◇ 「春風」──クノイチの組織
京都に到着すると、駅の外では白いワンボックスがライオットたちを待っていた。
ナナセがライオットに伝える。
「あの車に乗ってください」
ライオットとヒトミが後部座席に座り、ナナセが助手席へ腰をおろすと、車が発進する。
運転手は、ユリというクノイチだ。
彼らを乗せた車は、北へ向かう。二時間ほど走ったあと、車は誰も入り込むことのなさそうな山あいの村に到着する。
車から降りた一行はナナセを先頭に歩き、クノイチ頭首の屋敷へ向かう。子どもたちが不思議なものを見るような目で、ライオットを眺めている。外国人が非常にめずらしいのだろうとライオットは思った。
しばらく歩くと、二階建ての屋敷にたどり着いた。日本の文化が漂う、立派な屋敷である。
三者会談でひと悶着あったあの屋敷と、同じような感じだ。ちがうのは、二階があることだ。
今度は縁側からではなく、玄関から入る。そこから奥座敷に入り、襖を開けて次の間へ、さらに襖を開けると、クノイチを統べる頭首がその部屋で待っている。
ライオットの頭に「オイラン」という言葉が浮かんだ。日本の雑学で調べた知識ではあるが、彼は「芸者」と「花魁」の違いがなんとなくわかる。
組織の名と同じ春風というこの女性は、着物姿が実に美しい。
頭首というからには、かなり歳をとっているだろうと思っていたライオットだが、見た目は全然ちがう。
若く見えるが、その落ち着いた様子は、事が起きてもあわてずに的確に対処する長老を彷彿とさせる。
実際の年齢は、まったく見当がつかない。だが、伊達に年をとってはいないことを肌で感じる。
ナナセたちといっしょに彼女の前に正座するライオットに、頭首春風は口をひらいた。
「お待ちしておりました」
そういって頭を下げる。
ライオットも同様に頭を下げた。
春風は、自分の右にいる女性にチラッと顔を向ける。
その女性の前には、だんごを乗せる三宝のような台座があり、そこには黒い筒が置かれている。
筒は、丸めた卒業証書が入るほどの大きさで、女性がその筒を両手で大事そうに春風に渡した。
春風は、ライオットを見て微笑んだ。
「この中に、巻物が入っております」
彼女は、それをライオットに両手で差し出す。
──この中に、巻物が……
ライオットは緊張した面持ちで、春風から筒を受けとるのだった。
ライオットが頭首春風と対面した時間は、ものの五分ほどであったが、部屋をあとにすると疲れがどっと出た。
まったく敵意のない春風だったが、彼女から感じる圧力が半端ではなかった。ライオットも危機に直面したことは数回あるが、彼女は践んできた修羅場の数がちがうことを、思い知らされるようだ。
ヒトミが彼に声をかける。
「ミスター・ライオット、大丈夫ですか?」
「え?」
「すごい汗ですよ」
顔が汗だくである。思った以上に緊張していたようだ。
ライオットはあわててハンカチで汗をぬぐい、ヒトミに「大丈夫です」と微笑んだ。
ナナセが彼に告げる。
「京都の駅までお送りします。わたしたちクノイチの任務は、それで終わりです」
短い付き合いだったが、本当に頼りになる彼女たちであった。
ライオットは京都駅から新幹線に乗り、何事もなく東京へ向かったのだった。
東京駅へ到着したライオットに、電話が入る。
「もしもし、ライオットです」
「やあ、久しぶり。ジムだ」
「懐かしいな、元気かい?」
「ああ、日本は平和でいいね。夜は遊ぶところがないけど。いま、フジヤマを見てるよ」
しばらく雑談したあと、本題にはいる。
「ライオット、例のアレは持っているか?」
「ああ、きょう手に入った」
「わかった。明日、会う場所と時間は、わかってる?」
「ああ、わかってる。確認しようか、場所は……」
ジムとの話が終わったライオットは、下見のため指定された場所に足を運び、そこが本当にジムからきいた場所に間違いないことを確認する。
──俺の任務も、明日で終わりだな
そう思うライオットだが、巻物をめぐる運命はこのあとも彼を翻弄することを、ライオットは知るよしもなかった。




