第七話
せっかくしゃべれるようになったアキくんがいるのです。
柚里は知りたいことを教えてもらえるかと思って、アキくんに聞いてみることにしました。
「アキくんを雨の中に拾ったときからたまに『ちりーん♪』と聞こえるのは、魔法の関係?」
「そうやねんけど……詳しく話したらあかんねん」
困ったように耳を垂らして、アキくんは上目遣いで柚里を見ました。
「?」
「あんな?魔法掛けられてるゆうたやん?その魔法解くんにやらなあかんことあるねん。でもその『やらなあかんこと』をゆうてもうたら魔法が解かれへんようになって、俺一生うさぎのままになるねん。そういう枷がある魔法やねん。せやから話されへん」
「王様の言うように世間を知って国に帰ったらうさぎになっている魔法を解いてもらえるんじゃないの?」
「それがちゃうねんなあ。そんな簡単なことやったら苦労せんて」
大きくため息をついて、アキくんは続けました。
「俺、そんだけおやじ怒らしてもうてんなあ。まあ城壊してもうたから、当たり前っていえば当たり前やねんけどな」
たしかに城を壊すということはとても大変なことなのです。
城というのはその国の要でもありますので、城がなければ守りがなくなり敵に攻め入りやすくさせてしまいます。というか、敵が攻めてきます。
ですから、もしかしたら今頃、アキくんの故郷であるフィーヨル国は戦乱の渦に巻き込まれているかもしれません。
父王はアキくんを戦争から遠ざけるために、それとも戦争になる引き金となったアキくんを守るために国外へと脱出させたのかもしれません。
問題はアキくんが自分がどれだけ大それたことをしてしまったかという自覚のなさなのです。
それもあって父王は国外に出すことによりアキくんに『王子である自覚』を身につけてもらいたかったのかもしれません。
「なんとなく、王様がとーってもお気の毒になってきた」
柚里は会ったこともない王様の心痛を慮って、胸が痛くなりました。
わたしって、もしかして貧乏くじを引いた感じ?
うさぎとしてのアキくんは、とても可愛くて素直そうに見えます。それに話すことができるというおまけ付きです。ある意味、かなりお買い得感があります。
けれど人間としてのアキくんは、まだまだ自分の立場に無自覚のおこさまのようです。
無自覚な王子様を教育し直してフィヨール国に返さなければ、戦争だけでは済まないような気がしてきました。
『もしかして貧乏くじ』ではなく、『思いっきり貧乏くじ』です。
はあ。
きょとんとしているアキくんを見ながら、ため息をついてしまったの仕方がないでしょう。
そんな柚里を気遣わしげに「どないしたん?」と聞いてきたけれど、ため息の原因に聞かれても返事のしようがありません。
「なんでもないよ。大丈夫」
こういったときの定番の言葉をアキくんに言って、その場を誤魔化す柚里なのでした。