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【競作】

【競作】 ズットアナタヲミテイマス

作者: 天宮 悠

競作第4弾!

そして初参加にして初ホラー作品というプレッシャー。それでも全力で書いてみました。


今回のテーマは『カメラ』ということで、内容もそれに関するものとなっております。


最後まで楽しんでいただければ幸いです。

「また……か」


 伊瀬達也(いせたつや)は、一人部屋の中で嘆息した。

 大学にも慣れ、バイト先の同僚達とも打ち解けてやっと一息つけると安堵した矢先に、それは起こった。


 最初こそ自分の勘違いだと放置してきたが、ここまで過激になれば疑いようもないだろう。

 確かに、『誰か』が自分の部屋に入ってきているのだ。


 初めてそれに気づいたのは、バイトの帰りで部屋に入った瞬間に感じた違和感から。僅かに出勤前より家具の位置が変わっているような気がしたのだ。

 しかしそれで終わることはなく、必ず達也がバイトから帰ると部屋に変化が生じ、それは掃除、料理の作り置きなど徐々にエスカレートしていき、違和感は確信へと変わった。


 だが、同時に何故こんな事をするのかという疑問もある。何かを盗るわけでもなく、まるで達也の世話をするかのような行為。


 そこから導き出される答えとして、現在交際している仁美(ひとみ)の犯行の可能性。

 だが、彼女に部屋の合鍵を渡すような事はしていないし、いくら安いアパートで防犯設備が薄いといっても、鍵のかかったドアを簡単に開けられるとも思えない。


 別人だというのなら、それこそ犯罪である。とはいえ、証拠も無く害も無い事案に警察が取り合ってくれるかも疑問だ。

 逆を言えば、証拠があればいい。ならば何か映像を残せる物を。そう考え、達也は帰り際にビデオカメラを購入してきた。この為だけにしては痛い出費だが、こんな薄気味悪い事がずっと続くほうがよっぽど精神的によくない。


 さっそく明日にでも設置しようと説明書を読み込み、気づけば日付が変わっていた。またバイトも控えているので、今日はもう寝ようと布団を敷く。


「はぁ……ケチった結果がこれだもんな」


 ため息交じりに、達也は押し入れを見つめた。本当ならば、あの中に入っているわりと高級な羽毛布団に横になっているはずだが、数ヶ月前から開かなくなってしまったゆえにそれも叶わない。

 恐らく、掃除が面倒だからと邪魔な物を全てそこに納めた事が原因であろう。押し入れの(ふすま)が開かなくなるという事態に陥ってしまったのだ。

 今では、詰め込んだ何かが襖を突き破ってできたであろう百円玉程度の大きさの穴から中を覗いてでしか、あの真っ白な布団を確認できない。

 現在達也が身を預けている布団は、出費を渋った結果値段相応の質を持った物で、とてもではないが寝心地がいいとは言えない代物だ。


「また、お前と一緒に寝たいよ」


 達也は一度立ち上がって名残惜しそうに襖にできた穴を覗くと、やはりその奥は一面白色、白い布団の姿だ。手の届く距離にあるというのに、薄い壁一枚に阻まれる事を呪いつつ、達也は再び床に敷かれた布団に転がりこむと、数分もしないうちに寝息を立て始めた。


 翌日、達也は予定通り出勤前にビデオカメラを部屋に設置する。

 場所は、侵入されてもバレないように棚の上にある花瓶の裏。ここならば、多少死角はあるが台所やテーブル付近、玄関など重要な個所はしっかりと映るはずだ。

 そこにカメラを隠すと、録画モードに切り替わったことを確認し、スタートのボタンを押して達也は部屋を出る。


「これで終わりだな……もっと早くこうしていればよかったぜ」

 ほっと胸を撫で下ろすと、達也ははやる気持ちを抑えながらバイト先へと向かった。


 それから数時間後、午後の八時を回ったところで、達也は足早に自分の住むアパートへと向かっていた。

 バイトも疎かになってしまうほど、カメラに何が映っているのかと達也の胸には期待があふれていたのだ。

 それは、この不気味な事件が終わるからというより、犯人の正体がいったい何者なのかという好奇心からだろう。


 達也が部屋に戻ると、やはり今日も侵入した形跡があった。道具はきれいに並べられているし、案の定テーブルには作り置きされた料理が乗せられている。


 早くなる動悸を抑えつつ、達也はそっと花瓶の裏に置いたビデオカメラを手に取り、録画した映像の再生ボタンを押す。

 が、何分待っても映像に変化はない。仕方なく早送りをしてみても、一時間、二時間と時だけが進んで状況に変化はなかった。

 と、その時、


「……ん?」


 急に映像が暗転して途切れたかと思うと、次の瞬間には画面が白一色に包まれた。


「な、なんだ? 故障……なわけないよな」


 これは昨日買った新品だ、故障はありえないだろう。だとすれば、カメラに気づいた侵入者がレンズに紙か何かを張り付けてしまったのか。

 真っ白な画面は何時間も続き、再び暗転すると既にテーブルには料理が置かれていた。しかも侵入者の姿は無く、あとは帰宅して映像を止める達也の姿が映っていただけだ。


「失敗か……勘がいいな」

 よほど注視しない限り気付かない位置のはずだが、相手も相当用心深いらしい。しかも、映像を見る限りでは玄関に変化はなかった。何かカメラに細工をしたのか、或いは侵入経路が玄関ではない可能性が出てくる。


