プロローグ
古来、世界は海で覆われていた。大いなる水はゆるやかに流れ、この世界に生命を創りだしていく。
水は徐々に太陽の熱に奪われ、世界には一つの大地が現れた。
そして大地に根付いた緑は清浄なる空気を生み出し、多くの生命体が陸地で生活していくようになった。
その中でも一際知恵を持った“人間”という種族が、群れをなしながら暮らし始めた。
彼らは海と大地を崇め、神の名をつけた。海を母の神シール、大地を父の神タクタと。
人間は地を耕し家を作り、定住しながらその規模を広げた。
群れをなした人間には序列が生まれていく。支配するものと支配されるものとに別れ、支配者たちは自らの領土をより増やそうとし、そのために神の存在を利用し始める。偶像を持って神と成し、自然への祈りは徐々に消え、人間たちは自然との共生を忘れてしまった。
やがて狭い領土を取り合うように戦争が起こった。
大地に祈り、自らの土地を良くすることを忘れ、相手の土地を肥沃だと語り力任せに奪おうとしたのだ。
もしかしたらそれが大地神タクタの怒りを呼んだのかも知れない。
大きな地震が怒り、大地は散り散りとなり、文明は崩壊した。
緑豊かだった大地は、こうして荒廃した土地へと舞い戻ってしまったのだ。
そして時は流れ、世界には再び文明が興った。
一度断絶された大地は再び交わることは無く、それぞれの大陸が独自の文化を創り出し、その言語体系の違いから交流は盛んにはならなかった。
七つに別れた大陸の一つ、面積の一番大きいアルトラド大陸のそばには、小さな島があった。独自の測量法によって作成された地図によるとハートの形をしており、その中央部には未だ旧文明時代のタクタの神殿が残っていた。そんな理由から、その島こそが大地神信仰の聖地と言われ、島全体を人はタクタの心臓と呼んでいる。アルトラド大陸の国々がその小さな島の支配権を奪おうしないのも、タクタの怒りを恐れるためだとも言われている。
タクタの心臓には、ザムザ王国とカルゼン公国という二つの国が存在していた。元々はザムザ王国の統一国であったものが、信仰の違いから派閥ができ、後から生まれたのがカルゼン公国である。
物語は、その二つの国の境目にあるモニールという村から始まる。