誕生日
今日病室で妹に、
「今日はおまえの誕生日だから、なんでもほしいものをいってみろよ。 俺がそれ、用意してやるから。」
自信満々に見栄を張って宣言したら、
「……うそつき。」
そう呟いて、妹は泣きだした。
「おにいちゃんのうそつき。おにいちゃんに、あたしのほしいものが、用意できるわけないじゃない。」
……嘘じゃないよ。
そう言いたくて。
だけど泣きじゃくる妹の姿を見ていると、僕はその場で沈黙することしかできなくなる。
そうだね、もしも。
もしも、俺がおまえだったら。
病室で、チューブにつながれたまま横たわるこんな姿の俺に、欲しがるものなんてなにひとつないだろう。
だけど、俺は。
……だから俺は。
奪われて、失われるばかりの俺だから。
せめて、今日くらい、お前に何かしてあげられたら。
そう、思ったんだ。
なあ、今日だけでいいんだ。
何か願い事をしろよ。
おまえに喜んでもらえるよう、俺、すごくがんばるから。
だっておまえの誕生日じゃないか。
今日ぐらい、俺だって、おまえになにかしてやりたいよ。
兄妹の話が書きたくてこうなりました。
こんな話になったのは、ひねくれた僕の性質が、テンプレを否定したからです。
天邪鬼もたまには良い仕事をするものだな、と僕自身としては満足です。