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忍者、異世界に行く  作者: 和尚
忍者、出会う
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忍者、一週間を過ごす

 迷宮での活動を終えて街に入ると、太陽が顔を表している。宿屋に戻って朝食と睡眠を貪り、昼過ぎ頃に目を覚ました。

 迷宮での仕事は一日置きで行われる。兵士の仕事は迷宮での実戦訓練だけではなく、街の警邏や公共事業に対する護衛、デスクワークなどの業務も当然存在する。そのため兵士は迷宮での訓練と他の業務を一日置きで交互に行うのである。アルバイトもグループで固定されているため、彼らが迷宮に入らない日は俺も入ることはない。つまり今日は休みとなるのだ。

 日当は基本給10,000イルで、運搬量などの出来高で少し増加するというシステムだ。昨日貰ったのが13,000イルなので、宿代は確保できている。昨日と同じ量を確保し続ければ貯金することができるな。

 お金にも余裕があることだし、せっかくの休日、有効活用せねばな。



 というわけで訪れたのはギルドである。

 正確にはギルド内にある図書室を、である。ギルドは国営というのは前にも言ったが、そのなかには図書室も併設されていて、受付に言えば利用可能なのだ。また受付では市民登録や納税なども申請することができる。市役所や図書館、斡旋所(ハロワ)などの公的機関の複合施設といえるだろう。

 利用料に3,000イルほど掛かるが必要経費と割り切ろう。バイト代の四分の一だが、必要経費だ。情報を金で買えるんなら安いものよ。俺は前世でそう習った。

 図書館はそこまで広いものじゃなかった。交易が盛んなところならもっと大きいそうだが、ここのは書斎といえる規模だろう。中にはカレスの郷土史や国の歴史、算術や料理、魔術や武術などなど、幾多の種類の本が並んでいた。

 そのなかからこれはという本を見つけ、閉館となる日没まで読んでいった。



「ッシ!!」 

 速く、それ以上に重い突きが五発。

 その全てが五体の牙犬の顔面の中心を正確に貫いていく。槍の速さに空気が追い付かず、飛び散った血肉が槍を通ったあとの空間に引き込まれている。

 反応自体はできるが、あまりの威力に回避以外の対処ができない、五連の死。今の俺が防ごうとしても、膂力が足りずに弾かれるだろう。

 これが熟練兵たる、ジンさんの槍か。

「大丈夫だったか坊主?」

「ええ、ジンさんのおかげで」

「そりゃ重畳。おーいお前ら。こっちにまで魔物が来とるぞぉ。わしらを殺す気かぁ?」

「っく。すいません、ジンさん」

「逆。死ぬの。こっち」

「ちょっとー!! こっち助けないよジイさーーん!!」

「はてさて、誰に助けを呼んでのかねぇ。どこにもそんな老けたやつはいねぇぞ」

 くくく、と人の悪い笑みを浮かべているのがジンさん。

 若手の彼らは現在二桁に及ぶ魔物たちに囲まれている。とは言っても三人の連携によってカバーされているから、苦戦はしているものの絶望的というほどではない。本当の本当にやばくなったらジンさんが出張るだけだしな。

