第十二話
柚里とアキくんの不思議な生活がリズムにのり始めたころ。
柚里はそろそろアキくんが暴れたくて仕方がないんじゃないと思い始めるようになりました。
だって、アキくんはフィーヨルの国ではやんちゃな王子様だったのです。それが原因で国から出された身の上です。いくらうさぎになったとはいえ生来のやんちゃな気質が素直に治るとは思っていなかったものですから、ここはひとつ力いっぱい疲れさせてみようと考えたのです。
そこでその計画に必要なものをこっそりと揃えることにしました。
夜遅くに帰宅すると心配知るアキくんを思って、お昼休みにダッシュで会社近くのペットショップに行って買ったのです。
日曜日。
日の出とともにむっくり起き出した柚里は、いつものようにお弁当を手早く作り始めました。
アキくんはうさぎなのでもともと朝がとても早くて、キッチンに立つ柚里の足元にじゃれついて一通り遊んだ後にソファの上でちょんと座って柚里の支度が終わるのを待っていました。
「アキくん。今日は仕事が休みなんだよ。だから外へ一緒に行かない?」
アキくんが座るソファの横に座って、覗き込むようにアキくんを見て柚里が言いました。
「外……?」
「そう。だって家の中だけだったらくさくさするでしょ?だから公園に行って遊ばない?」
その言葉にアキくんはちょっとムッとしました。
柚里がアキくんのことを何歳くらいに思っているのかわかったからです。
いや、本当はわかっていました。
柚里がアキくんをどのくらいに思っているのかなんて。
だって柚里はいつもアキくんを子供扱いしていました。
仕事から帰ってくるといつもアキくんを抱き上げて頬ずりしてくれるのも、アキくんがいくらうさぎだとはいえまだ小さな子だと思っているからできることだと思うと、自分の本当の年齢を柚里に告げることが得策ではないと自分から口を噤んだので、柚里がアキくんの年齢を知るのは自分から言うか人間に戻ったときになるはずです。
別にうそついてるわけやないし。でもなんか腹立つなあ。
自分を一人前の男として見てくれない柚里にちょっと悲しくなり耳を垂れたアキくんに、柚里は勘違いをしてしまいました。―――――公園に行きたくないんだって。
おかしいなあ。絶対暴れたいと思ったんだけど。
それじゃなかったら、カーテンのうちに入って外をじっと見ながら後ろ足をだんだんとしないだろうし。
それともアキくんは自分が外に出たいっていうことに気がついてないのかな。
こまったなあ。
柚里は後ろ手に持っている袋を手持無沙汰にいじり始めました。
その中にはアキくんにプレゼントしようと思っていたものが入っているのですが、渡す機会をうしないそうです。
がさがさがさ
紙の擦れる音に敏感に反応したうさぎの耳が、アキくんを目覚めさせました。
うさぎは紙が大好きなんです。
新聞紙を与えると、びりびりに破いてしまうくらい大好きなんです。
その大好きな紙の音が柚里の後ろから聞こえてきたので、アキくんは耳をぴょんと立ち上げて柚里の後ろに回りました。
「なあなあ、柚里。この紙袋、何?」
素早いアキくんの行動に驚いた柚里でしたが、これ幸いにアキくんにこのプレゼントを渡すことにしました。
「えーっとね?これ、アキくんにつけてもらおうと思って買ってきたんだ。開けていいよ」
「ええっ?俺にくれるん買うてきてくれたん?それってプレゼントやん!」
アキくんは飛び上がって喜びました。
王子さまだったころは献上品と称した賄賂のようなものが当たり前のようにアキくんに渡されてましたが、アキくんはそういったものは受け取ってきませんでした。なぜなら宮廷には派閥という面倒くさいものがあって、もし献上品を受け取ってしまったら派閥の人たちがいい気になるからです。
ですからそういった下心がないプレゼントというものをアキくんは王様以外からはありませんでしたので、柚里が何かをアキくんのために用意したと聞いたので舞い上がってしまいました。
「うわー、うわー、うわーっ!俺、めっちゃ嬉しいねんけど!」
「……そんなに喜んでもらって嬉しいんだけれど、そんなに喜ぶような品物じゃないんだけど」
あまりのアキくんの喜びように驚いて、自分が何を渡すのかと思うとちょっと申し訳なくなった柚里でした。
「なあなあ!開けていいん?開けるで?」
歯で袋を噛みながら、嬉しそうにアキくんは袋を開けていきました。
中から出てきたのは、綺麗なえんじ色に光るエナメルの首輪でした。
「これって……ネックレス?」
「まあ、言いようによってはそうかも?」
「ネックレスやねんな?」
「う……うん。首輪、っていうんだけどね?」
アキくんはそのネックレスを嬉しそうに持ち上げて、柚里に差しだしてこう言いました。
「つけてくれる?」
「もちろん、いいよ」
実は首輪をアキくんは嫌がるんだと思っていたので、声にならないほど喜んでもらえるとは思ってみなかった柚里は、にっこりとほほ笑みながらアキくんに首輪をつけてあげました。
ちりーん♪
いつもの綺麗な魔法の音が聞こえました。
けれど今回もどうして音が鳴るのか柚里にはさっぱりわかりませんでしたが、アキくんはその音を聴いてか、どうもさっきからもじもじとしています。
「アキくん……?どうしたの?様子が変だよ」
「え……?だってそら照れるやん」
「? 何を照れるようなことがあった?」
「え?なんで?ネックレスくれたんやから、照れて当然とちゃうん?」
柚里はアキくんが何をいっているのかさっぱりわかりませんでした。
首輪をアキくんにあげるとどうしてアキくんはてれないといけないのでしょうか。
首を傾げいているとアキくんが逆に不思議そうに言いました。
「あれ?柚里は俺と結婚したいんやろ?」




