事も無かったかのようにくっつけた右腕をぐーぱーする。
「さ、さすが魔王だ! 腕を切り口に付けただけでッ!?」
小希はその光景を見て実は女子高生が性に興味津々という所よりも驚いた。
「え、あぁ、これは魔王の力とかじゃなくってこの世界がギャグだからじゃよ。さっきの雷とかと一緒」
「この世界すげぇなッ!! わりかし何やってもオッケーなんじゃねぇかッ!」
「そうですよ? 痴漢とかしてもトホホ、ってなったりして、次の回ではすっかりシャバに出てきたりしますし」
「なんかそれ聞くと良いんだか悪いんだか分からないわ、うん。俺には分からねぇ」
小希は何かを振り払うように、必死に首を左右に振った。
「んで、ワシをどうこうするとか言っていたなぁ? この世界の理で、どうワシを退けようとというのだ? ん?」
腕組をし、半眼で得意げにそう語るフレミング。それを受け四人は作戦会議を開く事にした。
「確かに、直接攻撃してもこの世界じゃ死なないんだろ? それにさっきからよっぽどアホな事繰り返してるのに一向にエナジー減らねぇみたいだし」
「ですね。前回のタロスは意志も無く、この世界の理も把握している事も無かったので倒すのは容易でしたが……どうしたものでしょう?」
「剣が効かないとなるとちょっと私の出番は無さそうだな」
「確かに、姫律から刀取ったら何も残らないものね」
その言葉をきっかけにギャースギャースと女子達は言い合い組み合い取っ組み合いを始める。
大した意見など期待して無かった小希とピペットはそのまま話し合いを続ける。
「ボケもツッコミもしてるもんなぁ……この際別のラインから攻めてみるか?」
「別のライン……と、言いますと?」
「そ、そりゃさ……そのいきなり、き、キス? しちゃう? とかァ!?」
「あぁ、ズギュゥゥウウン!! みたいにですか。確かに別の側面からの精神的ダメージしか期待できるものは無さそうですが……小希くん、お願いします!」
「えぇッ!? 俺ぇッ!?」
「いやいやいや! だって言いだしっぺ小希くんじゃ無いですか!」
「いや、そうだけどさ! 俺この前ホモ好きの女子にキスされてんだぞ! ギリホモ好きの女子だったけど、直前までホモだったんだぞ、あいつ!」
「えぇー! 僕行くんですかぁー?」
「いや、だって他に方法ねぇもん! 何かある、逆に?」
「…………うーん、もうちょっと! もうちょっとだけ考えません? 他に何か無いか」
「……そうだな、それだな」
互いの顔を見合わせ、うんうんと頷く二人。世界の危機かもしれないというのに自分達はリスクを負い
たくないという姿勢にはただただ世界の行く末を気にしてしまう……
「なぁ、お前ら。こんな事している間も、フレミング何もしてないんだが……あいつ本当にこの世界侵略しに来たのか?」
そんな二人にケンカを終えた姫律が声を掛ける。
「いや、だって実際『この世界を改変し、理想の世界を作り上げるために~』とか言ってたし」
「あ、でもそうだ、彼女の言う理想の世界ってものがどんな物なのかは聞いて見るのはアリかも知れないですよ。ほら、丁度今志意さんと組体操二人組み競技してますし聞いて見ましょう」
「少なくとも今は侵略している様には見えないもんな……」
という事でサボテンで志意を持ち上げてるフレミングにどの様な世界に改変する事を望んでいるのかと
問うた。
「なー、フレミング?」
「んー? なんじゃ?」
「フレミングってさぁ……この世界侵略しに来たんだよなぁ?」
「そうじゃぞー」
「うん、それなんだけど、この世界侵略したらどんな世界に改変するの?」
「そうじゃのう。前の世界は随分生真面目なヤツらが多くてのう。その癖自分達を危険に晒す魔族皆死ね! 殺せッ!! みたいな空気が人間たちに満ち溢れてたからのう。まぁ、お前らみたいなアホだが、心の広い連中がいる世界がいいのう。それと仲間が沢山居る日々がいい。魔王城には魔族の仲間が沢山いてなぁ、やつ等とともに時間を過ごすのは楽しかった。こやつの様にノリが良い訳でも無いが……しかしこの組体操はその頃からやっておったぞ」