「ほんじゃあ、ここから高みの見物といこうかのう坊主」

 そういって懐からツマミ--フィルティッシュを炙ったもの--を取り出し、食い始めた。三人衆の頑張る姿は最高の肴と言っていたから。ドサドめ。

「すまんのぉ坊主。あいつらが不甲斐無いばかりに」

「いやー、ジンさんに守られているんでこっちは安心ですよ。内心ヒヤヒヤものでしたけど」

「はてさて、ホントかのぉ?」

「……何か疑問でも?」

 何か気づいたのかこのジジイ。

「いやなに。やけに肝が据わっとる。それにあいつらが戦っているときの目が品定めをしとるみたいで、まるで古強者だ。相当な場数を踏んどると思っておかしくねぇだろ」

 なるほど、年不相応だったか。今の年齢に合わせた行動しなきゃ擬態は難しいな。

 しかしまだ二日しか会ってないというのに、そこまで見抜かれるとは。この人クラスの技量の持ち主がゴロゴロいるなら、この世界かなりやばいなぁ。

「まぁ一人旅の最中に盗賊やらは退治したこともありますし、色々とね」

 とりあえず誤魔化したろ。嘘はついてないし

「ふん、若ぇのに苦労してんなぁ坊主。見直したぜ」

 そういってジンさんは目元を柔らかくし、俺の頭を撫でてくる。

 くすぐったいが、なんとなく心地よいため、その手を払うことはなかった。その手が離れたとき、口惜しい感じはしたが、その思いは呑み込み、別の話題を振る。

「ジンさんは魔力をどうしているのですか? 魔導具とかに使っているんですか?」

「いや、俺は魔導具なんぞ持っちゃいねぇぞ。もっぱら身体強化のブーストに使ってるな」

 ブースト? なんじゃそりゃ?

(ジョブ)のレベルが上がると身体能力が上がる。微々たるもんだがな。魔臓に繋がる器官が強化されるとか。その身体能力上昇の機構に魔力を突っ込み強化される。原理はこんなもんだ」

 なるほど、便利な能力、いや臓器か。魔力を使っているなら聞けるかもな。

「魔力の扱い方とか教えてもらえませんか? ユナさんはちょっと……」

「あいつは感覚派だからな。ま、暇だし教えてやるのもやぶさかじゃあねぇな。ただやっぱ獣人だから魔力が少ねぇってことは理解しとけよ。まずは魔力の把握から--」

 三人の悲鳴を聞きながら、俺とジンさんの魔力操作講座はスタートした。



 明くる日の休日、前回と同じように昼に目を覚ます。昨夜も迷宮に潜り、魔力操作と肉体の鍛錬を行ったためだ。

 鍛錬の結果、全身が酷い筋肉痛を起こしている。

 屋台の料理で軽く腹ごなししながら、目的地へとえっちらおっちら足を伸ばす。場所はバーグさんから聞きだしている。そのついでに紹介状も頂戴した。

「こんにちはー! 今いいですかー?」

「おいおい坊主! ここに来るにはちょっと早いぜ!! もう少し大人になってから来な!!!」

 おおっ。こういう店のテンプレみたいな親父が現れたな。ちょっと感動。こういうところはファンタジーしてるぜ。

「いちおう、バーグさんからこちらを預かっているのですが」

「んー? こいつは、ギルドからのだな」

 開いて素早く目を通すと、歯を見せた男臭い笑みを浮かべ、俺の背中を思いっきり叩いた。表情に出さなかったし声も漏らさなかったが、心では絶叫していた。『オレ! イマ!! キンニクツウ!!!』と。

「了解したぜ、ディール武具店によく来たな坊主!! 歓迎するぜ!!」

 俺が全身全霊で痛みに堪えている間に読み終わり、デカい声を掛けてきた。

 そう、俺が来たのは武具店。武器や防具を扱う店だ。

 この世界の武器は剣や弓ばかりで、銃どころか火薬すら見つかってなかった。図書館で調べただけだから、国レベルでなら発見・研究しているかもだけど。

 ただ魔術というこの世界ならではの技術を応用している武器などは直に見ておく必要があった。魔導具というやつだな。実際にどういう

 本音としては、そろそろ武器手入れ用の砥石やら予備の武器やら色々欲しい、といったところだ。まだ予算はあるため買い替えも視野に入れとこう。

 店と同じく名を持つこのディールという鍛冶師は、街に駐留している兵士の武器の世話をしているだけあって、この街最高の腕を持っているらしい。手のタコ、腕の筋肉の付き方、火に焙られた肌などから長い年月を鍛冶に費やしているのが読み取れる。兵隊に卸していることから信用も高いときた。うん、悪くないんじゃないかな。

「今日は一体何が欲しいんだ!? 武器か!!? 防具か!!!?」

「とりあえず武器を見させていただいてもいいですか?」

「おおっ! 気に入ったのがあったら声をかけな!! 試しに振っても構わんが店ン中壊すなよ!!!」

 馬鹿でかい声に押されて店の中を見て回る。

 店内には、長剣短剣、槍や斧、斧槍、ハンマーといった武器、鎧や兜、籠手具足といった防具など、種々様々な装備が飾られている。それらから、この世界での鍛冶師の技術がどれほどの物かを把握していく。剣といった近接武具の製造はこちらのほうが盛んなのだろうが、いかんせん元の世界の技術と比べると見劣りしてしまうな。

