戦闘・2
「やめろ!」
コルトの声が響く。カルタスもラルフも顔を上げた。
同時に銃声が轟き、ラルフはコルトを見つめた。しかし彼はびくとも動かない。その時視界の端でカルタスの体がよろめいた。
「……うっ」
大きな体が膝をつく。ラルフは信じられない思いでそれを見つめた。小男は目の前のコルトではなく、カルタスを狙ったのだ。
コルトは我に返って小男の銃を足で蹴り上げる。再びその手を離れた銃は見張りの方へと転がった。
「ち、逃げろ!」
男たちは立ち上がり、血を滴らせながら森へと走りだした。
「どうする? 追えばいいか? ラルフ」
「いや、いい。門を閉めろ」
「閉門だ! 早く」
コルトが叫び、見張りが勢い良く門を閉める。
ラルフはカルタスの傍に寄った。血が出ているのは左の太ももで肉の一部が削げている。
「誰か医者を呼んでこい!」
叫んで、袖を引き裂き、太ももを縛り上げることにより止血を試みる。
「大丈……夫、だ」
カルタスは眉根を寄せたまま、そう言う。しかし顔色は悪く、額には油汗がにじんでいる。
「済まない。俺がちゃんとトドメと刺さなかったから」
ラルフが唇を噛みしめると、カルタスは首を振った。
「違う。銃を持つ奴がいることを考慮し忘れていた。油断していた自分のせいだ」
やがて医者が来て、傷口を確認すると毛布を持ってくるように告げた。それを使ってカルタスを運ぶつもりのようだ。
「かすったんじゃな。幸い大きな血管を傷つけたわけではなさそうだが。まあ部屋で治療しよう。今は鎮痛剤が不足しているからしばらく痛いぞ」
「仕方ない。我慢しますよ」
カルタスは気丈に医師に笑いかける。医師は毛布と棒を使って簡易タンカを作ると男たちにカルタスを乗せるように指示する。
「ラルフ、……タイトを頼む」
運ばれる直前、カルタスはラルフにそう頼んだ。運ばれていくカルタスを、タクミの後ろに隠れるようにして震えながら見つめるタイトにラルフは近づく。
「……俺のせいで」
タイトはラルフを見上げ、そして首をふる。ラルフのせいじゃない、と言ってくれているのだろうがその全身は信頼できるものを失った恐怖に震えている。
「タクミ、タイトを宿屋に連れて行ってしばらくついていてやってくれ。カルタスの治療が終わったら報告をやるから」
「分かりました」
「しばらく門は閉めておいてくれ。開門要求があった時は呼んでくれ。後は死体処理だな。コルト、手伝ってくれ」
随所に指示をだし、動き出す。敵とはいえ死体を放置しておくのは衛生上の観点からも良くない。穴を掘って埋めることにし、数人に頼んで穴を掘り始める。
「ラルフは村長に報告に行ってこいよ。こっちは何とかしておく」
「ああ。……でも」
ラルフは玉のように噴き出してくる汗を拭いながら死体の山を見る。
戦争をする以上、人を殺す覚悟が必要だ。覚悟がないと今みたいなことになる。自分の曖昧な判断が味方を傷つけるのだ。カルタスのように、守るべきもののために四人もの男を躊躇なく倒せるようにならなくては。
――俺に、それができるのか?
血の匂いに躊躇してしまうような状況で、人を守るのはおそらく難しい。ラルフが唇を噛みしめると、コルトがポンと肩を叩いた。
「お前はさ、優しすぎるんだよ。死んだのは敵なんだし、いちいち気にかけていたらキリがないぞ」
「コルト」
「少なくとも今お前がしなきゃいけないのは、誰でもできるような墓掘りじゃねぇよ。敵が入り込んできてる現状を、ちゃんと村長たちと話し合ってこいよ」
「……そうだな」
スコップを近くに居た村人に託し、ラルフは村役場に向かって歩き出した。
*
役場ではカスタ村長とモニール村長、それにグレオと避難民の有力者が集まって話していた。
「現状は一体どうなっておるんじゃ。あ、これ、ラルフ遅いぞ」
「すみません」
大声でがなりたてるのはカスタ村の村長だ。ラルフが席についたのを見て、ようやく大人しくなる。
「状況の確認を致しましょう。皆さんから頂いた情報を総括的にまとめたものをお話します」
冷静な声で告げるのはグレオだ。
「まず、前回お話しした時には、戦争の中心は西の合戦場であるとお話しましたが、現在は突破され敵軍は首都に向かって進軍中です」
「なんだって?」
過去の多くの戦は大した実力差が無く西の合戦場での戦が長びくばかりだった。しかし今回は、確実にカルゼン公国のほうが一歩リードしている。
「軍の主力は西支部からバナーに本拠地を移し、徹底抗戦の構えを見せています。現在王は首都の城内におりますが、戦況を見て軍東支部にお移りいただく可能性も出てきました」
「ヤバイな……」
グレオの報告とラルフの呟きに一同がシンとする。苛立ちを隠せないまま机を叩くのはカスタ村長だ。
「しかし、主力戦隊のことはそちらに任せるよりあるまい。我々の仕事はこの村の安全を死守することじゃ。ラルフ、先ほどの騒動は一体何だったんじゃ」
「はい、報告します。先ほど避難民を装ったカルゼン公国の人間が二人、村に入り込もうとしました。彼らは俺が以前偵察の際に見かけた男たちで、相手も俺に気づいた為戦闘という形になりましたが、本来なら偵察として村内部に入り込もうとしたものかと思われます」
ラルフは話ながらどんどん気が重くなってくる。気づけたから発覚した。やって来たのが知らない男なら間違いなく疑わずに避難所に入れていた。そして内部の情報は敵方に送られ、いつしか中から崩壊させられる。
「今回はその後増援として現れた五人の刺客を加えた七人と戦闘し、四人は倒しましたが三人は逃亡という状況です」
「ならとりあえずは安心していいんだな?」
「いえ。俺には今までやってきた避難民も全員信用できるかどうか自信がありません。正直……疑い出したらキリがない」
「……それじゃあ、どうすればいいんじゃ」
カスタ村村長の声も弱々しくなる。
「とりあえず、昔からいる村人を中心に人間関係を洗いざらい調べあげるしかないでしょう。各村の古株たちに協力を仰ぎます」
グレオが建設的な意見を言う。
「お願いします。警備の方も……できるだけ信用できる人間を中心に組みますので」
ただでさえ居ない人員を更に絞り込むのは辛い。それに、タイトのことも気になる。この村が安全であればこそ、そしてカルタスが付かず離れずでタイトを守っていたからこそ問題なく滞在してもらえたが、こうなってくると話が違う。




