風の精霊 2
「はやく行きましょう、アイシャさま!」
「え、ええ…」
「ちょっと急ぎすぎよ、シャシャ!アイシャさまは山道に歩きなれてないんだから」
その日、アイシャたちは森の奥にあるという花畑へ向かっていた。
シエルの風が吹き終わった頃、シャシャが森を散歩していたとき偶然、見つけたのだ。
別荘に送られてから落ち込みがちだったアイシャさまも、ここに連れてくればきっと元気になってくれるはず!
そう思ったシャシャは、すぐにアイシャさまとセフィにピクニックを提案したのだった。
見つけた花畑は、森の中の切り立った崖の近くにある。といっても、近づかなければそんなに危険ではない。
ただお堅いセヴァンに話せば止められることは目に見えているので、三人だけの秘密の計画だった。
森の中をうきうきと進むシャシャに、息を切らしたアイシャと、それを支えるセフィがついていく。
「もう、あの子ったら…。仕方のない…」
ついついテンションがあがりすぎて先行してしまうシャシャに、セフィがため息をつく。
「いいのよ、セフィ。たぶん、私も悪いわ。家にこもりがちできっと体力が落ちてしまってるんだもの。いけないわね」
「そんなっ」
セフィは否定の言葉を述べたが、元気なシャシャだけでなく、セフィもそれほど息をきらしてないので、やっぱりそのそれは真実なのだろう。
「あった!ここです!ここですよー!アイシャさま!」
先を行っていたシャシャの良く響く声が、生い茂る木の向こうから聞こえてきた。
二人は顔を見合わせて少し苦笑いすると、そちらのほうへ早足で歩を進めた。
「わぁ、きれい~」
「すごい!」
たどり着いた花畑を見たとき、アイシャもセフィも思わず感嘆のため息を吐いてしまった。
視界いっぱいに広がる真っ白な花。切り立った崖の端のほうまで、その花は広がっていた。シエルの風がおさまったあとの、やさしげな風に揺られるその白い花は、さわさわと涼しげに音を奏でていた。
二人の反応をみて、シャシャは自慢げな表情をする。特にアイシャさまの表情から、そのときだけでも暗い陰りが取れたのが、嬉しそうだった。
「これって何の花なの?」
「そういえば、何の花だろう」
花畑を見つけた張本人であるシャシャも、花の名前は知らなかった。
「これはきっとシエルね」
「「シエル?」」
「そう、シエルの風が吹き終わるころに咲く花なんだって。ここの地方の本に書いてあったわ」
白く美しい花をながめていた三人だが、視線の先で花ががさりと揺れる。
最初は風かと思っていたが、それにしては激しい揺れ方だった。
そう思っていた三人の前で、さらに花ががさがさがさと揺れだす。
「な、なに!?」
「野生の獣かも!シャシャ、アイシャさまを守るのよ!」
二人とも顔に恐怖を浮かべながらも、アイシャさまの前に立ちふさがり、その身を守ろうとする。
花の揺れはどんどんアイシャたちに近づいてきている。
三人は恐怖で硬直し動くことすら出来ない。
そして花の揺れがついに目の前にやってきて、花の中から何かが飛び出してきた。
「「「きゃあ!」」」」
三人は悲鳴をあげる。
恐怖に身を寄せ合い、目を瞑った彼女たち。
しかし、それ以上は何も起こらない。
おそるおそる目を開いた三人の瞳に映ったのは。
「ハッハッハッ」
花畑から顔を出し、しっぽを振りながらこちらを見つめてくる、一匹の真っ白な子犬だった。