「魔界にも組体操とかあるんだ……」
「そうじゃな! まぁ、体系が違うから出来ないヤツもいるがな。ほら、下半身が無いヤツとか、そもそも骨のヤツとか、ドラゴンとかもいたしのう」
「え! フレミングドラゴンと友達なの!?」
「ん? まぁ、友達というか、部下というか……とにかく毎日顔は合わせておったぞ。良くジェンガとかしたのう」
「弱そー!! ドラゴンジェンガ弱そー!!」
「そうじゃ、そうじゃ! いつも爪が隣のブロックに引っかかってな! 直ぐガシャーンするから面白く
て良くやっていたわ!」
「え、じゃあさ……」
そんな感じでフレミングに話を聞いている小希。すっかり本来の目的を忘れている様だった。
それを見ていたピペットがある事に気が付く。
「あのー、フレミング? 一つ思った事があるのですが……」
「なんじゃ? 精霊?」
「いえ、先ほどから聞いていると、ですね……つまるところ、改変などしなくてもこの世界で、ここ鳳陽学園に通うようにすれば、あなたの望む生活は出来るのでは無いかと思いまして」
「む? そうなのか?」
「まぁ、確かに。授業って勉強しなきゃいけない時間はあるけど、沢山人はいて……勿論この世界だからみょうちくりんなヤツが多いと思うし……フレミングって別に偉くなきゃヤダとかは無いんだろ?」
「うーん、まぁ、それなりの地位は欲しいのう。しかしトップに立たんでも、自分の意見を述べる場があればそれで十分、奴隷や雑兵で無ければ構わんぞ」
そんな事を言いつつ、サボテンではしっかりと土台となる下の方を担当している辺り、そこまで欲は無いと見える。
そんなフレミングに更なる提案を持ちかけるのは姫律。
「そうか、それなら風紀委員会に来ればいい、そうすればフレミングの力も役立てる事が出来るだろうし、それなりの発言権も得られるだろう」
「なるほど、それはいいかも知れませんね。実力も申し分無いので、風紀委員側も助かるでしょうし。どうでしょう、フレミング? あなたの目論見と、私達の生活はそう遠からずあると思うのですが……?」
「フム……確かに、貴様らとこうして短い時間だが、面白く過ごしてしる自分がいる事は事実じゃ。それに、この世界の住人になったとて、力の全てを奪われる訳でもあるまい?」
「えぇ、それは勿論。名目上、管理者は僕になりますが、それと同等の力を持つあなたは地位は違えど、その力は維持できる事でしょう。そもそも拮抗した力を持つ僕に、その力を打ち負かし、奪う事がまず出来ませんし」
「なるほど、その言い分、大いに納得した。元々戦いなど好かんしのう。いいだろう、このワシ、フューラー:フレミング、この世界の、」
「ちょっと待ちなさいッ!!」
「どうしたんだよ? てかお前いい加減降りろよ……」
その時、口を挟んだのはフレミングの膝の上に乗り、サボテンを続けていた志意だった。
「何が降りろよ、よ! 何勝手に私のアイデンティティ揺るがしかねない危険な提案してるのよッ!!」
「いや、フレミングがこの世界来たところでお前キャラ被りして無いだろ?」
たしかに、フレミングが求めているものは面白可笑しな日常であり、志意は日々自身の立場や金銭的、即物的な利点を求めて動いている。その点正反対と言っても過言ではないのだが。
「そうですよ、むしろトランスセクシャル系で男の娘、ホモ好きの両面にアピール出来る僕の女の子モードと見た目がキャラ被りまくってて僕の半分の魅力が半分になって存在価値の四分の一くらい無くなるこっちの方がテンション下がってるんですから……」
「ピペットよ、お前は案外自分の土俵に上がられるとムキになるタイプなのだな……」
そう言って姫律は普段より心無しか低い位置に落ちたピペットの肩の上に手を置いた。
「アハハハハ! なんじゃ、お主ら。随分モブっぽい事を気にするのだのう。魔物達も同じく色違いの者達は良くそんな事をぼやいておった。やはり人の子もそういう部分は気にするのだのう」
