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普段よりも早くに目を覚ました。小鳥の鳴き声を聞きながら、伸びをして、ベッドから足を下ろす。常に枕元に置いてある剣を装備して、自室を後にした。
今日の旅のための支度を済ませ、王宮の広間に行くと、まだ誰も来ていなかった。銃の調整でもしながら待っていよう。これからの旅では、魔物と遭遇することがあるだろうし、魔物と戦うために鍛練も積んできた。四つ子の中で最も魔力の弱かった私は、武術で力をつけようと思い、私と一番相性が良かった銃を極めることにした。今では、銃は手放せないくらい大切な武器だ。
お父様達は、仲間を探しながら、宝石の欠片を見つけ出して来いと言っていたけど、私は仲間を探すつもりは毛頭ない。この銃があれば、一人でも魔物と渡り合えるし、宝石の欠片も持って帰って来れるはずだ。
お父様、お母様、ラブ姉さん、弟のダイヤ、クラブ、妹のように可愛がっているクラウン、王宮の人達や国民の人々…皆にまたすぐ会うためにも、早く旅に出て、さっさと宝石の欠片を見つけたい。万が一でも、仲間を連れて、足でまといになられるくらいなら、一人の方が絶対にいい。
そんなことを考えていると、広間の扉が開かれた。入ってきたのは弟のクラブだった。クラブとは剣が一番相性が良かったらしく、今も立派な剣を装備している。私と同じように、クラブも剣の鍛錬を積んできていたことも知っている。クラブも無事に旅から帰って来て欲しい。
「あ、僕が一番早いかと思ってたら、先にソード姉さんが起きてたんだね。おはよう」
「ああ、おはよう、クラブ」
末っ子のクラブは、私達の後をいつも着いてきていたくらい甘えん坊で泣き虫だったのに、今では見違えるほどにしっかりしている。特に、クラウンの前ではしっかりしないとという気持ちが強いのか、兄のような振る舞いをしていることが多くなったような気がする。今のクラブならきっと、無事に帰って来れるはずだ。
クラブと一言二言、会話をした後、お互い武器の手入れを始めた。銃を構え、魔物との戦いをイメージしてみる。…よし、これなら問題ないだろう。そう思ったところで、ラブ姉さんもやって来た。
ラブ姉さんに挨拶を交わすと、何時もより表情が硬いことに気が付いた。ラブ姉さんはこれからの旅にきっと不安があるんだろう…。ラブ姉さんは四つ子の中で一番早く生まれただけだというのに、いつも私達の前では弱気なところを見せないというくらい、しっかりしている人だ。だけど、性格は少し抜けていて、慌てやすいところもある。旅の途中、何かハプニングに遭わないか、少し心配だ。
でも、ラブ姉さんはすぐに表情を引き締め、また何時もの明るい表情に変わった。その様子を見て、ラブ姉さんもきっと大丈夫だろうと思った。私達の中でも一番強い人だし。
後はダイヤだけーー自信家で少し自己愛が強いダイヤは何時もマイペースだから、今日も変わらないだろうと思っていたけど、本当にまだ寝ているとは…。
銃を仕舞うと同時に、突然廊下を駆ける足音が聞こえ、次の瞬間には広間の扉が開け放たれていた。扉の前にはダイヤが立っていた。ダイヤは私達の元へと来ると、あっという間にラブ姉さんを連れて行ってしまった。
「ダイヤ兄さん…どうしたんだろう…」
これからお父様達が来るというのに、二人が何処かへと行ってしまい、クラブも心配そうな声色で呟いた。私も少し心配になったけど、二人ならすぐ戻って来るだろうと考え直した。
二人が広間から消えてから間もなくして、お父様達が広間にやって来た。ラブ姉さんとダイヤのことを聞かれたけど、すぐに戻って来ると答えておいた。
そして、二人は私の言葉通りに、すぐに広間へと戻って来た。お父様達も安堵の声を漏らし、お父様が旅についての話を始めた。
話を聞き終えると、私達に地図が手渡された。地図には私が目指すべき二つの大陸と宝石の欠片の位置や現在位置などが書かれていた。
私達はお父様達から激励を受け、王宮を後にした。王宮を出た後、すぐにラブ姉さん達とも別れ、私はずっと行こうと決めていた場所へと歩みを進めた。
