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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ MI6諜報員ライオット
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◇ 撹乱

 縁側に出たとたんに男たちが目にしたのは、黒いセダンがエンジンをかけて発進しようとするところだ。

 その前方を、自分たちを乗せてきた白いセダンが、あわてたように走っている。


 二人は銃で車を狙う。数発の銃撃音が響く。しかし車は動じることなく、その場から去っていった。

 痩せた男がギリッと歯ぎしりをする。


 大男が彼に声をかけた。


「ロッソ、まずいぞ」


 ロッソは、大男に言葉をかえす。


「わかってる。バルゴ、とりあえず仲間に連絡するぞ」


 彼はそういうと、スマートフォンを取り出して仲間に連絡しようとする。


 だが──


「だめだ。つながらない」

「なぜだ?」

「ここは電波がとどかないんだよ」

「ちっ」

「電波のとどくところまで、歩くしかない。行くぞ、バルゴ」


 痩せぎすのロッソと大男バルゴの二人は、靴を履いて家から離れてゆくのだった。



 しばらくして、縁側の下からナナセがもそもそと顔を出す。そして、三人分の靴も外に出した。


 部屋の中では、ヒトミが掛け軸の裏側から顔をのぞかせる。

 煙幕を張ったとき、彼女はライオットの手をひいて掛け軸でふさいである隠し部屋の入口へ、二人で入ったのだ。


 隠し部屋といってもかなり狭く、まるでクローゼットのなかへ入るような感じである。

 緊急時の隠れ場所だ。


 ヒトミとライオットが、その隠れ部屋から縁側に出てくる。

 ナナセは立ち上がり、土ぼこりを払い落としながらいった。


「やはり、あの二人は偽者だったわね」


 ルーデス協会の担当者と連絡がとれない時点で、おかしいと思った。本物の担当者はあの二人に襲われ、こちらの連絡先を割らせると、始末された公算が大きい。


 ヒトミが彼女に問いかける。


「これからどうするの、ナナセ姉さん?」

「あの二人が何者か気になるけど、まずはライオットさんに巻物を渡さなければ。とにかく、ここを出ましょう」

「どうやって? わたしたちが乗ってきた車は、カナエ姉さんたちが(おとり)役で運転しているんでしょ?」

「大丈夫。離れの小屋に、車を隠してあるの」


 ライオットが部屋にもどり、畳の上に放り出されているアタッシュケースを手にとると、三人は家の裏に移動する。ところが、小屋らしきものは見当たらない。


 ナナセは、林のなかに足をふみ入れる。ヒトミとライオットは彼女に続き、どんどん先へ進んでゆく。


 五分ほど歩いたとき、ナナセが二人に伝える。


「着いたわよ」


 確かに離れの小屋ではあるが、離れすぎと思われる場所に、小屋が建てられている。それは古風な家とはちがって、モダンな小屋だ。倉庫といった方が良いかもしれない。


 入口のシャッターは、ここからは見えない。手前ではなく奥にある。

 ナナセがそっちへまわってシャッターを上げると、確かに車があった。キーは小屋の中にあり、シャッターの近くにかけてある。


 彼女はドアを開けて車に乗ると、エンジンをかけて車を徐々に小屋の外に出す。白いワンボックスである。数年落ちの中古車という感じだ。


 小屋のまわりは木々に囲まれていて、車の前方には、工事現場で使うA型バリケードがある。

 ナナセは運転席の窓を下ろすと、ヒトミにいった。


「ヒトミ、そこのバリケードをどけて」


 ヒトミがバリケードを移動させると、車一台分が通れる道がひらけている。


「さあ、二人とも乗って」


 ヒトミとライオットは、車体左側のスライドドアから座席に乗り込んだ。ヒトミがドアを閉めると、ナナセはポニーテールをほどいて伊達メガネをかけ、後ろにいる彼らの方をふり向いた。


「オーケー。じゃあ、行くわよ」


 ナナセが車を発進させる。この道は、ロッソとバルゴが歩いている方向とは逆の方向へ向かう道路につながるため、その二人に会うことはない。


 遠回りにはなるが、ナナセたちはライオットに巻物を渡すべく、車を飛ばして行くのだった。




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