◇ よみがえる記憶
ライオットの記憶が途切れた。彼は、ジムと会った記憶を必死で思いだそうとする。だが、その記憶がどうしても見つからない。
ナナセが、別のことを尋ねた。
「ロッドマンという人を知っていますか?」
ライオットの目が、ナナセの顔に釘付けになる。
──ロッドマン……
きき覚えのある名前だ。最初にその名をきいたのは、日本に来てからではなかったように思う。
記憶が、日本に発つまえのころまでさかのぼる。
ヘレン長官の声が頭に響く。
「なにかあったら、ロッドマンに連絡して」
不意に、ひとりの女性が思い浮かんだ。白いジャケットに紺のスカート、つばの広い帽子に赤いリボンが目立っている。
この若い彼女に会ったことがある。彼女のセリフが、頭の中でよみがえる。
「ジムは来ないわよ」
ライオットは目を大きく見開いた。
「彼女だ、ロッドマン。そう、ジムに会えなかったんだ!」
ナナセはうなずくと、さらに別の女性の名を告げる。
「カーラという女を覚えてますか」
「カーラ?」
ライオットは、ふたたび記憶の海に沈んだ。
──カーラ……
きいたことがあるように思う。誰だったか。
ライオットは、まずロッドマンに会ってなにをしたかを思い出そうとする。
彼女に巻物を渡してはいない。跡をつけられているのはわかっていたので、巻物を彼女に渡すと、彼女が狙われる恐れがあった。
あの日は、二人で恋人ごっこを演じて、そのまま別れた。そこまで思い出した。
──あれから……
ホテルに帰ったと思うが、なにかあったような気がする。
ヒトミがライオットに助け船を出すように、声をかけた。
「 CIA の人に会いませんでしたか?」
大きなヒントだった。
── CIA ? CI……っ!
ライオットの中で、カーラと CIA がつながった。
「そうだ。ホテルに帰るまえに、彼女に会ったんだ。彼女が泊まっているホテルで話をしようと誘われたが、正体がはっきりしないので断ったんだ」
記憶が次々によみがえる。
「あれから帰って、ロッドマンに連絡して、カーラのことをきいて……」
翌日、彼女の泊まっているホテルまで行って実際に会った。
肝心なのは、そこからだ。
──ええと
確か、彼女は浴衣を着ていた。それから、ビールを飲んだ記憶がある。
「彼女が泊まっているホテルの部屋で、実際に会ったよ。ビールをもらって飲んだことまでは覚えている」
以降、なにがあったのかが思い出せない。
ナナセが問いかける。
「そのカーラは、本物でしたか?」
ライオットは、ナナセをまじまじと見た。
──本物? 彼女は……
途切れた記憶に立ち返る。
カーラが本当に本人なのか、確かめなければならない。そのことで、ホテルに到着するまで、かなり悩んだはずだった。
右のお尻にあるというタトゥーを確認しなければならない。
──いったい、どうやって自分は……あっ!
形の良いバストが、ライオットの頭をよぎった。彼女は浴衣をバッと広げたのだった。それを脱いで後ろを……向いた?
「ロッドマンから教えられたタトゥーが……」
あったような、なかったような、記憶が定かではない。胸だけは覚えているが、それ以上のことを思い出そうとすると頭が痛んでくる。
「ダメだ。思い出せない」
ナナセは、ヒトミの方へ顔を向ける。
「このあたりで意識を失ったようね」
ヒトミが日本語でライオットに質問する。
「カーラから、なにか食べ物をもらいませんでしたか?」
ライオットも日本語で答える。
「ナッツ、もらったです。けっこう、好き、です。彼女も、それ食べた。安心して、自分も……」
「ああ、それですよ」
「え?」
ナナセが説明する。
「そのナッツには、強力な薬剤が含まれていたんです。ひとつ食べただけでも、重症になりかねないものだったのです」
ライオットはナナセの顔を見たまま、息をするのも忘れたように固まるのだった。




