◇ ひたすら後手に
しばらく待っていると、ミッチェルが姿をあらわす。
ミッチェルはワットの前まで来ると、あわてたように口をひらいた。
「すまん、遅れた」
二人が話すのを、ワットの部下たちは離れたところで見ている。その会話は、耳に備えたインカムできくことができる。
データを盗んだのは、ペペロという黒人だ。アフリカ系の男らしい。
ワットはミッチェルに尋ねる。
「ペペロはいま、どこにいる?」
思いがけない返事がかえってきた。
「アメリカに飛んだよ、二日前だ。それがわかったのは、ついさっきなんだ」
ワットは、頭の中が真っ白になった。ミッチェルは言葉を続ける。
「妙に足取りがつかめないと思ったところが、君が来るまえに、すでにいなくなってたよ。身長二メートルの黒人だから、こっちでは目立つと思ったのかもな」
手際が悪いにも、ほどがある。
「ワット、そもそも調査の指示を受けたのが、ペペロがこの国を離れた直後なんだ。遅いんだよ。もっとはやく連絡してくれればなあ」
オペレーション・パンダちゃんよりもまえに計画されたミッションなのに、作戦を指示する者たちは、なにをやっているのか。
仕事ができなさすぎる。
ワットは怪訝な想いをあらわにするが、ミッチェルも苦い顔をする。
「ワットも知っているだろうが、長官があの女上司に替わってから、事が思うように運ばないことが再々あるんだ」
「現場の俺たちは、たまったものじゃないぞ。ミッチェル」
「ああ。責任は俺たちよりも上の方にあると思うが、長官は自分に責任があるとは、これっぽっちも感じていないだろうな」
「やれやれだ」
愚痴をいい出すとキリがなくなる。いまは、そんな場合ではない。
ワットはミッチェルに告げる。
「俺のチームはアメリカにもどるが、おまえはどうする?」
「自分は、ここでペペロのことをもう少し調べるよ。そいつが誰とつながっているのか、まだわからないからな」
ワットは、うなずいた。そしてチームの仲間に連絡する。
「アメリカにもどるぞ」
これがまたスムーズにいかず、他国経由でバラバラに帰ることを余儀なくされ、チーム全員がアメリカでそろったのは三日後だった。
香港からアメリカに帰国し、みんなが合流するのに三日間も要したのは、想定外のロスだ。
ペペロの動向を他の仲間たちが追っているが、その痕跡は簡単にはつかめないだろう。
……と思ったところが、ジョンからワットに連絡が入る。
「ペペロはロサンゼルスにいるぞ。毎日、カジノで遊んでいる」
「本当か?」
「はじめて行ったカジノで、大勝したようだ。ビギナーズラックというやつだな」
「泊まっているホテルは、わかるか?」
「ああ、わかる。そのホテルは──」
ワットたちは、すぐさまロサンゼルスへ飛んだ。
そのときのことを省みるワットは、うんざりした顔でいった。
「あのミッションほど、思うように進まなかった作戦はない」
ロサンゼルスでワットたちを待っていたのは、どうしようもない現実だった。
空港に到着してすぐに入ってきたジョンからの連絡に、ワットは顔の色を失う。
「死んだ……って、ペペロが?」
殺されたらしい。
犯人はわからない。三発の銃弾を胸と腹に食らっていたという。財布はぶじだったので、殺し屋の類いに狙われたようだ。
ワットたちが飛行機に乗っている間に判明したことだった。
手がかりが途絶えたと思ったが、ミッチェルがペペロとつながりのある男を探し当てる。
「ワット、ノゲイラという男を追うんだ。いまはドバイにいる」
ミッチェルからノゲイラに関する情報を送ってもらい、ワットたちはドバイへ飛んだ。
しかし──ひと足、遅かった。ノゲイラも殺害されていた。
マーフィーがワットに問いかける。
「どういうことでしょうね。行く先々で、こっちが追っている人間が殺されていますが」
「おそらく、盗まれたデータの奪い合いが起きている」
頼れるリーダーの言葉に、みんなは納得してうなずいた。




