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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 殺し屋たち
21/53

◇ それぞれの思惑

 ロッソは、ハンドルをガンッと叩いた。


「くそがっ」


 アクセルを踏み込んで、ナナセたちを追う。彼女たちの車にこれ以上離されると、やっかいだ。


 一方、ナナセたちも早急に判断を迫られる。ベルベットの車は、もはや視界には(とら)えられず、後方からはロッソたちが目の敵にするように追ってくる。


 ナナセがカナエに告げる。


「ベルベットは追わなくていいわ。それより、後ろの車に注意して」


 カナエはバックミラーに視線を移した。ロッソたちの車は、ずっと後方にある。時速100キロを超えるスピードで走っている彼女たちだが、このままではいづれ追いつかれそうだ。


 もっとスピードを出そうとしたとき、ナナセが冷静な声を響かせる。


「高速を降りて、街に入って」


 カナエが予想外という顔で、ナナセに目を向ける。街までの距離はあとわずかだが、その街で事が起きると被害は大きくなる。


「いいんですか? 他の車を巻き込むのでは……」

「いったん街に入って、引き返すの」


 そこでロッソたちをまくことができれば、ベストだといえる。しかしナナセは、そこまであの二人を甘く見てはいない。


「リツコに手伝ってもらうわ」


 ナナセはスマートフォンを取り出し、リツコに連絡する。


 カナエの運転する車は高速道路を降りて街を目指し、ロッソたちもその跡を追うのだった。




 ナナセが乗る車がロッソたちとカーチェイスをしている間に、ライオットはICUの病室から個室へ移される。


 その個室にエリナという女性がやってきて、自分はライオットに付き添うことになったクノイチだと英語で紹介される。ナナセと同じくらいの年齢でボブの髪型の彼女は、おっとりした雰囲気があり、戦闘に()けた者が放つ荒々しさを感じさせない。


 春風という組織について、もっと知りたいと思うライオットは、エリナにいろいろ訊いてみる。しかし大事な部分は、はぐらかされた答えが返ってくるだけだった。


 結局、東京や京都の観光スポットなど、話はそっちの方へ流れてゆく。雑談に花が咲いて、話がはずんでいたときだった。


 エリナのスマートフォンに着信のバイブが起動する。


 ──リツコ?


 夜はリツコがエリナと交代して、ライオットの警護にあたるように決めてある。


 エリナは、なにかあったのかと思いながら電話にでた。


「もしもし、リツコ?」

「エリナ、さっきナナセから連絡があって、応援に行かなきゃならなくなったの。今夜は交代できそうにないわ」

「なにがあったの?」

「それがね、──」


 事のなりゆきをきいたエリナは通話を終えると、ライオットに顔を向ける。

 すると、彼女より先にライオットが口をひらいた。


「なにかあったのかい?」


 エリナは答える。


「ナナセたちをベルベットが追っていたそうですが、彼女の標的はナナセたちではなかったようです」

「ということは、ベルベットが狙っているのは……」


 自分だったのか。と思ったが、エリナの言葉がそれを否定する。


「彼女の標的は、あなたでもありません」

「え、どういうこと?」

「ちょっとややこしいのですが、いまの状況を説明すると、ベルベットはルーデス協会の偽者に狙われていたそうです」


 ライオットは唖然となる。あの二人のことは、すっかり忘れていた。と同時に、彼らとベルベットがこんな形で絡んでいることに驚いた。


 エリナが言葉を続ける。


「ベルベットは、ルーデス協会の偽者から逃れるために、ナナセたちを利用したのです。餌に使われたわけですね」


 したたかな女だ。


「ベルベットはすでにナナセたちから離れ、どこへ向かったかわかりません。いま、ナナセたちはルーデス協会を騙っていた二人に追われていて、わたしの仲間に応援を頼みました」


 彼女の話をきいたライオットは、鋭く思考を回転させる。


 ──そうだ


 ライオットは、ふと閃いた。




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