「まさかベランダか? でもここは三階……」


 ありえないだろうと思いつつも、達也は翌日カメラの位置を少し変え、ベランダが映るように調整してバイトに向かう。

 そして、帰宅すると映像の確認。

 だが、結果は昨日と同じ。数時間経つといきなり画面が暗転し、白の世界が広がる。それが終われば、次に映るのは変化した部屋と帰宅した達也の姿だけ。


 最初の頃に抱いた興奮など既に冷め、今では気味の悪さだけが達也の心を支配している。


 それでも、僅かな希望にすがるように、それからも数日間は撮影を行なった。

 しかし、どれだけ場所を変えようとも、映像の内容は同じ。

 まるで自分の全てが見透かされているかのような感覚すら覚える。

 そんな日々を続け、次第に達也は常に何者かの視線を感じてしまう疑心暗鬼に囚われてしまう。


 そのせいでバイトも手がつかず辞めてしまい、大学も休みがちで家に引きこもっている。

 そう、達也が家から出なければ、『誰か』はここに入ってこないのだ。家に居る限り、あの気味の悪い白い映像を見なくて済む。


 もうビデオカメラもいらない。そう思い、捨ててしまおうとカメラに手を伸ばしたところで、達也の携帯が鳴った。

 ディスプレイに表示された名前は、仁美に出会う前に交際していた女の両親。

 確か名前は(あい)と言っただろうか、交際中によく彼女の家に行っていたので、その両親とも自然と親しくなってしまったのだ。

 とはいえ、愛ならともかく両親の方とは何故だろう。と、疑問を抱きつつも、達也は電話を取る。


「もしもし?」

『ああ、良かった達也君。私の事覚えている?』


 通じた事に安堵したような声が電話の向こうから聞こえた。この声は、愛の母親だろう。


「ええ、愛のお母さんですよね? どうかされたんですか?」

『あ、その……ええ。実は、愛が行方不明になって……もう数ヶ月も前の事なの。警察にも頼んだのだけれど、もっと遠くに行っているのかもしれないって……だから、もしかしたらと思ったの』


 なるほど、確かに元とはいえ彼氏のところに行っている可能性は否定できない。だが、達也の部屋に入るのは仁美と自分、そしてあの『誰か』だけだ。


「すいません、こっちには」

『そう……心配だわ。病気で辛いのに行方不明なんて』

「病気?」

『ええ……達也君と別れてから、あの子は目の病気を患ってね。……目が真っ白になる病気よ』


 ――今、何と言っただろうか。いや、もう半ば理解はしている。だが、聞き直さずにはいられない。


「あの……今、なんて?」

『え? だから、病気で目が白く……達也君?』


 ――白い目。


 そう、白だ。あの画面……そこから感じた薄気味悪さ、見られるような視線。

 達也の頭の中で、それらが繋がった。


 画面に表示されたあれは眼なのだ。ずっと、ずっと何時間もこちらを見つめていた。

 だが、まだ片隅の残る違和感は何だろう。と、達也は必死に思案する。


 ――そして、気づいてしまった。もう一つの白。


 そうだ、あの場所(・・・・)は死角でカメラに入っていなかった。玄関もベランダからも入らない、それは――


 最初から(・・・・)この部屋に(・・・・)居たからだ(・・・・・)


 押し入れの襖に開いた穴から見えた白。あれは布団なんかじゃなく――


「あ……あ……」

『達也君? どうしたの達也君!?』


 部屋中に響く愛の両親の声。


 それとは別に、達也の背後でそっと……押し入れの開く音がした。 

どうだったでしょうか?


ホラーは初となり、予備知識もほとんどない状態からのスタートだったので、もう色々とボロボロです。

それでも最後まで読んでくれた方に感謝を。本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ホラー初挑戦」とのことですが、何の何の。 大袈裟な怪奇現象ではなく、日常の「ちょっと不思議」な出来事からジワジワと暗転していき、終盤で一気に背筋が凍るクライマックス! 「開かずの障子」と…
[良い点] 初めから醸し出されていた薄気味の悪さが結末で一気に噴出して、眠かったのに目が覚めてしまったじゃないですか、やだーこわーい! ほんとに予備知識なしでしょうか、ホラー映画特集とか見まくってない…
[良い点]  目が白くなる病気のくだりは鳥肌ものでした。文章の巧さも手伝ってとても完成度の高いホラーだったように思います。布団や真っ白な映像などで、読者をミスリードさせるその発想は正に感服でした [一…
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