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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 男たちの憂鬱
59/67

◇ 次の任務へ

 オペレーション・パンダちゃんを完璧に成し遂げたワットたちは、アメリカに帰国する。


 CIA の本部にもどると、長官のペギーに報告すべく長官室に入った。

 ペギーの表情が、ムッとしている。なぜだかわからないが、機嫌が悪そうだ。


 ワットは、任務を完遂したことを彼女に伝える。


「オペレーション・パンダちゃん、完了しました。これが、取り返したUSBメモリーです」


 彼女のデスクに、例のUSBメモリーを置く。


 ペギーの目は、そっちではなくコーヒーの入ったカップを睨んでいる。


「このコーヒー、不味いわ」


 機嫌が悪いのは、これのせいらしい。豆が古い。賞味期限がとっくに切れている豆なのだ。


 ペギー長官のことを(うと)ましく思っているのは、ワットのチームだけではない。長官をきらう人間の一人が、彼女が飲むコーヒーの豆をすり替えたのだ。


 体調を崩すことを期待したのだが、彼女はそんなことで体調不良に陥るほどヤワではなかった。痩せぎすのペギーだが、人並み以上の健康体である。

 ただ、彼女は手術歴が一度ある。


 このコーヒー作戦は、単なる嫌がらせに終わってしまう。

 さらに、このとばっちりはワットたちに向けられるのだった。


 ペギー長官は、ワットの前に資料をバサッと放ると彼らに告げる。


「次の任務よ」


 いま帰ってきたばかりなのに、休む間もなくハードに働けというのか。

 みんなは言葉もなく唖然となる。


 ワットは資料を手に取る。日付を見ると、やり終えた任務よりも先に考えられた作戦らしい。


 表紙に「オペレーション・ニードル」と書かれたその内容は、前回同様に盗まれたデータが入ったUSBメモリーを取り返すことだ。


 そのデータとは、今後のアメリカ軍が中東に派遣する部隊や、そこに供給する武器などの詳細が記された重要な情報である。


 みんなは思った。


 ──こっちの方が、オペレーション・パンダちゃんより大事じゃん!


 まずは香港へ飛ばなければならない。ゆっくりしている暇はなさそうだ。


 ワットは部下たちにいった。


「行くぞ」


 彼らは仕方なくうなずき、行動に移るのだった。




 アメリカから香港までの飛行機は問題なく発進したが、けっこう揺れた。ふだんはそれほどでもないのに、こういうときに限ってこうなる。

 ワットたちは思うように休めないまま香港に到着する。


 オペレーション・ニードルは、まったくスムーズに進まなかった。


 宿泊予定のホテルにたどり着くが──


「予約してない?」

「はい。申し訳ありませんが、お名前が見つかりません」

「部屋は空いてる?」

「いえ、満席でございます」


 ワットは、CIA の担当者マイヤーに連絡する。


「ニードルの件で香港に来ているが、ホテルの予約がとれてないぞっ」

「ニードルの件て、きいていないのですが……ちょっと待ってください」


 しばらくして、マイヤーは伝える。


「やはり、そのミッションに関することは、こちらには回ってきていませんね」

「もういいっ」


 ワットは、別の担当者であるジョンに電話をつなぐ。ワットにすれば、ジョンはかなり信頼のおける人物だ。


「ニードルの件で香港に来ているが、マイヤーは全然、知らないようだ。そっちは知っているよな」

「ニードルの件?」


 ジョンも知らないらしい。それで、彼が調べたところによると


「ミッションAHO5963、これだな。飛行機を手配したところで止まってる」


 信じられない。ワットは怒鳴った。


「なにやってんだよ!」

「新人が任されていたんだろう。そういえば、すぐに辞めた女の新入りがいたよ」


 結局、予約済みだと思っていたこのホテルに泊まることはできなかった。


 しかし、CIA とつながりのある香港の情報屋の伝手(つて)で、全員がどうにかあちこちに寝床を確保することができたのだった。




 翌朝──決めていた待ち合わせの場所に、みんなが時間どおりに来る。といっても、一ヶ所に目立つように集まるわけではない。


 この場所には、別行動で動いていた CIA の同僚であるミッチェルが来る。

 彼が会うのは、ワットだけだ。




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