 これはと思うものは手に取ってみたが、やはり求めるものとは違っていた。

「武器の注文とかって出来るんですか?」

「オーダーメイドか!? できるにゃできるが、値は張るぞ!! 払えんのか!!!?」

 詳しく聞いてみたが今の俺じゃ払えるものではなく、あえなく断念した。絶対必要な物でもないし、要望通りの品ができるか怪しいしな。

 武器の点検や砥石やら入用のものを購入し、ディール武具店を後にする。その後は前回の休日同様ギルドを訪れ図書室で日が暮れるまで過ごしたあと、宿に戻り武器の手入れを始めた。

 大丈夫だとは思ったが、一応ディールさんに見てもらいお墨付きをもらったので、剣を買い替えることはしなかった。どうやらこの世界では結構な業物らしく、子供が持つものではないと驚かれてしまった。盗賊からかっぱらったとは言い難いので親から頂いたものと誤魔化したが、場繋ぎ的な剣のつもりだったので、それなりしか手入れしていなかったのだが、その手入れの温さが気に障ったらしく、こっぴどく怒られてしまったな。この世界に来てから怒られること多くないか俺? 筋肉痛時の拳骨は反則だよディールさん。



「あれー? エイナ君、ちょっと雰囲気変わった? なんか、影が薄くなったような……?」

「ユナ、ひどい。でも、ちょっと同意」

 ユナとアランに突っ込まれた。聞く人が聞けば泣くぞそれ。

「いや、そう言われましてっ、も……」

「どうかしたのかエイナ? 随分辛そうだが」

「あー、ちょっと筋肉痛でして」

 少し緩和されたが、一日くらいじゃ全ては取れなかった。苦笑いを浮かべるしかないな。

「筋肉痛だ? 獣人がなるなんて相当だぞ。どんだけキツイ仕事したんだ坊主?」

「はは、ちょっと無茶しちゃいました」

 仕事には支障を生じないとは思うが、力仕事に筋肉痛を持ち込んでは、やはりよい顔はされないだろう。怒られるかもしれんな。

「稼ぎたいのは分かるが、まだガキなんだ。あまり無茶すんじゃねぇそ」

 覚悟していたところにかかってきたのは、そんな優しい言葉だった。前回のときも思ったんだが、態度が少し軟化したな。深く突っ込まれずに済んだだけでも儲け儲け。

「無理しないでねエイナ君。きつかったら言ってね」

「お気遣いありがとうございます。でも仕事は仕事なのでちゃんと果たしますよ。それに……」

「それに?」

「元気良くいかないと、薄くなるどころか消えてしまいそうですしね。僕の影」

 今度浮かべた笑顔は、随分意地が悪いものだったんだろう。ユナが一歩ばかり後ずさってしまった。

「エイナ、根に持ってる?」

「いえいえ、お言葉に甘えてみただけですよ」

 忍者にとっての褒め言葉を言われただけなのに、根に持つはずがない。ちょっと言い返したくなっただけだ。



 なんやかんやあったが、昨日も無事に仕事を果たすことができた。

 昨日は筋肉痛のせいもあり、迷宮には潜らずに早く就寝したため、日の出と共に起床する。朝食を頂くと街の外へ出て迷宮の森へと向かう。

 と言っても迷宮の中に入ることはなく、壁の周りに生えている草叢を散策していく。

 見て回りながら、これはという草を見つけていく。薬草の本に載ってた草のうち、俺の目的に沿う草を見つけては採取していく。

 ちなみに壁の周りでこんなことをしているのは俺だけではない。壁は迷宮を囲っているだけあって、幅広いものとなっている。その分だけ草叢の範囲は広くなる。そこで生えている薬草を採るという仕事があるためだ。迷宮から滲んだ魔力を含んだ薬草は効果が大きいため、買い取り価格も街のそばに生えているものより高く、近くに兵士も居るため子供でも安全に採取できる点から、日中で人が消えることがない。迷宮の外だから兵士もうるさく言わないこともあるのだろう。

 そんなわけで正午まで草むしりをし続け、図書室で勉強をしたあと宿に戻った。


 こんな感じで街についてからの一週間は過ぎ去り、特にトラブルはなく、そのまま一月が経過していった。



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