プロローグ
女神【ノーマネリア】が統べる世界【リーフェ】。
魔術が発達したこの世界には、九つの大陸が在り、それぞれの大陸には、様々な種族が生存していた。
そして、その世界を女神と共に支え続けているが、【キューピッド族】と竜王の【ドミニエル】である。
キューピッド族は、女神の使いとして、様々な種族を見守り、結婚した者達が在れば、子供を授ける役割を担っている。
そして、ドミニエルはドラゴン族の王であり、女神の夫でもある。更に、かつて世界を滅ぼしかけたという魔のドラゴンでもあった。
ーーそれはまだ、魔術も発達しておらず、様々な種族が互いの存在を知らずに過ごしていた時代。ドラゴン族の存在に気付いた人間達が、ドラゴン族を意のままにしようと企み、誇り高きドラゴン族達を滅亡させかけた。
苦しむドラゴン族の仲間達の姿を目にしてしまったドラゴン族の王、ドミニエルは怒り狂って我を忘れてしまい、世界ごと滅ぼそうと、暴れ回ったのであった。
人間達や様々な種族がドミニエルを攻撃し、キューピッド族ですら、ドミニエルを封印しようとしたが、ノーマネリアがそれを制した。
ノーマネリアは、ドミニエルが本当は誰よりもドラゴン族を思っていて、様々な種族が分かり合えるようになってほしいと願っていたことに気付いていたのだ。
ドミニエルの怒り狂った姿に胸を痛め、ノーマネリアは立ち上がった。ノーマネリアはドミニエルの真の願いに応えるべく、アースに掟を設けた後、ドミニエルの心の優しさに惹かれていたため、愛を捧げた。
ドミニエルはノーマネリアの愛で改心し、世界をノーマネリアと共に支えていくことを誓った。
そして、新しい掟『様々な種族が協力し合って、共存すること』により、世界は生まれ変わり、様々な種族が共存していく内に、文化や魔術も発達していったのだった……
ーーそれから時は流れ、平穏に包まれていた世界は、再び、滅亡の危機に襲われることとなった。その原因は悪墜ちしてしまった魔女【サトラス】。
サトラスは元々は、キューピッド族の初代族長であったが、悪魔族の王に恋をして、騙され、永い間、眠らされてしまっていたのであった。そして、長い眠りから目を覚ましたサトラスは、自分が悪魔の王に騙されていたことを知り、絶望に狂い、悪堕ちしてしまい、キューピッド族から悪の魔女へと姿を変え、世界を破滅させようと目論んだのであった。
ーーしかし、結果的には、サトラスの力は強大であったが、女神と竜王が力を合わせたことにより、サトラスを封じることに成功し、大事には至らなかったが、サトラスはもう一度永い眠りにつく時、女神にこう告げたのであった。
『ノーマネリア、お前が腹に竜王との子を宿していることは知っておるぞ……。その子供が誕生した時、我は蘇る。そして、その子供に呪いをかけ、今度こそ、世界を滅亡させてやるーー』
その言葉に、女神と竜王は何としてでも、この子を守り抜こうと誓うが、女神も竜王も、サトラスを封じたせいで、力を使いすぎてしまい、世界を支えるので精一杯な状態であった。
そんな女神と竜王は、自分達の子供と世界を守り抜くにはどうしたらいいかと、何度も何度も、話し合った末、一つの答えに至ったのであった……
******
世界に存在する九つのの大陸の丁度真ん中に位置するのが【リリートゥーラン】。リリートゥーランにはいくつもの国が存在するが、その中でも【ストーリア大国】は最も規模の大きい国であった。
そのストーリア大国の王宮では、今日、可愛らしい四つ子の赤ん坊が誕生していた。
ストーリア大国の王【トランプ王】と王妃は王宮で仕えている者達はもちろん、国民達からもとても愛され、慕われており、四つ子の赤ん坊が誕生した今日も、国中で盛大に祝われたのであった。
その日の夜、国民達も寝静まった頃、四つ子の赤ん坊を寝かしつけたトランプ王と王妃は二人で改めて、二人の子供達の誕生の喜びに浸っていた。
ーーそして、二人が大好物のワインを乾杯した時、王宮が突然にして、白く、眩い光に包まれた。
あまりの眩さに目も開けられずにいると、だんだんとその光は弱まっていき、人形へと変貌していく。光が大分弱まり、目を開けられるようになると、王と王妃はその光に驚愕したのであった。
その光はまるで、女神のようであったからだ。
本などでしか見たことがなかった女神であったが、光に照らされたその姿は本の中で見た女神、そのものであった。
二人が驚き固まっていると、光が消え、女神が完全に姿を現した。女神は驚き固まる二人に穏やかに、美しく微笑み、挨拶をした。
「今晩は。突然、御二人の前に姿を現したこと、お許しください。私は、この世界を統べる女神であるノーマネリアと申す者です。わざわざ、こうして、夜更けに、御二人の前に現れたのには訳があるのです。私は、御二人にーーいいえ、御二人と四つ子達にお願いをしに参りました」