そう言ってフレミングはサボテンを維持しながらニコやかな笑みを浮かべた。
「うるさいッ!! あんたはいいわよね、獣角、金髪、赤眼に巨乳! 萌えの宝庫じゃない! 姫律だって黒髪ポニテロングの巨乳に、トランスセクシャル系眼鏡男子で金髪碧眼! そんなやつらに囲まれてる、私の身にでもなりなさいよ! これ以上個性の塊みたいのに囲まれたら、私の存在感が薄くなるじゃないッ!」
「な、何を言っているんだ、志意!」
「そうだ、お前にはお前の……」
小希と姫律がフォローをしようと声を掛けようとするも、
「もういい! あんた達が私を蔑ろにして、この世界に必要以上の萌え要素を足していこうとするならッ……こんな世界!」
「ぐッ……!? な、なんじゃ!」
「いけない、志意さん……フレミング! 今すぐサボテンを止めるんです!」
しかし、時、既に遅し。
「ぐ、ぐぁアアァ、こ、これは……! 力が、吸い込まれていく!」
「フレミング!」
「志意、止めるんだッ!!」
フレミングと志意のサボテンは赤く、濁った光に包まれていった。それはピペットが詠唱時に放つ光とは真逆の輝きだった。
そしてその光と同時にドス黒い霧が辺りを包む。
「なッ、なんだ、これはッ……!?」
「どうなってんだよ? おい、ピペット!」
「こ、これはッ……! 間違いありません、これは、アナザーワールドエナジー! それも、フレミングのッ!?」
黒い霧の中、確かに見慣れた穴沢爺の画面の光らしき物が小希にも見えた。
「はァ!? あいつこの世界の住人になる事も納得してただろ? なんでこんな事……」
「くッ! 私には良く分からんが、とんでもない邪気だ……これは、どこかで……? ! まさか、タロスの気配にも似ている……?」
「気をつけて! 霧が晴れますッ……!!」
そして一陣の風が吹き荒れると、霧が晴れ、そこにあったのは……
「ケン、タウロス……?」
「いや、違う……あれは……」
「志意さんが……フレミングを吸収した……!?」
そこにあったのは特殊部隊風の服装をした、昇天ペガサスMIX盛りの間からヤギの様にうねった角を覗かせる、白い四足獣の下半身を持った姿がそこにあった。その頭身の高さは先ほどのサボテン時の高さと酷似していた。
それを見ている三人は落雷によりアフロのまま志意だった者を見上げている。何処まで行ってもこの世界の人達なのだ。格好など付きようも無い。
そして変体後、初めて志意が口を開く。
「うわー、マジ個性的だわ、この身体!!」
「えぇ!? いや、ほんと、アイツどしたのッ!? てか、え、あんな力持ってたの!?」
「いえ、恐らくあれは彼女の意志に、フレミングのエナジーが反応したのでしょう。アナザーワールドエナジーとは本来、正規の世界の住人の近くにあるべきものではありません。そして力と言う物はその場に留まるという事を好まない……フレミングによって抑えられていたエナジーですが、志意さんの負の感情に反応し彼女の個性欲しい! という願いを取り込み、その場にあった個性の塊であるフレミングを吸収したものと思われます! そしてフレミングは魔王、黒魔術の象徴であるヤギの姿が本来の姿だったのでしょう」
「フハハハハハ! その通りよ! この身体があればもう怖いものなど無いわ! 最近人外系流行ってるの知ってるんだから! 見よ! この萌えの塊! 心無しか乳も大きくなってる!」
そう言って嬉しそうに自身の胸部をもみしだく志意。
「え!? あれって、いいの!? あれかわいいか!?」
「うーん、私は流行りものには疎いからなァ……その、志意も言っていただろう? 人外が流行ってるとかなんとか?」
「まァ、確かにありっちゃアリなんでしょうけど……いかんせんデカ過ぎますよね。巨女萌えの方々的には守備範囲外の小ささだろうし……」
