避難地で・1
途中の村にも避難を呼びかけながら、一日中歩き通して村人たちが落ち着いたのは国の中心より少し西南にあるカスタという村だ。他の村々に比べると規模が大きく、大きな集会場や学校があり、医者もいた。
ラルフは村長を促し、まずは長同士の交渉をするよう告げた。村長はラルフも一緒に来るように言ったが、ラルフは首を横に振る。シーナを一人にするのは不安だったし、軍を脱退した自分が加わっているのは今後の軍との交渉には良くない気がしたからだ。
「シーナ、大丈夫か?」
「う……ん」
ずっと歩き通しだったからか、彼女は座った途端眠気に襲われたようだった。ラルフは上着を脱いで彼女の肩からかけ、一緒に来た村人たちにシーナのことを頼んだ。
そしてラルフは逃げてきた村人の数を確認することにした。これからどうなるにせよ、状況を把握して無ければ考える基盤ができない。
ラルフがあちこちを見まわっていると、途中で見知った顔に出会った。
「……なんで、お前らがここに?」
「ラルフせんぱーい! やっと見つけた」
そこに居たのは三人組だった。黒髪で背の高いタクミが真っ先にかけてくる。その大きな体の突進を受け止め、脇から残る二人を覗くと、ニヤニヤと笑うコルトと、癖のある金髪を揺らし無表情でこちらを見つめるセシルの姿が見えた。
「タクミ! それにコルトに、……セシルまで」
「やった会えたぜ。いき違ったらどうしようかと思ったよ」
そう返すのはコルトだ。セシルは無表情のままコルトの後ろについてくる。
「どうして……軍から派遣されてきたのか? 今の状況は一体どうなってんだ?」
ラルフがコルトに尋ねると、相変わらずのあっけらかんとした調子で返事がくる。
「実は俺らも分かんねぇんだよなぁ。お前がいなくなってからさ、俺とタクミは話し合ってお前を追いかけて軍を出ることにしたわけ。そしたらセシルも行くっていうからさ。三人で連れ立って、お前から二日遅れで軍を飛び出したんだ」
「そうそう、で、モニールまでの道を辿ってここまで来たってわけですよ」
続けるのはタクミだ。ラルフは二人の言葉に呆気にとられる。
「俺を追いかけてって……お前らも軍をやめてきちゃったのかよ。嘘だろ? セシルまで?」
コルトとタクミならばまだ分かる。しかし、先月の隊編成で初めて顔を合わせた程度の付き合いのセシルがそこまでやるとは信じられなかった。
マジマジとセシルを見つめると、彼女は照れたように視線を逸らしてボソリと呟く。
「……自分の隊長はあなたですから」
フイとそっぽを向いたセシルを見つめていると、コルトが肩を叩いてきた。
「朝方、敵軍が動いたって連絡が早馬でこの近隣にも届いた。今日中に西支部に到着できるようにと馬を変えて出て行ったから、じきに軍も動いてくれるとは思うけどな」
「動くかな。そもそも情報は持ってたんだから、俺が進言した時に上層部が聞いていてくれれば……」
「それは今更言っても仕方ない。これからどう対処するかのほうが問題だ。その前情報を知っているだけに、軍はあまりこちらに大軍は出さないかもしれないな」
「ああ」
敵方の戦略は、軍の主力を南西方向へ引きつけてからの北西方向からの総攻撃だ。おそらくだが、聖地タクタの丘にある“祈りの神殿”を占拠することが目的なのだろう。
ラルフの進言によりそれが分かっている軍上層部が主力を南に動かす可能性は低い。
「かと言って、体面上ここを見捨てるわけにも行かないだろうからな。東支部の部隊からよこすんじゃないか?」
「それじゃあ時間がかかるだろう」
「上層部の天秤次第だろうな。何もない南の村と遺跡のある北の大地を秤にかければどちらを優先するかは明らかだろう」
「じゃあ、モニールは捨て駒ってことかよ」
吐き捨てるように言うとコルトが肩を叩く。
「そこが故郷なお前にとっちゃ苦しいだろうが、戦況を読むには事実を見つめないと」
「それは……そうだ」
奥歯を噛み締めながら、ラルフは様々な可能性を考える。おそらくはすぐ救援が来ない確率の方が高いだろう。しかし、敵軍はドンドン進軍してくるだろう。ある程度は、自分たちだけで踏ん張らなければならない。
「コルトたちが来てくれて助かったよ。かなりの戦力になる」
「三人増えたところで変わらないだろ」
「いや、軍の訓練を受けた人間がいるのと居ないのは違う」
戦える人間が何人居たところで、皆がバラバラでは意味が無い。これから訪れる脅威に対して計画的かつ系統立てて対応していくのに、知識があり気心の知れた仲間がいるのはなんと有り難いことだろう。
「ありがとな、コルト、タクミ、セシル」
ラルフが微笑むと、コルトとタクミは親指を立てて笑い返す。セシルは一歩離れたところから無表情のまま頷いた。




