◇ 次の任務へ
オペレーション・パンダちゃんを完璧に成し遂げたワットたちは、アメリカに帰国する。
CIA の本部にもどると、長官のペギーに報告すべく長官室に入った。
ペギーの表情が、ムッとしている。なぜだかわからないが、機嫌が悪そうだ。
ワットは、任務を完遂したことを彼女に伝える。
「オペレーション・パンダちゃん、完了しました。これが、取り返したUSBメモリーです」
彼女のデスクに、例のUSBメモリーを置く。
ペギーの目は、そっちではなくコーヒーの入ったカップを睨んでいる。
「このコーヒー、不味いわ」
機嫌が悪いのは、これのせいらしい。豆が古い。賞味期限がとっくに切れている豆なのだ。
ペギー長官のことを疎ましく思っているのは、ワットのチームだけではない。長官をきらう人間の一人が、彼女が飲むコーヒーの豆をすり替えたのだ。
体調を崩すことを期待したのだが、彼女はそんなことで体調不良に陥るほどヤワではなかった。痩せぎすのペギーだが、人並み以上の健康体である。
ただ、彼女は手術歴が一度ある。
このコーヒー作戦は、単なる嫌がらせに終わってしまう。
さらに、このとばっちりはワットたちに向けられるのだった。
ペギー長官は、ワットの前に資料をバサッと放ると彼らに告げる。
「次の任務よ」
いま帰ってきたばかりなのに、休む間もなくハードに働けというのか。
みんなは言葉もなく唖然となる。
ワットは資料を手に取る。日付を見ると、やり終えた任務よりも先に考えられた作戦らしい。
表紙に「オペレーション・ニードル」と書かれたその内容は、前回同様に盗まれたデータが入ったUSBメモリーを取り返すことだ。
そのデータとは、今後のアメリカ軍が中東に派遣する部隊や、そこに供給する武器などの詳細が記された重要な情報である。
みんなは思った。
──こっちの方が、オペレーション・パンダちゃんより大事じゃん!
まずは香港へ飛ばなければならない。ゆっくりしている暇はなさそうだ。
ワットは部下たちにいった。
「行くぞ」
彼らは仕方なくうなずき、行動に移るのだった。
アメリカから香港までの飛行機は問題なく発進したが、けっこう揺れた。ふだんはそれほどでもないのに、こういうときに限ってこうなる。
ワットたちは思うように休めないまま香港に到着する。
オペレーション・ニードルは、まったくスムーズに進まなかった。
宿泊予定のホテルにたどり着くが──
「予約してない?」
「はい。申し訳ありませんが、お名前が見つかりません」
「部屋は空いてる?」
「いえ、満席でございます」
ワットは、CIA の担当者マイヤーに連絡する。
「ニードルの件で香港に来ているが、ホテルの予約がとれてないぞっ」
「ニードルの件て、きいていないのですが……ちょっと待ってください」
しばらくして、マイヤーは伝える。
「やはり、そのミッションに関することは、こちらには回ってきていませんね」
「もういいっ」
ワットは、別の担当者であるジョンに電話をつなぐ。ワットにすれば、ジョンはかなり信頼のおける人物だ。
「ニードルの件で香港に来ているが、マイヤーは全然、知らないようだ。そっちは知っているよな」
「ニードルの件?」
ジョンも知らないらしい。それで、彼が調べたところによると
「ミッションAHO5963、これだな。飛行機を手配したところで止まってる」
信じられない。ワットは怒鳴った。
「なにやってんだよ!」
「新人が任されていたんだろう。そういえば、すぐに辞めた女の新入りがいたよ」
結局、予約済みだと思っていたこのホテルに泊まることはできなかった。
しかし、CIA とつながりのある香港の情報屋の伝手で、全員がどうにかあちこちに寝床を確保することができたのだった。
翌朝──決めていた待ち合わせの場所に、みんなが時間どおりに来る。といっても、一ヶ所に目立つように集まるわけではない。
この場所には、別行動で動いていた CIA の同僚であるミッチェルが来る。
彼が会うのは、ワットだけだ。