「なんだよ、その巨女萌えって! 人間こえぇよッ!! まぁ、俺も流行りとか疎いんで二人に聞きますけど、あれ感性的にアリか無しで言ったらどっちです?」
「「無しで!!」」
「ですよねぇー!」
小希は自分の感覚が間違っていなかった事に安堵の叫びを一つ上げると、今度は間違った不良に成ろうとしている幼馴染を更正させなくては、という義務感に似た物を心に抱いた。
「おーい! 志意! それ、確かに個性的ではあるかも知れないけど……いや、それも怪しいけど、よしんば個性的だったとしても全く可愛くないぞ!」
「はァ!? あんた何言ってるの? 個性が無きゃ生き残れない時代なのよ!?」
「だからァー!! その痛い中学生みたいな発想止めろよォー! 絶対二、三年後後悔するぞ? 個性をオシャレに取り入れるのは上級者の技だと知らずに、個性的=カッコいいで痛い目見たヤツ、俺沢山知ってんぞ!」
「なんだ、あの実体験に基づいたような小希の発言は?」
「いや、恐らくは……いえ、これ以上は言わないで置きましょう……志意さん、小希くんの言うとおりですよ! そんなので授業受けても後ろの席の子から『おい、鹿島……お前ただでさえデカイのに頭盛って角まで出してんじゃねぇよ!』とか言われちゃいますよ!」
「え、そしたらそいつ消せば良くね?」
そう言って志意は指を中空に振りかざすと、その瞬時に場に落雷が発生する。
「うわァアアァッ!! 元の人格からこんな事しそうだったけど! 逆に意識は今までのままって安心感はあるけどもッ!!」
「確かに、志意さんのゲスさって力得たらこうなるの目に見えてましたよね……」
「んで……あれ、どうするんだ?」
「彼女の言い分では個性が欲しかっただけ……なので明日からも普通に学校に通うことでしょうね……すっげぇ邪魔じゃないですか! 体育とかチートじゃないですか!」
「確かに……スポーツテストなど、公平では無くなるな……」
「えぇ!? お前らそこォ!? 友達あんなんになってんだぞ! もっと心配しようぜ!」
あまりに姫律とピペットが現実的な問題ばかりを期にするので小希のツッコミが止まらない。
「さ、あんたたち。帰るわよ!」
しかしその姿のまま帰ろうとする志意をどうにか止めなくては、という思いは同じだったのだろう。互いの顔を見合い、三人は頷きあった。
「志意さん! その姿でどう帰るおつもりですか? 鳳陽バスは原則、動物乗車NGです!」
「なッ……」
思いも寄らぬピペットの言葉に目を見開き、驚きを隠せない志意。帰れない事は想像していなかったのだろう。小希と志意はここから徒歩で帰ろうとすると余裕で一時間半は掛かるであろう距離にあった。四本足では幾分か変わるかも分からないが。
「フフフフフ……どうです? 元の姿に戻りたくなったでしょう? 世界改変を行える僕ならいざ知らず、志意さんでは……」
「「「あっ……」」」
その言葉に、その場に居た全員が声を上げた。
そして志意が一指し指を立て、宙にクルクルと回し始めた。
「メルキュキュ、スパムキュキュールキュル……バスよ! 動物オッケーになれぇー!!」
そして、鳳陽バスの規則が変えられた。
「ピペットォオオッ!! お前が言わなきゃ今ので説得出来たかもしれないじゃねぇかよッ!!」
「ちょ、しょうがないでしょ! 普通なら僕以外に世界改変なんて出来るはず無いんですからッ!!」
「んな事ぁいいから止める方法を考えろ! あー、そうだ、志意。お前、そんな身体で家に帰ったら、親が心配するのでは無いか? ん?」
「メルキュキュ、スパムキュ、キュールキュル……お父さん、ヤギになぁーれぇ!!」
「「「自分への認識では無く、親をヤギに変えたァッ!!」」」
「あ、そっか。お父さんとお母さんの認識変えれば良かったのよね、まぁ、いっか」
自分の親を草食動物に変えたというのに、それだけで済ませてしまう。気が大きくなっている、という訳でも無いのだろう。それは生まれつきであろうし。
「さ、今度こそ帰るわよー!」
