遊び人の強さ
電柱の上から襲い掛かってきたモンスターを見てとっさに俺は「りん危ない!」と叫んでしまっていた。
ジュースの自販機しか見えてないりんにそんな事をすれば、結果は目に見えてたはずなのに。
「え?なにあおちゃ……フギャ」
ズゴン
やっぱり、こけるよな、ズゴンって……ズゴン?
こけたにしては妙に重い音だな、大丈夫かりん?
とっさにつぶってしまった目を開く。
な、何があった?
りんが道路に顔面からダイブしているのはまあ、予想通りだ。
だが、なぜだ?
襲われたりんの方は無傷なのに、襲ったモンスターの方は大ダメージを受けたように弱ってるんだ?
何があったんだ?
PCを使えればステータス画面で確認できるかもしれないけど……。
あ、ステータスっていえば、『調べる』のスキルがあったな。
「サーチ」
と唱えてスライムを『調べる』。
スライム猛者
HP18/50
MP0/0
ついでに「サーチ、サーチ」りんと俺のステータスも表示させる。
りん
遊び人Lv15
HP83/83
MP40/40
あおい
勇者Lv10
HP88/88
MP62/62
りんはやっぱりダメージ受けていない。
それに比べて、スライムの方は半分以上HPが削れているな。
な、何があったんだ?
最初からHPが削れていたのか?
でも、さっきのズゴンって音は何なんだ?
「あ、あおちゃん! なんか頭にベチャって、ベチャって、鳥のウンチとかついてない?」
すごくあわてた様子でりんが頭を調べている。
頭にベチャっと何かあたった?
………………。
…………。
もしや、こけた拍子にちょうどスライムに頭突きを食らわしたのか?
そんな偶然あるのか?
そういえば、遊び人って『幸運』のパラメータだけはガンガンあがっていたよな。
何らかの職業補正があるのかもしれない。
まあ、そういう事にしておこう。
「あおちゃん~~~取れないよ~~」
りんが悲鳴を上げながら必死にありもしない鳥のフンを探してるのを思い出して、
「鳥のフンが当たったんじゃない、そこのモンスターに当たったんだ。」
と言ってやる。
「モンスター???」
りんは首をかしげてその物体に目を向ける。
「モンスター……モンスター……モンスター……あああああ、モンスター探してたんだった」
おい、忘れてたのかよそう突っ込みを入れたくなったが、戦闘中なのを思い出して自重した。
「遊んでないで戦うぞ!」
りんに注意を促す。
「はじっめてのモンスタ~。『スライム猛者』か~なんか強そうだね~」
本当に切り替えるのが早いなりん。
うん?ちょっとまて聞き間違えか?
スライムに妙な単語がついてたような……。
表示を改めてみる。
本当に『スライム猛者』と出ている。
スライム”猛者”!?
ただのスライムじゃなかったのか?
猛者って事はスライムの強化版? それとも中ボスのスライムなのか?
まあ、今考えても仕方ない。
とにかく戦おう。
りんの頭突きのおかげで大分HPが削れている。
これなら魔法を数発打ち込めば倒せるだろう。
そう思って、魔法を唱えようとしたら、
「あおちゃんは手を出さないで! 私が倒す!!」
と言いながらりんがスライム猛者の方に突っ込んでいく。
って、ちょっとまて~攻撃手段なんてないだろう、りん。
どうするつもりなんだ!?
今迂闊にとめることもできない。
さっきみたいに、こけるのがオチだからだ。
……うん?さっきみたいに?
ダッシュ→俺の言葉に気をとられる→こける→その勢いで頭突き
何も問題なかったのか?
さっきまで大ダメージの余韻で動けなかったんであろうスライム猛者も動き出す。
力を貯めて、スライムの時と同じならあれはたぶん体当たりの前兆だ。
今更りんに注意しても遅いだろう。
だから俺は回復魔法の準備を……。
「なんでやねん」
ズベシ
りんの一撃がスライム猛者に直撃する。
スライム猛者はほんの少し押されて距離ができる。
スライム猛者は、もう一度最初から力を貯めなおす。
そして、攻撃しようとした瞬間。
「なんでやねん」
りんの一撃で押し戻される。
そして、もう一度最初から力を貯めなおす……。
りんが使ってるのはたぶん、遊び人のスキルの『ツッコミ』だ。
ダメージ1固定でやっぱりネタだろうと思ってたスキルだったが……。
もしかして、ほんの少しのノックバックと行動キャンセルの効果もついてるのか!?
出もむちゃくちゃ早くていつ攻撃始めたのがわからないくらいだし。
もしかして、むちゃくちゃ使えるスキルなのか!?
行動キャンセルができて高速で連発できるなら、時間はかかるが、完封できるってことじゃないか?
俺が遊び人のスキルに戦慄してる間に、まさに考えたとおりの状況がおきつつあった。
「なんでやねん」
ズベシ
「なんでやねん」
ズベシ
「なんでやねん」
ズベシ
スライム猛者
HP3/50
MP0/0
すでにスライム猛者のHPは残り3だった。
りんはその間ダメージはおろか敵に攻撃すらされていない。
そのまま、
「なんでやねん」
ズベシ
「なんでやねん」
ズベシ
「なんでやねん」
ズベシ
スライム猛者に止めを刺す。
「ピギャー」
スライム猛者がものすごく悲しそうな泣き声をあげながら光の粒になって消えていく。
「やった~倒した~あおちゃん、倒せたよ~」
りんはとてもうれしそうにはしゃいでいる。
そのままはしゃぎすぎて……。
ビタン
見事にこける。
まあ、りんらしいな。
そう思いながら、スライム猛者の消えた後を見ると、何かカードが落ちているのを見つける。
何だろう?と手にする。
見たこともないカードだ。
「サーチ」
カードに向けて『調べる』のスキルを使ってみる。
マネーカード
10G
どうやらマネーカードらしかった。
10Gとあるから、10G入っているのだろう。
Gと言うのは現実ではまったく聞き覚えのない単位で、ゲームでは結構見慣れた単位た。
まあ、このゲームの通貨単位だろうと予想をつける。
どのくらいの価値があるんだろう?
まあすごく低いことは予想できるけど……。
「あおちゃん、あおちゃん、何持ってるの?」
「さっきのモンスターが落としていった」
と言ってマネーカードを見せる。
「やった~せんりひんだね!」
りんはカードを手にして喜んでいる。
そんなりんを眺めながら、今回の戦闘を思い返す。
遊び人が本当にこんなに強いのか?
何か大きな落とし穴でもあるんじゃないのか?
ネタ職業の癖に妙に強い遊び人に胸が妙にもやもやした。
決してうらやましいとか思ってないぞ!




