第六話
はぐはぐと美味しそうにチャーハンを食べ終わったアキくん。
ちょこんと座りなおしてじっと柚里を見つめます。
「ごちそうさまでした。美味しく頂きました」
ちりーん♪
この時の柚里の驚きようったらありません。
だって、うさぎがしゃべったんですよ?
普通ならあり得ないことです。
柚里はアキくんを拾ってから一生分驚いたような気がしてきました。
「アキくん……しゃべれるの?」
けれどそこは不思議うさぎのアキくんに微妙に慣れてきた柚里のことです。驚きよりも好奇心のほうが優先しました。
「今しゃべれるようになってん。魔法がちょっと解けたみたいやし」
またまた柚里は驚いてしまいました。
だってしゃべったと思ったらなぜか大阪弁をしゃべっているではありませんか!
それにアキくんは確か『魔法』といったのです。
ありえなーい。
柚里は天井を仰いでしまいました。
だって、いくらなんでもやりすぎです。
おもしろネタすぎです。
「俺……しゃべったらあかんかった?」
柚里の反応を見てアキくんは自分が失敗したのだと思いました。
美味しいご飯を出してくれたら『ごちそうさま』というのは礼儀として至極当たり前のことだと思ったのですが、やはりうさぎはしゃべるものではないようです。
けれどもうしゃべってしまったからには後戻りはできません。
「しゃべったら駄目というよりも……どうして大阪弁?」
やはり何よりそこが気になってしまった柚里でした。
「へ?俺、普通に喋ってるだけやけど。大阪弁ってなに?」
「今アキくんが話している言葉の使い方だよ。私とは違うでしょ?」
たしかにそう言われてみれば違うような気がします。
「だって、これは男のしゃべり方やねんろ?柚里は女の子やからそんな風にしゃべるんとちゃうん?」
「違います!アキくんは大阪っていう場所で使われる言葉をしゃべってる。私とは違うよ」
「あんの馬鹿……」アキくんはふるふると前足を震わせて誰かを罵倒しているようです。大阪弁で『馬鹿』というのは最上級の悪態です。
「それに『魔法』ってなに?」
柚里にはわからないことだらけでした。
「あー。詳しく話したら長いで?ええん?」
長かろうが短ろうが、ちゃんとした説明がほしいので、そこはコクコクと頷くほかない柚里でした。
どうせ今日一日はアキくんのために会社を休んでいるので時間はたーっぷりとあります。
こほん。
軽く咳払い(!)をしたうさぎのアキくんは、テーブルの上にあがりました。
そして語り始めたのです。
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あるところにフィーヨルという国がありました。
その国の王子であるアキエテラヴォリ(アキくんのことらしい)は、乱暴者でいたずらばかりするやんちゃものでした。
ある時、宝物庫にある父王が大切にしている国宝の剣を偽物にすり替えて、本物の剣で遊んでいた時に、ちょっとした手違いで剣に込められた魔法が発動してしまい辺りを粉々に打ち砕いてしまいました。まあ、いっちゃえば、城を一つ粉々にしたっていうことです。
これには父王も激怒してしまい、アキくんの教育係でもある魔法使いを呼び寄せてアキくんに罰として魔法をかけて世間を見て来いと国から追い出してしまいました。
その魔法でうさぎになってしまったアキくんは、世間を見ようにもしゃべることもできませんし、ご飯を食べることもできません。
このまま餓死をするのではないかと思ったときに、柚里を見かけたのだそうです。
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「それって、自業自得っていうんじゃない?だって城を壊したんでしょ?」
「うー。そうやねんけど。そないにずばっと言わんでもええやん」
いたたまれなさから前足で耳を垂らして顔を隠すアキくんは、どこからどうみてもうさぎにしか見えません。
とーっても可愛いうさぎの姿なのですが、そのうさぎは悪いことをして罰を与えられている最中なのです。
「じゃあアキくんはこれからどうする?ずっとここにいる?」
よく考えたらアキくんは元は人間のようですから、乙女一人の部屋に置いておくというのもどうかと思いました。
それに『世間を知って来い』という父王の命ともあわないような気がします。
「俺、まだこの世界よう知らんさかい……その、よかったらここに置いてくれへんやろか」
おやおや。
乱暴者でいたずら大好きだという王子様の言葉とは思えないほど丁寧なお願いをしてきました。
それに見た目は完全にうさぎのアキくんですから、柚里としてはかわいらしいアキくんを本当は手放したくはなかったのです。その上アキくんは柚里の作ったご飯を美味しいといって食べてくれるのです。こんなに嬉しいことはありませんでした。
こうして柚里はおしゃべりできるうさぎのアキくんと一緒に暮らすことになったのです。