そう言って四本の足で歩き、ロケットランチャーを拾い上げると肩に担ぎ志意は小希達に呼びかける。下半身がヤギ、上半身が特殊部隊、頭部がキャバ嬢の女子がロケットランチャーを持っている。よしんば周囲の認識を改変し、これを奇妙と思う者が無くとも、こんなモノが普通と認められる世界はごめんだ、
小希はそう強く思った。
「い、いや、帰るって言ったってまだ昼休みだぞ」
「だってここまで来る間に他の先生とか生徒みんな逃げて行ったじゃない。あ、そうだ帰りにどっかよる?」
小希の何気ない返しに、足を止め、なにやら提案してきた事で多少時間を稼ぐ事が出来た。
それを機に視線は志意に向けたまま、三人の作戦会議が始まった。
「ダメだ、私は付いて行けん……大体なんで下半身が四足獣というファンタジー臭い生き物になったというのに特殊部隊風の装いで、尚且つロケットランチャーなんてもんを担いでいるんだ?」
「ですね、はっきり言って間違った個性の集大成、別ベクトルの厨二病併発とでも言いましょうか……単独でもイタいのに、予想外の組み合わせでセンスの無さまで浮き彫りです……このままでは、志意さんはイタい娘どころかイタい生き物になってしまう」
「世界を改変する力はあっても、個性出すためにあれになったんだものなぁ……自分を普通の認識にさせるつもりも無いんだろうし……だいたいメイン・ヒロインってこんなゴテゴテのヤツ居ないだろうっての……」
「「え……?」」
何かおかしいところでもあったのか、ピペットに姫律が目を見開き、小希の事を見つめている。
「いや、だから、こんなゴテゴテしたメイン・ヒロインっていないだろ? って。普通、メインヒロインってもっと普通っていうか……」
小希は自分がおかしい事を言ったと思われたとでも感じたのか、再度説明をし始めると、
「「それだぁぁああぁ!」」
二人に左右の肩をそれぞれ掴まれ、歓喜の声を正面から受ける事となった。
「おい、聞いたか、志意よ?」
「え? あ、ごめん。ソシャゲの体力マックスになってたからやってて聞いて無かった」
「現代っ子めッ!! まぁいい。お前、そんなコテコテに超個性生物になって、結果何がしたいんだ?」
「何って、さっきから言ってるじゃない! 私はこれ以上周りに個性で遅れを取らないように」
「ですから! その個性で志意さんはどうしたいのか、どうなりたいかを、姫律さんは聞いているんですよ!」
「決まってるじゃない! この超個性で、この世界でメイン・ヒロインとして君臨するのよ!」
「ッ! そうか……」
そこまできてようやく小希が姫律とピペットが小希の発言から得た答えを理解した。
「そうだ、そうだよ、お前言ってたじゃねぇか! 『メインヒロインと言えば無個性気味のボブカット』って! お前が個性爆発してたら、メインヒロインじゃなくなっちまうんじゃねぇか!?」
「ッ!?」
その言葉にようやく自身の行いの矛盾に気が付いたのか目を見開き、ガチャリ、と音を立てM202ロケットランチャーを床に落とした。
「あぁー待て待て! それは自分の間違いに気が付いたからと言って床に落としていいもんじゃねぇッ」
「ふ、伏せろォ! 小希、ピペット!」
「ぐッ!!」
姫律のとっさの判断で屋上の床に押し倒される小希とピペット、次の瞬間には爆炎が屋上中に広がった。
「くッ……大丈夫か? お前ら……」
「えぇ、装備を整えておいて正解でしたね……」
「くっそ、ちょっと危機をなんとか回避したっぽいシーンなのに全員アフロの大きさが倍になっててカッコがつかないぜ!」
落雷に次ぐ爆発、確かに二度の攻撃を受けているが、それでアフロが二倍になる辺り、さすがギャグ小説の世界だ。質量保存の法則みたいな難しい事から、アフロの大きさは髪の毛の長さに比例するという美容師の常識などお構いなしなのだ。
そしてそうこうしている間にも爆煙が晴れ、異形の志意が姿を現す。