摩訶不思議な状況に口を開け、呆然とするも、『お願いとは一体…?』と考える王と王妃は、そのまま女神の話に耳を傾けた。
「実は今、この世界は悪墜ちしてしまった魔女によって、滅亡の危機に瀕しているのです。貴方方もきっと、本などで悪の魔女のことは知っているでしょう。悪魔の魔女については、代々、語り継がれるよう、私とドミニエルやキューピッド族がそう仕向けてきましたから。そして、サトラスは、私とドミニエルの子に呪いをかけ、私達の子の手によって、この世界を破滅させるつもりなのです。だから、私達は何としてでも、世界と私達の子を守り抜きたいのですが、サトラスを封じた時、私も、ドミニエルも、力を大分使いすぎてしまい、今では世界を支えるので精一杯で、この子を育てられそうにないのです。…そこで、トランプ王、トランプ王妃、四つ子達にお願いがあります。…どうか、私達の子が誕生するまで、この子の面倒を見てはもらえないでしょうか」
女神の突然の話やお願いに驚き固まっていたものの、少し時間を置いてから、話をやっと理解出来た王と王妃がふと、疑問に思ったことを口にした。
「どうして、私達なのでしょうか。女神様と竜王様の子の面倒を見るのなら、他に私達よりも、もっと適役な方々がいるのではないかと…」
女神は二人の疑問に、優しく微笑んで、首を横に振った。そして、二人にこう告げるのであった。
「私は空から、貴方方のことを見ていました。国民達からも王宮の者達からも愛され、慕われる心優しい御二人。更にその御二人の血を受け継ぐ四つ子達。貴方方になら、この子のことも任せられると確信した私は、ドミニエルと話し合って、貴方方にお願いすることに決めたのです」
女神の話に更に驚いた二人であったが、同時に光栄だとも思い、是非、女神の力になりたいと、二人は女神にこう答えた。
「女神様の話には驚きましたが、とても光栄に思います。私達で良ければ、その役目、引き受けさせて頂きます」
二人の返答に安堵する女神。そして、女神は、二人の前に手を掲げ、淡い光を編み出した。その淡い光は丸く大きく膨れ上がる。次の瞬間、光はぱっと消え、女神の両手の上に、斑点模様の桃色の大きな卵が現れた。
「この卵の中に、私とドミニエルの子が眠っています。この卵から私達の子が孵るまでーーどうか、よろしくお願い致します」
王と王妃は、女神から、その卵を大事に大事に受け取った。女神は二人に微笑み、現れた時のように、眩い白い光に包まれ、消えていった……
******
ーーそうして、また時は流れ、四つ子の赤ん坊は、王と王妃の愛情を一身に受け、国民達からも可愛がられ、すくすくと元気に育っていった。また、女神と竜王の卵の子も、王と王妃と四つ子達から愛情を注がれ、とてもとても大事にされていたのだった。
そして、四つ子も今日で6歳の誕生日を迎える。今日の誕生日も、四つ子が誕生した時同様、国中で盛大に祝われることとなっている。王と王妃と四つ子達はそんなお祝いをとても楽しみにしていた。
しかし、四つ子の誕生日を祝うパレードが始まる直前、突然、ストーリア大国に凄まじい地響きが襲った。
国民達や王宮は大混乱に陥り、悲鳴が飛び交う。この地響きは長く続き、初めはストーリア大国だけで起きているのかと思われたが、次第に世界全体で起きていることが分かった。
王と王妃は四つ子達を避難させ、必死に、四つ子達を地響きから守り続けた。そして、地響きはやっと収まり、安否を確認していると、何処からか女の声が聞こえた。
『この世界は魔女【サトラス】によって、滅亡するであろう!』
そんな声が聞こえた途端、国の中央に大きな黒い渦が現れた。おぞましい渦は竜巻のように動き始め、国民達は悲鳴を上げながら、その渦から逃げ回る。
激しく動き回ったその渦は、王宮の前で、ぴたりと動きを止め、萎んでいった。渦が小さくなると、その中から何者かが姿を現した。黒いローブに身を包み、顔を隠したその者は宙に浮き、王宮の窓に手を翳し、窓ガラスを全て割った。
王宮の者達は悲鳴を上げ、身を伏せた。黒いローブの者はそのまま窓から王宮に侵入し、王と王妃と四つ子達の前まで素早く移動した。
「我が名はサトラス…お前達がノーマネリアとドミニエルの子を守っていることは知っておる。今すぐ卵を出せ!」
王と王妃と四つ子達は、怯えるも、必死に卵を背に隠して、守ろうとした。しかし、サトラスに卵のある場所を見抜かれてしまい、サトラスは、卵に向けて手を翳した。
「この世界も奴等の子の命も終わらせてやる…!!」
サトラスの手から黒い鎖のようなものが飛び出す。その黒い鎖は一直線に卵へと向かう。卵はその黒い鎖に縛られてしまい、王達が悲鳴を上げる。
