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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 進まない任務
19/41

◇ 標的は誰だ?

 不意に、ライオットの思考が別の方へ流れた。彼はナナセに顔を向ける。


「わたしを助けてくれたのは、クノイチだよね?」

「そうです」

「京都で別れた君たちは、これで任務は終わりだといっていたけれど……それなのに、なぜ?」


 ライオットの疑問に、ナナセは答える。


「あのあと、ロッドマンさんから連絡がありました。もし、CIA のカーラという女が偽者なら、ジムさんの次にあなたが狙われるかもしれないと」

「………」


 ナナセたちは、ベルベットが昼に出かけている間にホテルの部屋へ忍び込み、窓に細工をほどこした。そして、もしものときのために横須賀米軍基地からの偽の速達を作ったのだ。本当にその速達を使うことになるとは、彼女たちには予想外だったが。


「巻物は奪われましたが、あなたがぶじでよかったです。まさか、カーラの偽者がベルベットだったとは、思いもしませんでしたが」


 ライオットは、ふと思った。ベルベットの狙いは、ひょっとして


 ──クノイチか?


 彼は、自分の考えをナナセに伝える。


「ベルベットの標的は、君たちかもしれない」

「え?」

「ベルベットの標的がわたしなら、意識がもどらない三日間のうちに、とっくに殺しているだろう。それだけの時間があれば、彼女なら可能なはずだ」


 おそらくベルベットは、いまナナセとヒトミがこの病院へ来ていることを知っている。

 そして、彼女たちを待ちぶせしているかもしれない。


 ヒトミがナナセの顔を見上げる。


「ナナセ姉さん」

「あり得るわね」


 ナナセは即座に決断する。


「ミスター・ライオット、これからあなたを別の病室に移動します」


 ベルベットが狙っているのが誰なのかはっきりしない以上、この判断は正しいといえるだろう。


 ライオットは彼女に尋ねた。


「君たちは、どうするの?」


 ナナセは即答で返した。


「ベルベットがわたしたちを標的にしているのか、確かめようと思います」


 それをきいたライオットは驚き、目を見開いた。


「あの女の前に、姿をあらわすのか?」


 ナナセは無言でうなずいた。


「ダメだ、危険だよ。あの女は、MI6 のなかでも要注意人物として、真っ先に名前があがるほどの女だぞ」

「でも、わたしたちが彼女の標的になっているなら、ここから離れればあなたは安全です」


 クノイチの自分たちがこの病院から離れれば離れるほど、ライオットは危険から遠ざかることになる。


「行きましょう、ヒトミ。では、おだいじに」


 ナナセはライオットにそう言葉をのこすと、ヒトミといっしょにドアの方へ向かって行く。


 ライオットは、彼女たちを呼び止めようと身体を起こそうとした。


 ──うっ……


 だが、頭がジーンとなって彼の上半身はふたたびベッドに落ちた。


 結局、ライオットは声も出せないまま、ナナセたちを行かせてしまうのだった。


「くそっ」


 ふがいない自分に腹が立つ。




 病院を出たナナセとヒトミは駐車場に向かうと、彼女たちを気長く待っていた白いセダンに乗り込んだ。


 退屈そうな顔をしている運転手のカナエに、助手席に座ったナナセがいった。


「お待たせ」


 ナナセより二つ年下のカナエが、ナナセに訊いてみる。


「ライオットさんの容態は、どうでしたか?」

「なんとか大丈夫みたいよ。記憶も、もとにもどったし」


 カナエは車のエンジンをかける。


「このまま帰りますか?」

「いえ、わたしたちは見張られているみたい」

「え?」

「しばらく、適当に流しましょう」


 ナナセはそういうと、助手席のサンバイザーを降ろした。そこにあるミラーで、後ろを走る車をチェックする。


 ベルベットが自分たちを標的にしているのであれば、必ず跡をつけてくるだろう。


 街中を適当に走って郊外へ出たとき、やはり追ってくる車があることが確認できた。


 カナエがボソッと声に出す。


「白い車が、迫ってきてますね」

「ええ。おそらく、ベルベットね」


 確かに白い車がナナセたちを追ってきている。スポーツタイプのクーペだ。


 ナナセが指示を出す。


「高速へ入って」


 ナナセたちが乗っている車が高速道路へ入ると、後ろの白い車もついてくる。






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