戦います 7
ここは『夜の国』の王の居室。王の前に一人の少女が立っていた。
少女は何も喋らない。ただ無言で立っている。
「珍しいな、仕事が終わったあともここに来るとは」
王が話しかけても、少女は無言だった。
「怒っているのか?」
王が問いかける。その言葉にどこか優しい響きが含まれていたのは、哀れみなのかもしれない。
そして王にもその哀れみが誰に対するものなのか、決めることはできなかった。この国の王として有り続ける自身に対するものか、それとも強大な力を持ちながら普通の感覚を捨てきれないこの少女に対するものか。
ただ少女はそんな王の言葉にすら返答しない。
王もそれを気にしない。
少女が何をいいたいのかはよくわかるのだから。
彼女が一言もしゃべらなくても会話はできてしまう。
「確かにもっと早く干渉していたら、両国の被害はもっと少なくなっていただろう」
しかし王にとっては残念なことに、彼女に告げる言葉に、都合のよい優しい言葉を混ぜてあげられることはできなかった。
「だが、『我々』の目的は、人々の命を守ることではない。世界の平和を守ることでもない。
愚かな理由で戦争をはじめ殺しあうのも、この世界のあり方のひとつだ。全てを滅ぼす炎となる前には消し止めなければならないが、同時に小さな火種のうちは人の営みにまかせなければならない」
王の言葉に彼女の心を癒す言葉はひとつも無い。それでも王が少女を見る目は慈しみに満ちていた。
「我々の目的はただひとつ。『世界を滅びから守ること』。ただそれだけだ」
少女はその言葉をきいて、数十秒、無言で立っていた。王ももはや何も言わない。
それから、王の居室に来てから一言も話さず、少女は身を翻して立ち去っていった。
王以外誰もいなくなってから、王の隣に側近が現れる。
王は緊張が解けたように、どかっと背もたれに肩をあずける。
「悪いな、席をはずしてもらって」
「構いません、でも大丈夫でしょうか?」
優しげな側近の青年は、心配そうな顔で彼女が去った扉を見つめる。
「はは、今度こそ殺されるかと思ったぞ」
「王は彼女に対して厳しすぎです」
笑って言う王に、側近が苦言を告げる。
「仕方ないだろう。あいつこそが我々が持ちえる最大の切り札なのだから」
そう言いながらも、王の言葉は自身で納得いってない様子だった。
それでも王は、『夜の国』の王であるために、王座に座り、また同じ命令を下すのだろう。