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辿り着いた場所はーー洞窟。
国民の人々や王宮の人達はよくこの洞窟について、話していた。この洞窟は通称【魔物の巣窟】と呼ばれており、サトラスの手下である魔物達の住処になっているらしい。じめじめとした洞窟の中は薄暗く、魔物達が住むには丁度いいという。だから、人間達はもちろん、他の種族達もこの辺りには近付かないと聞いた。
私はその話を聞いて以来、旅に出る日に絶対この洞窟を訪れようと心に決めていた。この洞窟にいる魔物達を倒して、確かな力を身につければ、一人でも平気だということが分かるはずだし、次の大陸で魔物が突然襲い掛かってきても、対策が出来ると思ったからだ。
そして、ラブ姉さん達と別れた後、真っ先に私は王宮で飼っている馬に乗って、この洞窟の近くまでやって来た。大木の側で馬を待機させ、洞窟まで歩み寄る。
洞窟からは何の気配も感じられず、周りにも誰の姿も無かった。私は洞窟の中へと足を進め、銃を右手に持った。
じめじめとした洞窟の中、上から落ちてくる水の音だけが洞窟の中で響き渡っている。警戒しながら奥へと進んで行くと、唸り声が聞こえた。人間のものではないーー魔物の声だと本能的に感じた。
わざと足音を立てるように歩き続けると、足音に気付いたのか、奇妙な低い声を出しながら、魔物が数匹姿を現した。人間とは全く異なる黒々とした異形な姿。目は鋭く、濁っている上、怪しく光っている。口から僅かに見えた鋭い牙も見える。ーーその姿を見ただけで誰もが魔物と分かるようなものだった。
魔物達は私と目が合うと、口角を上げ、不気味に笑い声を上げた。そして、人間では有り得ない程のスピードで飛び掛ってきた。何とかそれを反射的に避け、銃を構える。まずは一匹。バンッと銃声が洞窟の中で響き渡る。魔物が一匹にその場に呻き声を上げながら倒れ込み、消滅した。
サトラスの力によって生み出された魔物達は倒すと、存在自体が消えるらしい。私はそれを捉えながら、他に襲い掛かってきた魔物達も次々に撃ち倒していった。
その音に反応したのか、一気に魔物達が姿を見せた。流石にこの数はこの狭い洞窟では、倒し切れない…。そう判断した私は、すぐに来た道に体を向け、走り出した。魔物達も凄まじいスピードで私の後を追ってくる。
出口を目前とした時、私は頭に強い衝撃を受けた。
「がっ…!!」
上に居たらしい魔物が私の頭に降ってきたのだ。そのまま魔物は強い力で私の腹に体当たりをしてきた。思わず、感じたことのない痛みに顔を歪めるも、私は素早く立ち上がり、体当たりしてきた魔物を撃ち倒した。
そして、あっという間に他の魔物達も追いついてきたのを確認し、外へと駆け出す。…あまり、この力は使いたくなかったけど、このままでは殺られるかもしれない…。この力を使うしかない…。
外に出た瞬間、呪文を唱える。そして、魔法陣が地面に浮かび上がり、私を追って出てきた魔物達はその魔法陣の上に足を踏み入れると、魔物達の動きが止まる。これは魔法で一時的に魔法陣の中へと入った魔物達の動きを止めたからだ。そして、また呪文を唱える。その呪文によって、魔物達の頭上にだけ雨雲が現れた。その雨雲から発生した雷は一直線に魔物達の頭上に落ちる。魔物達が雷によって完全に動きを停止したのを見計らい、銃を構え、私を追ってきた魔物達を全て撃ち倒した。
雨雲は魔物達が消滅したと共に、姿を消した。私は少し乱れた息を整え、銃を仕舞う。魔物一匹、一匹は、予想通りすぐに倒せたけど、まとめて襲い掛かられると、今の私ではまだ対処出来なかった…。これは私の油断が招いた結果。魔力の弱い私は、雷の魔法を操れるも、一日に一回しか使えず、しかも、雷で倒すことは出来ない。魔法陣で動きを止められるのは一瞬だし、雷でも動きを止めることができるだけだ。
これで魔法は使えなくなってしまったけど、仕方ない。魔物の強さがどれ程か分かっただけでも良しとしよう。
私は馬を待機させている大木まで戻り、馬に乗って、王宮の側まで戻った……