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夜の国  作者: 小択出新都
3.公爵さまのあれやこれ
31/109

信徒たちと竜 2

「教会です」

 今日の行き場所を告げてきたナナパに私は少し驚いてたずねた。

「あんた教会の信者だったの?」

 『教会』は世界最大の宗教組織だ。

 規模だけでなく歴史も古く、ほとんどの国に布教のための教会と、神を崇めるための神殿を保有している。

 ランザニアにも彼らの教会や神殿が多数存在する。

 彼らが信仰するのは、この世界を作り出した創造主(かみ)。

 教義は助け合いや愛、調和、そしてこの世界を生み出した神への感謝。

 熱心な信徒たち以外にも、一般人の九割ぐらいはこの教会の教えを信じている。冠婚葬祭、それらのイベントに教会の神父が手伝いを請われることは珍しいことではないし、休日に教会に礼拝に訪れる人たちもかなりの数がいる。

 人間社会において、もっとも広くひろまっている宗教と言えるだろう。

 それとは別に『教会』は聖都アルティカナという国を保有している。

 そこには教会の中でも選ばれた信徒。高位の司祭。教会を象徴する聖女たち。そして教会のトップである教皇が住んでいる。

 普段のアルティカナには何か功績をあげたり、その信仰の敬虔さを認められた信徒しか入ることを許されない。なのでアルティカナの神殿で礼拝できることは、大変名誉なこととされている。

 うんちくとしてはこれぐらいだろうか。

 ただし、この宗教を信じているのは、人間種族だけである。

 森の民やドワーフは信仰を持たないし、獣人などは自らの掟と土着信仰を複合したものが彼らの教えとなっているはずだ。

 なのでナナパが教会にいくなどと言い出せば驚くのである。

「違いますよ」

 首をふるナナパにさらにわからなくなる。

 信者以外の人間が、教会などにいって何をしようというのか。

「少し前にこの地区の教会の神父さんとお知り合いになったんですよ」

 なるほど、それで勧誘を受けたわけか。

 ご近所付き合いも大変だなぁと、そういうことはすっかりナナパに任せている私は、他人事のように思った。

 しかし、ナナパの理由はもっとしたたかだった。

「神父さんは町の名士であることが多いんです。親しくなっておいて損はありません。何か困ったときや、ご主人さまに出世のチャンスが来たときは力添えを貰えそうですしね」

 獣人は我々とは違い純朴で美しい心の持ち主だとのたまう文化学者がいるが、実際のところこのえげつなさである。

 信じてもいない宗教の集会に突っ込んでいって、利を得ようとしている。ふんわりとした可愛らしい見た目にそぐわない、肉食獣の動きだ。

 そして私も単に後ろをついていけばいいとか、そんなわけじゃなさそうだった…。

 はっきりいって面倒くさい…。普段なら全力で断る案件である。

 しかし…。

「さあ、ご主人さまも着替えてください。お小遣いは前月と同じ額あげますから、今日はきちんとした格好をしてくださいね」

 もしかしてお小遣い減を口に上らせたのは、このための布石…?

 行くは1日のめんどくささ、行かぬは一ヶ月のお小遣い減。

 悩んだ末、私は一ヶ月のお小遣いを取った。


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