「そ、そんな……私が、メインヒロインであるはずのこの私がッ……!! 何時の間にか個性求めるあまり、作品内の没個性、故の個性であるメインヒロインのこの私が! アイデンティティを見失っていたなんて……」
「没個性とか……こんな貪欲なヒロイン滅多にいないと思うんだが……」
「まぁ、ガメツイキャラは居るにしても、メインには置かないですよね……」
小希とピペットが志意を刺激しない様、こそこそと耳打ちしあう。
そんな間にも、志意は膝を折り、四足獣が横たわるような形になる。
すると、赤い光に包まれ、それが天に上って行き、そこには人型に戻った志意と、横たわるフレミングの姿があった。
「も、戻った……のか?」
「目的と手段が入れ違ってしまったんですね……若い頃には良くある事でしょう」
姫律は一安心とばかりに溜め息にも似た安堵の言葉を吐き、ピペットは首を左右に振りながら志意の思いにも理解を示した。
「良かったー、これで元通りだわ。普通の見た目の、地味めなメインヒロインに、戻れた……」
志意は元の自分に戻り、下半身を、そして胸部を見て普通である事の個性を再認識し、安堵の溜め息を吐いた。
「いや、待て待て、昇天ペガサスMIX盛りのままだから! そんな髪型で特殊部隊の服着てるヒロインとか超個性だからッ!!」
全て片付いたかと思われたが、アフロヘアーの小希がそう叫び、全員の髪型が元に戻っていない事に気が付いた。
「これで元通りじゃな」
アフロヘアーも、昇天ペガサスMIX盛りも、もちろん下半身四足獣の異形の生き物も居なくなり、服装、装備を含めた全てが元通りになるとフレミングがそう言った。
「そうだけどフレミングの角って改変でどうこうなっていた訳でも無いのな」
「ん? あぁ、そうじゃな。人型になった時に一番楽な形を保とうとするとこうなるな。しかしまぁ……」
そう言って半眼になり、少し力を入れた様な表情をすると、
「この様に、力を使えば隠す事は容易い。明日からの学園生活に問題は無いと思うぞ」
「学園に通うというのは冗談では無いのだな……」
「当たり前じゃ! その為にこの世界の侵略を止めたのじゃぞ!」
「そうだ、あんた制服はどうするつもりなのよ? そんな格好で学校来たら皆ドン引きよ?」
さきほどまで昇天ペガサスMIX盛りな上に下半身ヤギになっていたヤツの口から出た言葉とは思えない言葉を、さきほどまで昇天ペガサスMIX盛りな上に下半身ヤギになっていたヤツが口にする。
「そこは問題無いぞ、ほれ!」
そう言って体をくるりとその場で一回転させると、フレミングは志意らと同じ鳳陽学園の制服姿になっていた。
「この様にフレミングにはまだ力は残っていますが、知っての通り問題は無いかと思われます。それにそうで無かったとしても僕たちには止める術は無い……という事で共に歩む事となりましたので」
「よろしく頼む、フレミング」
「よろしくなー」
「濃いキャラが隣にいると私の素朴な魅力が引き立つと思うからよろしく」
「いや、素朴なキャラはそういった計算なんてしないし、まず思いつかないと思うんだけど」
結局小希の仕事は何も変らない。めちゃくちゃなヒロインや精霊にツッコんでいく日々に変りは無いだろう。
「ハハハハ! この愉快で騒がしい世界。これこそ私が作りたかった世界じゃ! 大丈夫、お主らがこのまま、ありのまま過ごしていれば、それはワシも望む世界であるという事じゃ。一つよろしく頼むぞ!」
家は何処なのか分からないが、バス停よりも先にフレミングとは別れる事になった。
そしていつもの四人で長く伸びた影を引きずりながら帰路へとつく。
「いやー、一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったなー」
「そうだな。まぁ、これで次どんな連中が攻めてこようが精霊と同量のエナジーが二つこちらにはある事になる。大抵の問題は退ける事が出来る……そうであろう?」
「えぇ、フレミングがそこにも協力的であれば、ですがね」
