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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 進まない任務
17/19

◇ よみがえる記憶

 ライオットの記憶が途切れた。彼は、ジムと会った記憶を必死で思いだそうとする。だが、その記憶がどうしても見つからない。


 ナナセが、別のことを尋ねた。


「ロッドマンという人を知っていますか?」


 ライオットの目が、ナナセの顔に釘付けになる。


 ──ロッドマン……


 きき覚えのある名前だ。最初にその名をきいたのは、日本に来てからではなかったように思う。

 記憶が、日本に発つまえのころまでさかのぼる。


 ヘレン長官の声が頭に響く。


「なにかあったら、ロッドマンに連絡して」


 不意に、ひとりの女性が思い浮かんだ。白いジャケットに紺のスカート、つばの広い帽子に赤いリボンが目立っている。


 この若い彼女に会ったことがある。彼女のセリフが、頭の中でよみがえる。


「ジムは来ないわよ」


 ライオットは目を大きく見開いた。


「彼女だ、ロッドマン。そう、ジムに会えなかったんだ!」


 ナナセはうなずくと、さらに別の女性の名を告げる。


「カーラという女を覚えてますか」

「カーラ?」


 ライオットは、ふたたび記憶の海に沈んだ。


 ──カーラ……


 きいたことがあるように思う。誰だったか。


 ライオットは、まずロッドマンに会ってなにをしたかを思い出そうとする。

 彼女に巻物を渡してはいない。跡をつけられているのはわかっていたので、巻物を彼女に渡すと、彼女が狙われる恐れがあった。


 あの日は、二人で恋人ごっこを演じて、そのまま別れた。そこまで思い出した。


 ──あれから……


 ホテルに帰ったと思うが、なにかあったような気がする。


 ヒトミがライオットに助け船を出すように、声をかけた。


「 CIA の人に会いませんでしたか?」


 大きなヒントだった。


 ── CIA ? CI……っ!


 ライオットの中で、カーラと CIA がつながった。


「そうだ。ホテルに帰るまえに、彼女に会ったんだ。彼女が泊まっているホテルで話をしようと誘われたが、正体がはっきりしないので断ったんだ」


 記憶が次々によみがえる。


「あれから帰って、ロッドマンに連絡して、カーラのことをきいて……」


 翌日、彼女の泊まっているホテルまで行って実際に会った。


 肝心なのは、そこからだ。


 ──ええと


 確か、彼女は浴衣を着ていた。それから、ビールを飲んだ記憶がある。


「彼女が泊まっているホテルの部屋で、実際に会ったよ。ビールをもらって飲んだことまでは覚えている」


 以降、なにがあったのかが思い出せない。


 ナナセが問いかける。


「そのカーラは、本物でしたか?」


 ライオットは、ナナセをまじまじと見た。


 ──本物? 彼女は……


 途切れた記憶に立ち返る。


 カーラが本当に本人なのか、確かめなければならない。そのことで、ホテルに到着するまで、かなり悩んだはずだった。

 右のお尻にあるというタトゥーを確認しなければならない。


 ──いったい、どうやって自分は……あっ!


 形の良いバストが、ライオットの頭をよぎった。彼女は浴衣をバッと広げたのだった。それを脱いで後ろを……向いた?


「ロッドマンから教えられたタトゥーが……」


 あったような、なかったような、記憶が定かではない。胸だけは覚えているが、それ以上のことを思い出そうとすると頭が痛んでくる。


「ダメだ。思い出せない」


 ナナセは、ヒトミの方へ顔を向ける。


「このあたりで意識を失ったようね」


 ヒトミが日本語でライオットに質問する。


「カーラから、なにか食べ物をもらいませんでしたか?」


 ライオットも日本語で答える。


「ナッツ、もらったです。けっこう、好き、です。彼女も、それ食べた。安心して、自分も……」

「ああ、それですよ」

「え?」


 ナナセが説明する。


「そのナッツには、強力な薬剤が含まれていたんです。ひとつ食べただけでも、重症になりかねないものだったのです」


 ライオットはナナセの顔を見たまま、息をするのも忘れたように固まるのだった。




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