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「ついに今日からかあ…」
十八歳の誕生日を迎えた翌日ーーつまり今日、私達四つ子は旅に出ることになっている。私達は、今日のために、今まで勉強や修行をたくさんしてきた。だから、この日がやっと来たのかと思うと、つい、感慨深くなって、一人、呟いてしまった。
不意に、右手に持っていた杖を見つめた。四つ子の中で最も魔力が強かった私は、成長していくにつれ、魔力を大分コントロールすることも出来るようになって、それを認めてくれた師から、この杖を譲り受けることになった。
私はこの杖がこれからの旅のお供になるけど、他の三人はまたそれぞれ、自分に合った武器を見つけたみたいで、その武器を使いこなせるよう、日々鍛練を積んできたみたいだ。
自室の大きな鏡に映る自分の姿を見つめ、装備を確認する。淡いピンク色の長い髪は二つにまとめているし、師とお母様が選んでくれたピンクと赤のとんがり帽子、薄紫のローブ、黒くて丈夫な靴もちゃんと身につけている。杖や薬草なども持っているし、これで問題ないはず。
昨夜から落ち着きのない自分を落ち着かせるため、深呼吸をして、鏡に映る自分に、ニコッと笑いかけてみた。赤い瞳が不安気に揺れている。それでも、大丈夫大丈夫、と自己暗示を唱えた。
旅に出る前から不安になっていてどうするの!これから魔物にも出会すかもしれないんだから!長女なんだし、しっかりしなきゃ…!
顔をぺちぺち叩いて、気合を入れ直す。よし、これで本当に大丈夫。絶対、あちこちに散らばった宝石の欠片を全て見つけるんだから!
念には念をと思い、鏡でもう一度自分の姿を確認してから、自室を後にした。廊下はいつもの何倍も騒がしくて、いよいよなんだなあと思った。いつもは丁寧に挨拶をしてくれるメイドさんや執事さん達も今日は忙しく動き回っていて、挨拶も足を止めずにお辞儀するだけになっていた。私もそれにつられて、また落ち着きが無くなっていく。
広間に向かうと、既に妹のソードと弟のクラブの姿がそこにはあった。ソードは銃を構えたり、クラブは剣の手入れをしていた。
「おはよう。ソード、クラブ」
「おはようございます、ラブ姉さん」
「…あ、おはよう!ラブ姉さん!」
ソード、クラブが笑顔で挨拶を返してくれたことに少し安堵する。二人とも少し表情が硬かったから、二人にも不安があるのかと、少し心配になってしまった。でも、二人は私よりもずっと逞しいから、二人の笑顔を見て、やっぱりそんな心配はいらなかったと思った。
「…ところで、ダイヤは?」
「ああ…まだ来ていませんね」
「多分、ダイヤ兄さんはまだ寝てるんじゃないかな…」
ダイヤの姿が無いことに気付き、二人に尋ねた。クラブの発言に思わず笑ってしまう。ダイヤはこんな時でもマイペースだなあ…。私達の中でも一番マイペースで、自信家で、いつも余裕のある表情を浮かべるのがダイヤだった。ダイヤのことだからきっと、クラブの言った通り、まだ部屋で寝ているんだろうなと思う。
ダイヤのことを想像して笑っていた私だったけど、これからダイヤやお父様達が此処に来て、全員揃ったら、私達はこの王宮を出なければいけなくなるんだ。
クールでしっかり者のソード、いつも自信家なダイヤ、甘えん坊で泣き虫なクラブ…そして、実の妹のように可愛いクラウン。しばらくこの四人と会えないと思うと、少し寂しくなるなあ。この四人だけじゃない。お父様やお母様やこの王国の人達ともしばらくは会えなくなる。
少し感傷的気分になっていると、廊下からドタドタと、足音が聞こえてきた。な、何の騒ぎ…!?
