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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 殺し屋たち
20/47

◇ 偽物ふたたび

 ナナセがカナエの方をふり向いた。


「来るわよ」


 カナエがアクセルをグッと踏み込む。スピードが加速する。時速70キロから80キロ、そして100キロを超えた。

 追い越し車線を走る後ろの白いクーペは、その差がひらくどころか、どんどん追いついてくる。


 カナエが血相をかえながら、叫ぶような声を出した。


「離せません、近づいてくる!」


 ナナセは冷静に言葉を返す。


「焦らないで。この車は、防弾だから」


 しかし、それ以上の強化はしていない。スピードメーターの針が120キロに迫る。この速度で体当たりされると、非常に危険だ。


 ナナセの顔から、冷たい汗が滴る。


 カナエは、さらにスピードを上げる。130キロに達したが、追い上げてくる車の方が速い。


 カナエがドアミラーに視線を移した。だが、そこに映っているはずの白い車が消えている。


「どこへ……っ!」


 カナエはギョッとした。ドアミラーから消えたクーペが、自分の運転する車にならんでいるのだ。


 ナナセが、その車を運転している人物に目を向ける。運転手は女である。


 ──やはり、そうか


 ベルベットだ。しかし、彼女は予想外の行動に出る。


 ベルベットはナナセに微笑むと、親指を立てた左手で後方をさした。そして、ナナセたちの乗る車にはなにもせず、まったく相手にしないまま追い越していったのだった。


 クノイチの彼女たちは呆然となる。すると、別の車が横にならんだ。黒いワゴンだ。


 そっちの方へ顔を向けたナナセは、目が点になった。ならんだ車の助手席に座っているのは、ツルツル頭で身体の大きいバルゴである。運転しているのは痩せぎすのロッソだ。


 三者会談以降、二人のことはすっかり忘れていた。まさか、こんなところで彼らに出会うとは夢にも思っていなかったナナセである。


 向こうも、こちらに気づいたようだ。


「おい、ロッソ!」

「おお、あの女じゃねえかっ」


 ナナセの思考が頭の中を駆け巡る。


 ──ベルベットは、この二人に追われていたのか?


 ふつうなら巻物を奪った時点で、さっさと国外へ脱出するはずである。それなのに、いまだに日本にいるということは、脱出したくてもできない事情があったのではないか。


 ──彼らに邪魔されていたということか


 そして


 ──わたしたちは、彼らと戦わせるための(えさ)に使われた、といったところか


 間違いないと思う。ベルベットの標的とする相手は、もういない。ロッソとバルゴという邪魔者をどうにかできる存在が必要だったのだ。


 そのためには、ナナセたちクノイチが、もっともうってつけである。ベルベットが見張っていたのはライオットではなく、ナナセたちだったのだ。


 そして、事はベルベットの狙いどおりに進んでゆく。ナナセとカナエが同時に思った。


 ──くる!


 ロッソがハンドルを一気に左へきった。


「死ねっ」


 彼らの乗る黒いワゴンが、ナナセたちのセダンに襲いかかる。


 だが、相手の行動を読んだカナエは、直前に思いきりブレーキを踏んでいる。けたたましいブレーキ音が、彼女たちの耳をつんざく。

 間一髪で、ワゴンとの接触は避けられた。


 カナエはアクセルを踏みながら、追い越し車線へ移行する。そのままスピードを加速し、ロッソたちを突き放す。


 ロッソはギリッと歯ぎしりした。


「ちっ」


 車の体制を立て直している間に、ナナセたちとの距離がひらいた。これ以上離されまいと、思いきりアクセルを踏んでスピードを上げる。


 バルゴが、深刻な顔をロッソに向ける。


「ロッソ、まずいぞ」

「なにがだ」

「ベルベットの車が、離れちまった」


 そんなことは当たり前だろと思っているロッソに、バルゴは言葉を続ける。


「あいつから奪うはずの巻物は、どうするんだよ」


 刹那、ロッソの頭の中が真っ白になった。



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