◇ 面会
「……ん」
目を覚ましたライオットは、まだ夢を見ていると思った。
──ここは
まわりを見ようとして顔を右に向けたとき、自分のすぐそばに白衣を着て後ろを向いている女性がいる。
彼女は、ライオットが意識をとりもどした気配を感じて、ふり向いた。
「あ、目が覚めましたか?」
そういうと、あわてたように部屋から出ていってしまった。日本語だった。彼女は日本人のようだ。
ライオットの右手の人差し指の先に、クリップのようなものをはさんでいる。医療機器のセンサーだ。
胸にも、コードの付いた小さな吸盤のようなものが貼り付けられている。
左腕には、点滴の針が刺さっていた。
唖然となった。
──病院か?
ライオットは思った。自分は病院のベッドに寝ているようだ。そういう事実は把握できるが、いったい自分になにが起きたのか、まったく覚えていない。
病室に、誰かが入ってきた。医師と二人の女性だ。学生らしい女の子とポニーテールの若い女性が、ベッドのそばまで来る。
ライオットは己の記憶をまさぐる。
──彼女たちは、見たことがある……いや、会ったことが……自分といっしょに……
女の子が、ライオットに声をかける。
「大丈夫ですか、ミスター・ライオット」
「………」
その子の名前が思い出せない。医師が、彼女たちに伝える。
「記憶が混濁しているのでしょう。彼と話すのは、もう少し時間が経ってからの方が良いですね」
ポニーテールの女性が、女の子にいった。
「きょうは、話もできそうにないな。行こう、ヒトミ」
「わかったわ。ナナセ姉さん」
ライオットは、まどろむ頭の中で、いままでの記憶から彼女たちを探そうとする。
──ヒトミ……ナナセ……
しかし、なにも思い出せないまま、ふたたび眠りに落ちるライオットだった。
翌朝、ライオットは目覚めると、天井を見て愕然となる。
──ホテルじゃない?
首をあちこち動かして、自分の身体と部屋を見たとき、思考がふっ飛んだ。自分のなかの時間までが止まってしまった。
ここは病院だ。自分は病院のベッドに寝ている。集中治療室だ。そこまでは認識できた。
──ええと……
自身になにが起きたのか、必死で思い出そうとする。
不意に、女性の声が響いた。
「あ、起きました?」
彼女は、この病院の看護師のようだ。そう思っていると、誰かが病室に入ってくる。
白衣を着た医師に続き、二人の女性がライオットの方へ歩いて来る。二人とも、知っている顔だ。
「ヒトミ、ナナセ」
ライオットは「あれ?」と思った。このシーンは、以前に見たことがあるような気がする。
──デジャブ?
彼女たちは、名前を呼んでくれたライオットに微笑んだ。ヒトミがホッとした顔になる。
「良かった、記憶がもどっているみたい」
しかし、ライオットは自分がなぜ病院のベッドに寝ているのか、さっぱりわからない。
茫然自失に陥っているかのようなライオットを見たナナセが、ヒトミにいった。
「いや、まだ完全には治っていないようだ」
ナナセはライオットに顔を近づけると、英語で話す。
「わたしたちと京都へ行ったのを、覚えていますか?」
「京都……」
しばらくして、ライオットはうなずいた。
「ああ、覚えている。確か、新幹線で行ったんだ」
「そうです」
「京都駅で降りて、車でけっこう走ったな。山奥の村に、アンティークな家があった」
ナナセが首を縦にふる。
「そこで、キモノを着たきれいな人に会って……ええと……」
大事なことを、どうにか思い出した。
「そうだ、巻物! 巻物を受けとったんだ」
ナナセとヒトミは微笑んだ。ナナセは、さらに訊いてみる。
「そのあと、どうなったか思い出せますか?」
「確か……」
ライオットの記憶が、徐々によみがえる。
「東京にもどって、ジムと連絡をとったんだ。あいつと会う場所と時間を確認して、次の日に、会いに行ったんだ」
そしてジムに──
「あれ?」
ジムに会った記憶がない。




