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夜の国  作者: 小択出新都
1.夜の国の公爵さま
5/109

戦います 1

 次の瞬間、私たちは砦の前にいた。

 それは砦にしては大きく、朽ちてはいるものの芸術的な意匠がところどころにあった。一度打ち捨てられた城が、今回の戦役で砦へと改造されたものかもしれない。砦の周りにはかがり火が煌々と焚かれている。

 私たちが現れた瞬間、かがり火がぼわりっと揺れた。

 見張りの兵士の気配はなかった。

 おそらく中にいるのは、イフリートとその配下の魔法使いだけだろう。それ以外の人間がどうなったかは、いま考えることではなかった。

 後ろの騎士たちは緊張した面持ちで砦を見上げている。初陣ではないだろうが、魔人との戦いは経験したことがないだろう。全員が息が詰まるような表情だった。

 私としても、こっちのほうが都合がいい。妙に勇んで突撃などされたら、それこそ厄介だ。

 だいたい普通の人間が魔人と戦闘経験があるとするならば、死ぬような重傷を受けているか、もしくは墓の中だ。別にこういう反応は変わったことではない。

 一方。

「うわああああ、なんだこれはあああ!?」

 宰相はようやく自分の状況を理解したらしい。大きな声で騒ぎ出した。

 それから私たちの姿に気づくと、慌てた様子で駆け寄ってきた。

「間違っておりますぞ、公爵さま!捕虜を連れて行く約束だったではありませんか!私は関係ありません!」

「間違ってないけど」

 そんな彼に冷静に告げる。

「ど、ど、どういうことですか?」

 宰相のどもりながらの質問に答えてやる。

「あんたたちがはじめた戦争でしょ。いまさら高みの見物ができるとでも?」

 私が睨み付けると、宰相は一瞬言葉を失った。だが、すぐに立ち直り、体をゆすって言い訳をはじめた。

「しかし、私は戦闘などはまったくの専門外でしてね。ここは適材適所として、公爵さまにお任せするのが一番ではないですかな。そもそも魔人が出てくるなど想定外のことではないですか。これは私の責任ではありません。私には戦後処理などの役目も残っているのです。怪我などあったら一大事です。と、とにかく帰らせて頂きます。戻すように言ってください」

 彼の軍服の胸に飾られた勲章は、彼が頻繁に口を動かすたびに、じゃらじゃらと音を立てていた。

「そう言われても、戻す気なんてない」

 誰が無理やり攫ってきた人間を、理由も無く戻すというのだろうか。私はきっぱりと告げる。

「で、では、私はここを動きません。あそこ辺りの影に隠れていることにします!戦闘が終わりましたら、必ず迎えにきてください」

「それは構わないけど」

 私が了承したことに、宰相はほっとした顔をする。しかし私が次に告げた言葉に、顔色を変えた。

「死にたいならね」

「どどど、どういうことですか!」

 動揺しまくる宰相に、私はため息をついた。

「敵の魔人『イフリート』は炎の使い手。この城を覆うかがり火は、やつの監視用の魔法よ。どのルートからでも、城に近づく相手を発見できるようにしている。私たちは今、見られている。もし、はぐれでもしたら、奴の部下が真っ先にあんたを殺しにくる。それでもいいなら、一人で待ってなさい」

 かがり火は風に関係なく一定の周期で揺れている。それも私たちが現れてからは、動きがずっと増していた。

 宰相の顔から、血の気が引いていく。

「い、一緒にいれば守ってくださるのですか!?」

「まあここにいる騎士たちと同じ程度にはね」

 そこらへんは差別するつもりもなかった。気がまったく乗ってないのも真実だったが。

「安全という保証はあるのですか!」

 その言葉に私は宰相を睨み付けた。殺気じみた気配を込めて。

「そんなものないわよ」

「なっ」

 宰相の言葉が止まる。

「次の瞬間、私の首が飛んで、騎士たち全員が殺されてもおかしくない。戦場っていうのは、そういう場所よ。安全な保証なんて、どこにもない」

 そして言葉を失った宰相に背を向けて、砦の入り口へと歩き出す。

「行きましょう」

「はいっ!」

 まだ緊張した面持ちながら、すぐに準備を整えた騎士団たちが私の後に続き、それからしばし呆然となっていたが立ち直った宰相が、あわてて私たちの後についてきた。



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