第四十九話
だって、ねえ?
ネックレス、なんですよ。
もしこれがアンクレットとかブレスレットであれば、柚里は素直に喜んでアキくんを盛大に喜ばせることに成功したでしょう。
だけどもアキくんがプレゼントしてくれたのはネックレスでした。
それはアキくんの国フィーヨルでは婚約の証になるものです。
このまま受け取ったらかなーりこまったことになるんじゃないかなあ
柚里はかわいらしいうさぎと家のモチーフのペンダントトップを見ながら、どうアキくんに切り出そうか悩んでしまいました。
うさぎはいわずとしれたアキくん、家は柚里を指しているようで、そのことだけを思うとずっと忘れずに覚えていてくれたんだなって感じてうれしくてうれしくて仕方がないのですが、なぜにネックレスでくれちゃうのかなと、深読みなんてしまくっちゃうじゃないのと切なくなりました。
「あ、もしかして変に勘ぐってるんとちゃう?ネックレスやからって別に『求婚』してるんとちゃうで」
アキくんは少しだけ寂しそうに、けれどもすぐ気を取り直したように柚里に微笑みました。
求婚じゃないの?
だってアキくんってば、私が首輪を渡したときに勘違いしてしまってすごく嫌な思いをさせてしまったこと、わすれちゃったの?
「はー。ほんま、樹の言う通りやなあ。くやしいわ」
柚里の困惑している姿を姿を見て、アキくんは大きくため息をつきました。そのあとにぽろっとこぼれてしまった言葉に柚里は驚きを隠せませんでした。
「……えっ?どうしてここで樹さんの名前がでてくるの?っていうか、いつのまにアキくんと樹さんが仲良くなってるの?」
「そんなんとちゃうわ」
「違うって?でもアキくんがいなくなってから今日までの間に樹さんと話したことがあるから、『樹の言う通り』なんて言葉がでてきたんでしょう?」
「まあ、それはそうやな。だって俺、今、樹んとこで働いてるし」
はあっ?!なにそれ!
柚里は驚きのあまり目が点になってしまいました。
柚里の知る限り、どうしてだか理由はわかりませんがアキくんは樹さんを目の敵のようにふるまっていたはずでした。
それに本人からしか聞いたことがありませんが、アキくんはフィーヨルの王子さまのはずです。その王子さまがどこをどうころがしたらおとぎの世界から抜け出して、靴屋さんで働いているなんてことになるのでしょう。
「え、え、えっとぉっ!?いったいどういうことっ?」
「ん?だーかーらー、樹んとこで働いてるねんってば。そろそろ二か月になるんとちゃうかな。そのネックレスもちゃーんと俺が働いたお金で買うてんで」
二か月?二か月も前から、アキくんはこっちにいたっていうの?
もし本当に樹さんのところで働いていたんだったら……どうして樹さんがそのことを教えてはくれなかったの?
私がどれだけ落ち込んでいたか、樹さんは知っているのに、どうしていってくれないの?
それに、二か月も前からいたくせに、今どうしてうちに来たの?
柚里の頭の中では『?』がたくさん生まれてきて、収集がつかなくなりました。
「なんで……なんで、二か月も前に帰ってきたのに……うちに戻ってこなかったの?」
どれだけ寂しい思いをしたか。
樹さんだって知っていたはずなのに、どうして私には教えてくれなかったの。
「好きで戻ってけぇへんかったんとちゃうで。……柚里んとこからフィーヨルに戻った後、めっちゃいろいろあってんって。マグニュスの魔法が結局のところ完成されてへんかって、うさぎに戻ることができひんようになってたし。そしたら、親父とマグニュスがちょうどええから国民がどうやって生計をたてて国に税を納めているか実地体験してこいってことになってやぁ。でも俺、一応王子やから、城下で働くんはまずいってことで、白羽の矢が樹んとこに当たったっちゅーわけ。せやから樹んとこで働いてるんやけど……ここまでは、わかる?」
ネックレスをもつ柚里の手のひらをきゅっと包んで、アキくんは柚里を見上げました。
そこには苦しそうに顔をしかめて、それでも言葉を漏らすことなく聞き取ろうと真摯に向き合おうとする瞳がありました。
「柚里は樹のこと、どこまで知ってるん?」
「樹さんのこと?……お父さんは靴屋さんでお母さんがアキくんと同じ世界の人だってことは知っているけど、それ以外になにかあるの?」
「ふーん。それだけしかゆうてへんかったんか」
「それだけって?やっぱりほかに何かあるんだ?」
「うん。樹はうっとこの国の隣の国リクシール皇国の皇太子や」
……そろそろ気絶していいですか?




