◇ 三者会談
ライオットたちを乗せた車は、街から離れて山奥へ進む。
ホテルを出てから、休憩をはさみながら二時間は走っただろうか。到着した場所は、人里はなれた森のなかだ。そこに古風の家がある。
木材で造られた建物に、ライオットの目が奪われる。縁側があり、障子が張られ、瓦葺きの屋根の建物を実際に目にするのは、はじめてだ。
「アンティーク、ジャパニーズハウス、ファンタスティック!」
一階建てではあるが、歴史を感じさせるこの建物の存在感に、ライオットは興奮する。
彼らは、玄関からではなく正面に見える縁側から、靴を脱いで上がる。彼らとは別の靴が三足あり、客人はすでにここで待っているようだ。
家のそばに白いセダンがあるが、これは客人を乗せてきた車だろう。
三者会談といっても、人数が三人というわけではない。
ヒトミが障子をスーッと開ける。中は八畳の部屋だ。
痩せた男と、彼とは対照的に大柄な男が、畳の上にあぐらをかいて座っている。二人とも外国人だ。
彼らに面して、ひとりの女性が正座している。髪をポニーテールにした彼女は、ヒトミの先輩であるナナセだ。動きやすいパンツ姿の彼女は、ヒトミに声をかけた。
「やっと来たわね」
「ごめん、ナナセ姉さん。待った?」
「十五分くらいね」
先客の男たちを前にして、右からヒトミ、ライオット、そしてナナセが座った。
彼女たちの背後の壁に、大きな掛け軸がかけてある。ルーデス協会からみれば、これも価値あるものであろう。
ナナセが、会談の口火をきった。
「では、みなさんそろったところで、はじめましょう」
彼女は英語を話せるので、会談は英語でなされた。
まずは交渉をもちかけたルーデス協会側のいい分をきき、ナナセが「巻物は、すでにイギリスに渡すことを約束している」と説明する。そのあいだ、ライオットは口をはさまない。
ルーデス協会側の二人はなかなかしつこく、しかもイギリスと交渉する気はなく、春風の組織との交渉にこだわっている。
話が進展しないまま、時間が過ぎてゆく。ひと息ついたのを見はからい、ライオットが話題を変えるかのようにルーデス協会側の二人に話しかける。
「そちらのハリス氏とは知り合いなんですが、彼はいま、どちらへ?」
一瞬、痩せぎすの男が顔をひきつらせる。彼は、焦ったように答えた。
「あ、ああ。ええと、あの人はスペインの方へ行っていますよ」
ライオットは、さらに尋ねる。
「彼は、あの人この人と、手当たり次第にベッドへ連れ込むことで、有名らしいですね」
「まあ、女癖の悪い人なんでね」
ライオットが、ニヤッと笑う。
「ボロが出たな」
「え?」
「ハリス氏は確かに手癖が悪い人で有名だが、相手は女ではなく男だよ。彼は、ホモなんだ」
ルーデス協会を騙る二人は、その事実に唖然となった。
ライオットが彼らを見据える。
「おまえたちは何者だ。なぜ、巻物を手に入れようとする?」
「くっ」
偽者二人は、立ち上がろうとしながら、スーツの内側にある銃を出そうと手を突っ込む。
しかし、それよりはやく、ナナセとヒトミが片手でバンッと畳を叩くと、その手を素早く上げて畳をぶわっと宙に浮かせる。
この畳返しに、彼らはおののいた。ナナセとヒトミは、浮いた畳を俊敏な動きで男たちに向けて蹴り飛ばす。
二人の男がこの畳攻撃に怯んでいる隙に、ナナセがすかさず煙玉を床板に叩きつけた。ヒトミも同じく煙玉をとり出して炸裂させ、煙幕を張る。
畳攻撃をもろに食らった相手は、煙で視界をさえぎられ、ライオットたちを見失う。
痩せた男が、銃を構えながら叫んだ。
「くそ、どこにいる!」
そのとき、タンッと、障子の閉まる音がきこえた。
「外だっ」
二人は障子を開けて、縁側に出る。




