避難民・2
避難所につくと、グレオが既に収容場所を準備してくれていた。医師も待機しており、順次連れ込まれ、いつしか列が出来上がる。ダウンズはそれほど酷くもないのか列の後方でラナと話していた。
ラルフはシーナに朗報を伝えようとしたが、先にシーナがラナの姿に気づいた。
「母さん!」
「シーナ」
一つに結った髪が風に揺れる。ラルフの目の前を通り過ぎるシーナからしずくがキラリと光った。
「よかった、無事だったんだ。もう、……会えないかと思ってた」
「馬鹿だね。この私が死ぬわけ無いだろう」
答えるラナの声も潤んでいる。
気を利かせたダウンズが二人でゆっくり話すように言い、ラナとシーナは揃って集会所へ入っていく。
ラルフはその他の指示をだしたあと、セシルの様子を見ようと調理場の二階へ向かった。
*
階段を上る途中で、小さなささやき声が聞こえてきた。内緒話をしているのはコルトとタクミの二人だ。でかい図体が体を寄せあっている姿は見ているだけで汗臭い。
「何してんだよ、二人共」
「ラルフ。お前もセシルを見に来たの? ちょうどいいや、一緒に入ろうぜ」
「まだ入ってないのか?」
単純に疑問をぶつけるとタクミがため息をつく。
「いや、怒られそうじゃないですか。一人だと気まずいなって思っていたらコルト先輩がきてラッキーって思って」
「俺は弱ってるところでセシルを口説こうかと思っていたから、お前が余計だと思っていたところだ」
とんでもないことを言うのはコルトである。
「……セシルも好みのタイプだったか?」
「美人だからな」
「……誰でもいいのか」
コルトのことはもう放っておこう、とラルフは誓う。その恋愛観念はさっぱり理解できない。
「病人の部屋の前で騒ぐのはやめようぜ。とっとと入ってとっとと退散する。それが基本だ」
ラルフが二人を押しのけ扉をノックすると、「はい」といつものセシルの声が聞こえた。
「セシル、入るぞ」
三人が部屋に入ると、セシルは驚いたように目を見開き、半身を起こした。
「起きなくてもいい。どうだ? 具合は」
頬がまだ赤い。額に手を当てて確認したいところだが、きっと嫌がられてしまうだろう。
「まだ下がりきってないみたいだな。大丈夫か?」
コルトが枕元にある洗面器の水でタオルを絞り、セシルの額に乗せてやった。
「セシル、腹へってない? 俺、なんかもらってきてやろうか」
笑って言うのはタクミだ。セシルはそれには返事をせず、三人を見回すとため息をついた。
「皆揃ってどうしたんですか」
「お前の様子見にきたんだ。セシルが倒れるなんて初めてだし。これでも心配してるんだぞ」
ラルフが笑って言うのと同時に、コルトが身を乗り出す。
「そうそう。できればもうちょっと弱った姿が見たいな。俺に甘えてもいいんだぜ?」
冷気がほとばしりそうなほどの軽蔑を含んだ眼差しでセシルがコルトを睨む。
「……そろって馬鹿みたいですね」
「お、照れてんのかぁ」
「違います。コルト先輩、もう少し静かにしてください」
セシルは赤い頬を更に赤くしたかと思うと、毛布を頭からかぶった。そしてポツリと続ける。
「私の心配なんて、しないでください」
ラルフとコルトは顔を見合わせ、タクミは毛布の塊と化したセシルを上からつつく。
「そんなこと言うなよ。仲間だろ、俺ら。俺とセシルは同期なんだし、もっと頼ってこればいいのに」
「タクミなんか、……頼りないよ」
毛布の中からの反論は、いつものセシルよりも砕けていて、妙に可愛らしい。
「確かにな」
「ちょっと頼りないよな」
「ひどい! 先輩たちまで」
タクミの雄叫びに、ラルフもコルトも笑った。毛布が震えているところを見ると、セシルも笑っているのだろう。第二小隊として旅をした時のことをラルフは懐かしく思い出した。
「一晩ゆっくり休めよ。俺、今日は隣部屋に待機してるから何かあったら大声出せよ」
「ラルフだって疲れてるだろ。俺と交代で待機にしようぜ」
「そうだな。でもお前は信用ならないからな。弱ったセシルに手を出すなよ?」
「コルト先輩じゃあ逆に危ないですよ。俺が交代要員になります」
「お前ら失礼だなー」
セシルの返事も聞かないまま、三人は隣の部屋に移った。
「いっそここに毛布もってこようか。実は集会所より静かに寝れるんじゃねぇ?」
コルトが言うとタクミものってくる。
「いいっすね。俺、三人分持ってきましょうか」
「こらこら、避難所に寝るのは警備も兼ねてるんだ。一人もいないのはマズイ。五時間ずつで交代な。まずはタクミ、夜中に俺が交代する。朝方にコルトな」
「了解。じゃあ仮眠すっか、ラルフ」
「だな」
この場をタクミに任せ、ラルフとコルトは集会所の空きスペースに行き、そのまま吸い込まれるように眠りについた。