もう打つ手はないのかーーと思われた時、卵が突然輝き出し、黒い鎖を跳ね返した。そして、卵は眩い白い光に包まれる。
「な、何だと…!?馬鹿な…!!」
光に包まれた卵は、宙に浮く。卵の殻がパキパキと音を立て、徐々にヒビが入っていく。ヒビが卵の全体に浸透すると、卵の殻は光とともに弾け飛んだ。
その卵の中からーー赤い竜の耳と尻尾と爪を持った可愛らしい赤ん坊が姿を現した。赤ん坊は産声を上げながら、ゆっくりと落ちていく。それを慌てて、四つ子の一人が受け止めた。
赤ん坊は抱かれた途端、泣き止み、笑顔を浮かべた。そして、赤ん坊の胸から、小さくて、様々な色の光がいくつも浮かび上がり、その光は一つになり、宝石のような美しい石に姿を変えた。
丸く、虹色に光るその石は、サトラスを照らし出す。サトラスはその虹色の光に目を開けられなくなり、苦しみ出す。
「何だこの光は…!!目が焼かれる…!!……ええい!石も赤ん坊も消し去ってくれるわ!!」
黒いローブから渦巻き状の黒い杖を取り出し、呪文を唱えるサトラス。そして、石と赤ん坊に向け、杖を翳した。
「消え去れ!!」
サトラスが攻撃した時、石は再び、虹色に輝き出した。そして、その光はサトラスを呑み込み、サトラスは苦しみもがいた後、動けなくなってしまった。
石は、赤ん坊の前に出たことによって、サトラスの闇の力をもろに受けてしまい、砕かれ、飛び散り、窓の外へと消えてしまったが、石が闇の力を全部受けたことにより、赤ん坊は無傷であった。
王と王妃の四つ子達は、赤ん坊を抱え、守るように赤ん坊を囲った。サトラスは虹色の光に囚われ、身動きが取れず、苦しんでいる。そんな時、白い光と赤い光が窓から飛び込んできて、サトラスに前に立ち塞がるように現れた。
白い光と赤い光は、それぞれ、人とドラゴンに姿を変えた。ーー二つの光の正体は女神と竜王。
女神と竜王は、サトラスに向かって、それぞれ白い光と赤い光を放ち、サトラスは呻き声を上げながら、窓の外へと逃げた。
「おのれ…!!絶対に我が、この世界は滅ぼしてやる…!!」
サトラスは最後の力を振り絞り、赤ん坊と四つ子達に向かって、杖を翳し、呪文を唱えた。四つ子達は赤ん坊を庇い、黒い渦に飲み込まれてしまう。女神と竜王が黒い渦を消し去ろうとするも、跳ね返されてしまう。
「それは呪いだ!お前達、四つ子が二十歳の誕生日を迎えた時、この世界は、お前達にかかった呪いで滅亡するであろう…!我の手下の魔物達も、もう時期目覚める上、あの忌まわしい石も砕けた!これで、お前達に抗う術はもう無い!」
不気味な笑いを浮かべ、そう告げたサトラス。サトラスを女神と竜王が引っ捕らえようとするが、サトラスは姿を消してしまう。王と王妃は絶望し、涙を浮かべる。四つ子達はやっと渦から開放され、息を吐き出した。
「トランプ王、王妃。こんな事態になってしまい、本当に申し訳ありません。ですが、サトラスの呪いには解く方法もあります」
「そ、それは一体どうすれば…!?」
「私達の子が生み出したあの石です。砕けて飛び散ったあの石の欠片を四つ子達が二十歳になる前に、見つけ出せれば、呪いも解けるはずです」
「!…しかし、あの石は粉々になっているのでは…?」
「いいえ。石は八つに砕け、リリートゥーラン以外のそれぞれの大陸に飛び散ったのです。私の目の力で、石の行方を見ました」
「ですが…サトラスも生き残っている上、手下までいるとなると…、石を取り戻すことも困難なのでは…」
「サトラスは最後の力を振り絞って、四つ子達に呪いをかけたのでしょうから、今は力がほとんど残っていないはずです。サトラスに力が無い間は、サトラスの手下の魔物達も下手に動く事は出来ません。サトラスが力を取り戻す前に、四つ子達と私達の子に力をつけさせ、石を探し出すのです」
女神の言葉に、竜王が頷き、白い光と赤い光をまた生み出した。その光は宙で混ざり、赤と白のマーブルな光へと変わった。その光は四つに分かれ、四つ子達の胸に飛び散り、溶け込んでいった。
「こ、これは…」
「私とドミニエルの力を少し、四つ子達に分け与えました。これで、魔力の無かった四つ子達も魔力持ちになりました。それぞれの魔力の属性は成長していく内に分かるでしょう。四つ子達の心の成長によっては、魔力も強力なものへとなります。きっと、その魔力が四つ子達を支えるでしょう」
「ありがとうございます…!!」
「私達の子もこの先のサトラスとの戦いにきっと力を貸してくれるはずなので、この子のことをもう少しだけお願い致します」
ーーこうして、女神と竜王に魔力を授かった四つ子達は、更にすくすくと成長していった。
そして、四つ子達は、八つの大陸にそれぞれ散らばった宝石の欠片を求めて、仲間を探しながら、旅に出ることとなったのである。