足音は、だんだんと近づいてきて、広間の扉の前で止まる。バーン!といきなり、扉が開け放たれる。呆然と見つめていると、そこにはーー弟のダイヤの姿があった。ダイヤは少し息を乱し、髪も普段は整っているのに、少しボサボサになっていた。
「ラブ姉さん!ちょっと来てくれ!」
「えっ?私?」
いきなり声をかけられ、驚くも、ダイヤに腕を引かれ、部屋を出る。長い廊下をダイヤと共に駆けて、お城の外へと連れて行かれた。そのままお城の庭園に足を進めると、一匹の白く、美しい馬がそこには居た。…しかし、その馬をよく見てみると、白く大きな翼が生えていた。
「ペ、ペガサス…!?」
初めて見るその存在に腰を抜かしそうになるも、ダイヤにペガサスの前まで連れて行かれてしまう。ペガサスを目の前にすると、顔や足に怪我をしていることが分かった。赤黒くなった怪我の痕が痛々しい…。その様子を見て、やっとダイヤの目的が分かった。
「ダイヤ、このペガサスの怪我を治せばいいのね?」
「はい。お願いします」
私は色々な魔術を学んでいるから、一通りの魔法が使えるけど、その中でも一番得意なのは治癒魔法だから、それを知っているダイヤは、このペガサスの元まで私を連れて来たんだろう。
杖をかざし、呪文を唱える。そうすると、ペガサスの体は白い光に包まれる。その暖かい光によって、ペガサスの体の傷はみるみると治っていった。傷が全て治ると、苦しそうにしていたペガサスが元気そうに翼を揺らした。
「…凄い。傷が綺麗に治った。ありがとう、二人の人間」
ペガサスは目を細めて、お礼を言った。私は馬が人の言葉を話すということに感動を覚えつつ、首を横に振って、笑った。
「いえ!貴方の傷が治って良かったです!」
「有無。これでまた羽ばたけるだろう。気をつけて帰るがいい」
ペガサスは私達にもう一度お礼を言ってから、綺麗な翼をはためかせ、空へと姿を消した。私達はその姿をしばらく見ていたけど、皆を待たせていることを思い出し、慌ててその場を後にした。
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私達が広間に戻ると、既にお父様、お母様、クラウン達も来ており、全員が揃っていた。私達の姿を視界に入れると、皆が安堵したような表情を浮かべた。旅に出る前から心配かけてしまった…。少し反省しつつ、お父様は私達に声を掛けた。
「いよいよこれから、お前達は旅に出ることになる。それぞれ装備は整っているし、健康状態にも問題ない。何時でも出発出来るな。それでは最後に宝石についての話をしよう。宝石は八つの大陸に散らばっていることはお前達も知っているだろう。だが、具体的な宝石の位置までは話していなかったはずだ。だから、今日のために、女神様が力を使って、お前達に地図を授けて下さった。この地図はそれぞれの宝石の欠片の位置を示しており、赤いバツ印が書いてあるところが、宝石の欠片の位置になる。宝石の欠片は近づけば近づくほど、バツ印が赤く光って反応してくれるはずだ。更に、現在位置も示してくれたり、その場所の名称も浮かび上がるようになっているらしい。今からこの地図をそれぞれ渡すから、この地図を見ながら、宝石の欠片を探し出してくれ。お前達の健闘を祈っておるぞ」
お父様の話をしっかり聞き終えると、執事さんから地図を手渡された。九つの大陸と現在位置と名称が浮かび上がっている。赤いバツ印もある。此処が宝石の欠片がある場所…。バツ印までの道のりをしっかり確認して、私は大事にその地図を腰に掛かっているポシェットの中へと仕舞った。
そして、最後にお父様やお母様、ソードやダイヤ、クラブ、クラウン、王宮で仕えている人達と抱擁や挨拶を交わして、王宮を出た。ーー絶対、宝石の欠片を探し出して、持って帰るからね。皆、待ってて。