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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 男たちの憂鬱
58/67

◇ CIAの長官

 そのころ、ビルの屋上にいるライオットたちは──


 CIA のチームリーダーである主任のワットが、部下たちに伝える。


「降りよう。ここにいても意味がない」


 部下のアレックスが、立てかけてある狙撃銃を指さしながら彼に尋ねた。


「この銃は、どうしますか?」


 それにはライオットが応える。 


「こっちで処理するよ。ベルベットと関わりが深いのは、あんたたちよりも俺たちだ」


 ワットは、うなずいた。


「よけいな手間がはぶけて助かるよ」


 ライオットは彼にいった。


「よかったな。これで、あんたたちも問題なく本国へ帰れるだろう」


 ところが、ワットをはじめ CIA の彼らは消沈した顔になる。


 ──あれ?


 不思議に思ったライオットは、彼らに訊いてみた。


「アメリカ本国で、なにかあったのか?」

「………」


 返事がない。明らかに帰りたくなさそうな想いが、彼らの全身からにじみ出ている。


 怪訝な顔つきをしたマーフィーが、みんなの心情を漏らすようにボソッと口に出した。


「本部に帰ると、ペギー長官が……なあ」


 以前、その名を耳にしたことがあるライオットは、自分の記憶をまさぐってみる。


 ──ペギー? ペギーって、確か CIA の女長官だよな


 アレックスがワットの方を向いて、気の毒そうにいった。


「下っ端の自分たちはまだしも、主任は大変でしょ」


 ワットが苦い顔をする。


「かんべんしてほしいよ、まったく」


 身内どうしで、いろいろあるようだ。


 マーフィーとアレックスが、どうしようもないという声を響かせる。


「あの人、すぐにヒステリーを起こしますからね」

「いちいち、うちの部署まで来て文句をいいますからね。呼んでもいないのに」


 ワットは、ため息をついた。


「二ヶ月前のオペレーション・ニードルには、まいったな」

「あれは疲れました」

「人使いが荒すぎます」


 オペレーション・ニードル──その作戦は……の、まえに


 ワットのチームによる「オペレーション・パンダちゃん」が、マレーシアで遂行された。

 作戦名を考えたのは、長官のペギーだ。


 その作戦名をきいたみんなは、全員がやる気を失ったが、どうにか気持ちを立て直して事に挑んだ。


 まず、中国人のスパイであるワン・ダホーが CIA の女性職員のデータを盗み出した。その内容は彼女たちの趣味に関するもので、はっきりいってどうでもいい情報である。

 また、ワン自身は、これを暗号化された非常に重要なデータだと勘違いしていた。


 そのデータを収めたUSBメモリーを中国へ持ち逃げするのを阻止することが、オペレーション・パンダちゃんである。


 ──そんなくだらないUSBメモリーを、なんで俺たちが……


 と、ワットたちは思ったが、長官の命令だから仕方ない。


 空港で中国行きの搭乗ゲートを見張り、ワンが来れば捕らえる体制を整える。ワンは、さすがにゲートまで足を運べない。


 彼は中国行きの飛行機に乗らずに、マレーシア行きの飛行機に切り替えた。

 これは CIA の作戦で、ワンに「フィリピンや香港などの空港で、CIA の諜報員がワンを待ちぶせている」という情報を流し、マレーシアだけが安全だと思わせたのだ。


 ワンが泊まるマレーシアのホテルは、すでに調べがついている。先回りした諜報員をそこへ送り込み、ワンの泊まる部屋を確認すると盗聴器を仕掛けた。


 ワンが盗んだデータが収められているUSBメモリーは、中国から来るマー・イーヤンに渡されることがわかった。


 CIA は、ワンとマーが落ち合う時間と酒場の店も把握した。

 もちろん、ワンたち二人の顔や身体的特徴の情報も手に入れている。


 そして当日、夜の酒場にワンとマーがあらわれ、彼らは同じテーブルで酒をオーダーすると、ワンがマーにUSBメモリーを渡した。


「あとは頼んだぞ、マー」

「中国へ帰れば、それで終わりだ。簡単なことだよ、ワン」


 しばらくして彼らは店を出ると、各々が自分の泊まるホテルへもどって行った。


 だが──ワンもマーも、ホテルへ帰り着くことはなかった。


 ワンはナイフで首を切られ、マーは心臓を刺されて絶命する。

 当然、USBメモリーは CIA の諜報員が取り返した。


 警察は、二人の財布から現金が抜き取られていたことから、物取りの犯行と断定したのだった。




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