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雨の中のうさぎ  作者: れんじょう
『雨の中のうさぎ』
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第二十話

 柚里の心境は複雑でした。


 ころんとまあるい銀色の鈴が、アキくんに幸せを与えてくれました。

 アキくんが幸せそうに笑ているのを見るのは本当にうれしくてうれしくて。

 それほど最近のアキくんは、出会った当初よりもなんだか沈んでいるように思えたのです。

 ですから、柚里はアキくんが少しでも笑ってくれるのならと思って、外へ遊びに行く計画を立てたのです。

 それは少しは成功をしたようですが、その反面、アキくんにかなり怖い思いもさせてしまいました。


 非力なうさぎのアキくんにとって、外は安全なものではないということが分かっていたのに。


 ところが夢の中に現れたという教育係の魔法使いが、アキくんに褒美として渡した、鈴。

 ちょっとの間だけ人間になれる、鈴。


 それだけでアキくんは飛び跳ねて喜んでいたではありませんか。


 その上、その鈴を使えば人間になれるらしいのです。

 うさぎのアキくんが、人間になるのです。


 アキくんが本当は人間だということをわかっていたはずの柚里ですが、途方もない話に実はあまりよくはわかっていなかったのです。


 うさぎだから、非力なウサギだから、アキくんは柚里のそばにいてくれるのです。

 結婚したいなんて冗談を言ってもらえるくらいは、仲良くなっているはずなのです。

 

 でも。

 鈴の力で少しの間でも人間になって。

 人間にもどれるまで、あの綺麗な金属音を聞くことになって。

 

 そして

 そして人間に戻れる日が来てしまったら。


 

アキくんとはお別れしないといけなくなる


 ぐるぐる廻る思考がどんどんと悪い方向に進んでいくことを、止めることができませんでした。




 「さあ。支度ができたから、家に帰ろうね」


 柚里のすこし枯れた声に、アキくんも悲しくなりました。

 

 なんか俺、また失敗したんかなあ

 鈴を貰ったことがあんまりにも嬉しすぎて、柚里のこと、ちゃーんと見てへんかったもんなあ

 でも、いったいいつからあんな悲しそうな顔になったんやろ


 帰りの道でもアキくんは顔をキャリーからちょこっとだけ出して、びゅんびゅん過ぎていく街並みをおもしろくは感じていましたが、朝とは違い、何度も何度も後ろを振り返って自転車を漕いでいる柚里を見ていました。

 柚里は柚里で、朝のキラキラとした空気をかえり道では全く感じることはなく、どちらかというとだんだんと自分から過ぎ去っていく風景が柚里の心を物語っているようで悲しくなっていました。




 **********




 「なあ、柚里。どないしたん?」


 部屋に着くなりキャリーバッグから飛び出したアキくんは、柚里の後をついて周りました。

 そうしないと、柚里が何処かに行ってしまいそうだったからです。


 「なんでもないよ?気にしすぎだよ」

 「そんなわけないと思うけど?」


 アキくんは自分がうさぎであることがとてももどかしく思いました。

 だって何処かに飛び乗らないと柚里と同じ高さになって、柚里を見ることができないからです。


 あっ!そうやん。鈴、あったわ!


 無くさないようにと首輪に付けられた鈴を思い出して、アキくんはマグニュスに言われた通りに左手で鈴を鳴らしました。

 

 リーン♪


 いつもの音とは違う、それでいていつもと同じ音のような鈴の音が部屋に響きました。


 驚いて柚里がアキくんを見ました。

 だっていつもの金属音じゃなかったからです。


 するとどうでしょう。

 鈴の音がまるで色を持ったみたいにきらきらと輝きだし、そこから羽が生えたように広がってアキくんを包み込み始めました。

 そうして完全にアキくんを包み込んだかと思うと、その光はパアッと四散しました。


 中から現れたのは、うずくまる一人の男……の子でした。


 それも真っ裸。


 「あ……あ……アキくんっ?!なんで裸なのーっ!!」


 その言葉にはっと気がついたアキくんは、身体を起こして立ち上がり、自分の手や身体を何度も何度もきょろきょろと見回しました。

 そうしてなぜだか拳を握りしめ、ふるふると震え始めたのです。


 「あ……あ……あんのぉぉっ!!!!○×○■△○ッ○!!!」


 最後のほうは何を言っているのかさっぱり聞き取れませんでしたが、品のいい言葉でないのは確かなようです。


 柚里は慌ててバスタオルを持ってきてアキくんに手渡しましたが、アキくんはそれどころではなく、怒り狂っていました。


 「マグニュス!マグニュスっっ!!どういうことや、これはっ!!!」


 真っ裸のうえ仁王立ちで、天井に向かって教育係に叫びまくっているアキくんでしたが、何度も視界をかすめるものにやっと気がついたようで、柚里が差しだしているバスタオルをひきつりながら受け取り身体に巻きつけました。


 「……ありがとう、柚里」


 この状況でよくお礼をいえるなあと、柚里が関心をしていたら


 ちりーん♪


 いつもの透き通る金属音が響きました。

 一つまた何かが認められたようです。

 それでもアキくんは嬉しそうな顔をせず、天井に怒りを向け続けていました。


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