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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 男たちの憂鬱
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◇ 思わぬ真相

 一度、アメリカへ帰国したワットのチームは、その後もジョンたちが知らせる容疑者を追う。


 しかし、同じことの繰り返しになる。ワットの見解は正しく、USBメモリーに収められたデータの奪い合いが、こういう事態をひき起こしていた。


 このパターンが続くということは、データ自体はまだ買い手に渡っていないと見てよい。一刻もはやく、後手にまわっている状態から前に出て、先手を打ちたい。


 ミッションがなかなか上手く進まない原因は、わかっている。

 これほどの重要案件が、なぜオペレーション・パンダちゃんより後回しにされるのか。そこが思いっきり間違っている。


 ジョンが理由を知っていた。


 オペレーション・パンダちゃんにおいては、盗まれたデータが女性職員の趣味に関する情報だった。その中にはペギー長官のデータも入っている。


 ペギー長官の趣味。それは──


「あの人、トランクスを集めているんだ。男物のパンツだよ」


 ジョンの言葉をきいたワットは、絶句する。


「長官は、痔を手術した経験があってな。それ以来、トランクスを履いているんだ」


 ペギー長官の一度しかない手術歴は、痔の手術だったのだ。


 トランクスには、いろいろな柄がある。身に着けているうちに集めたくなったのだろう。

 男物の下着を婦人が買いに行っても、旦那のものを買いに来たと思うのがふつうで、別に違和感はない。


 しかし、ペギーとしては絶対に知られたくない秘密だ。

 そもそも、自分のそういう趣味がデータとして記録されていたこと自体が、彼女にとってはあり得ない。


 誰も知らないが、そのデータをアップしたのは、 CIA きっての情報通と呼ばれる老兵ピーターである。


 休憩時間に女性職員たちがペギーの趣味の話で盛り上がっていた。ペギーはそれを耳にしたとき、自分の知らなかった事実をはじめて知ったのだった。


 大あわてで、その職員の一人に自分のデータを削除するよう命令したところ、データを盗まれた痕跡があるのがわかった。


 ペギーの顔が真っ青になる。


 以上の経緯により考えられたのが、オペレーション・パンダちゃんであった。


 ちなみに、このミッションでワットたちが取り返したUSBメモリーは、ミッション完遂の報告に来た彼らが長官室を出たあとに、ソッコーでハンマーで叩き壊している。


 ワットは頭が痛くなる。


 ──優先順位が、ちがうだろ


 どう考えても、オペレーション・ニードルの方が重要なミッションであり、これを先に片付けるべきなのだ。


 本気で、ペギー長官の趣味をネットに拡散したくなった。


 ともあれ、ワットのチームはブラジルからカナダと移動し、なにも成果が得られないままアメリカにもどった。


 そうしたところ、彼らが飛行機に乗っている間に、この重要案件は片がついたのである。


 CIA 内部に裏切り者がいることが発覚したのだ。職員であるクーリエという男がデータをひき出していたことが判明する。

 クーリエはそのデータを買ってくれる相手をペペロに頼んで探していたのだ。


 データ自体はクーリエが持っていたため、外部に流出することはなかった。


 ペペロがカジノで使った金は、クーリエからもらった前金だった。これが信じられないほどのツキを呼び、以降も運良く勝ち続けたのが、彼にとっては不幸だった。

 カジノのオーナーに目をつけられ、オーナーが雇っている裏社会の人間に殺されたというのが真相である。


 ペペロが探したデータの買い手は、ノゲイラだった。しかし、その情報が漏れてノゲイラは他組織の人間に殺害される。


 ペペロは、ノゲイラ以外にもデータの買い手を当たっていた。その相手がブラジルやカナダに渡り、ワットたちが彼らを見つけたときは、すでに屍と化したあとだった。


 今回はしんどい思いをしただけに終わった任務だったが、長官室でその話をきいたワットたちは、なにはともあれホッとする。


 ところが、ペギー長官が怒りの形相すさまじく怒声を飛ばす。


「予算オーバーよっ。後手にまわってばかりで、なにやってるのよ。もっとはやく片付けなさい!」


 みんなは思った。


 ──全部、あんたのせいだろうがっ


 面と向かっていえないのが、つらいところだ。




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