そう言ってピペットは苦笑を浮かべる。確かに確信は無いがあれだけの力を持ち、世界を変えてまで望む世界を作ろうとした者が、納得して身を置くと言った世界だ。それを作るために動いたのなら、守る為にも動くに違いないだろう、そんな考えが全員の中にあった。
「そういえば……フレミングって何年になるのかしら?」
「確かに、言われて見ればそうだな?」
志意の言葉に小希が反応する。そしてその言葉の裏でなるべくなら自分とは別のクラスになって欲しいと望んでいた。
「見た目的には私達と同じ二年か、あるいは三年だろう。でなければ外見年齢が吊り合わないと思うのだが……」
「かと言って、あぁまで言って騒がしい日々を望んでいたのですから、誰かしらと同じクラスになるようには動くでしょうね。それはまた明日のお楽しみという事で……」
ピペットがそう締めると、バス停のある駅ロータリーには既にバスが停車しており、バス組の三人はあとは乗り込むだけと言ったところだった。
「そうか、ではまた明日の楽しみにしておくか……それではな」
「姫律先輩、今日もお疲れ様っした」
「ではまた明日」
「気を付けて帰んなさいよー」
そう個々に挨拶を交わし、三人は斜陽差し込むバスへと乗り込んだ。生徒の大半が早退したであろう今日この時間に乗客の姿は無く、終点地点だからか、今は運転手の姿も無かった。
「奥、奥!」
「分かってるよ」
そう言って初めに乗り込んだ小希の背中を押すように志意が乗車、その後姿をピペットは見守りながら呆れた笑みを浮かべ、
「メイン・ヒロイン、という事は、誰のヒロインになりたいか、という事が分からないんですかねぇ……」
そう独り言ちた。
「何やってんだー! ピペットぉー! 乗らねぇのかー?」
ドタバタと乗り込んでいた小希と志意にそれが聞こえるはずも無く、二人は未だ乗車しないピペットに車内から大きな声で呼びかける。
「あー、行きます行きます」
しかしそんな事に口を挟むのはこの世界の精霊の在り方として間違っている事、そしてそんな話はこの世界には不釣合いだ、と思いなおしピペットはバスに乗り込むのだった。
「じゃあな、ピペット」
「おつかれー」
「では、また明日」
そうして今度は三人が小希と志意の家の間で別れを告げる。普段の下校時刻と同じくらい。ピペットの背中が住宅街に溶け込み、小希と志意が互いの家のドアノブに手を掛けようとしたその時だった。志意が触れる前に彼女の家の戸が開き、中から志意の母が出てきた。
「あれ、お母さんどしたよ?」
「あ、志意! あんたちょっと家で留守番お願い! なんでもお父さんが病院運ばれたらしいのよ!」
「「えッ!?」」
志意の母が焦っていて声が大きかった事もあるだろう、しかし向かいの家くらいには普通のトーンでも届くものかもしれない。それを聞いた小希と志意は二人同じ反応でもって志意の母親へと目をやった。
「あ、小希くんこんにちわ! なんでもね、何を血迷ったのか会社でいきなり書類を食べ始めちゃったらしいのよ。それで腹痛で病院運ばれたの。頭おかしく成っちゃったのかと思ったけど、そっちも大丈夫で、当然命に別状も無いって事だから! それじゃ、行ってくるわね!」
そう言うと志意の母は庭に止めてある車に乗り込み、車通りの少ない道路へと入っていった。
「な、なぁ……書類喰ったって……」
「そ、そうよね、多分……」
そう、改変により志意の父親はヤギという事で認識されていた。その間にヤギと認識されずとも、父親自身はヤギであった事には変わりなく、志意のエナジーが尽きた事で再び人間へと戻ったのであろうが、胃の中に積めた書類だけはそのままだったのだろう。
むやみやたらに強大な力を手にし、それを行使し、元通りにしたとしても、それによってこんな事が起きるという事を、志意は認識できていなかったであろう。
「まぁ、紙って紙で出来てるし、特に問題無いわよね!」
「だな!」
そうして、特に教訓にもしないまま二人は手を上げると互いの家の中へと消えていった。




