◇ カーラ
カーラは、がっくりと肩を落とし、仕方ないという感じで自分の連絡先をライオットに渡そうとする。
「このホテルに泊まっています。とても大事なお話ですので、できるだけはやく、お電話ください」
ライオットはそれを受けとる直前、彼女の背後に鋭く目を光らせる。
「つけられてないよね?」
カーラは後ろをふり返った。自分の跡をつけてきた人間はいないはずだ。
「大丈夫です」
ライオットは彼女に訊きたいことがあった。
「どうして君は日本にいるんだ?」
「休暇です。こういうときでないと、なかなかジムに会えないのです」
「巻物のことは、どこまで知っているの?」
「ほとんど知りません。ただ」
そこまでいった彼女は、周囲を警戒する。
「ここでは話せません。あとは、わたしが泊まっているホテルの部屋で」
「それほど重要なのか?」
「はい。巻物が本物かどうかも、それでわかります」
ライオットは一瞬、言葉を失う。
──巻物が、本物……って
考えてもみなかった。なんの違和感もなく、てっきり本物に間違いないと信じていたのだが。
──偽物かもしれない?
ここまで協力的だった彼女たちクノイチが、偽物の巻物を自分に渡すだろうか。まがりなりにも、自分は MI6 の諜報員だ。
──ジムは、俺になにを伝えようとしたんだ?
困惑しているライオットに、カーラは「では、のちほど」といって去って行く。
ライオットは彼女を呼び止める機を失い、自分から離れゆく彼女の背中を呆然となって見ているのだった。
ホテルに帰ったライオットは、部屋に盗聴器がないか発見器を使って確認する。
なにもないとわかると、すぐにロッドマンに連絡する。カーラのことを調べてもらうのだ。
「もしもし、ライオットです」
「なにかあったの?」
「あのあと、カーラという CIA の諜報員が、自分に接触してきましてね。それで彼女のことを調べてほしいのですが」
電話をつないだまま、ロッドマンがカーラのことを調べる。
「カーラね、確かに CIA に在籍しているわ」
「写真を送れますか。顔が見たい」
「いいけど、あまり意味ないかも」
「どうしてですか?」
「彼女、変装の名人みたいよ」
ライオットと会ったときの顔が、素顔とは限らない。
「ほかに彼女とわかる特徴は、ないんですか?」
「あるわ。右のお尻に、タトゥーを入れてる。そんなに大きくはないわね」
ライオットの思考に、急ブレーキがかかる。そのタトゥーを確認するのに服を脱がして、さらに下着まで外さなければならない。
ライオットは眉を寄せる。女性を口説くのが苦手な自分に、はたしてそこまでできるのか?
──まいったな
ロッドマンの話は続く。
「タトゥーは、アルファベットのCの切れた部分を上にして、それに十字のクロスを重ねた模様ね。角度がちょっと右に傾いてるわ」
「わかりました。ああ、それで彼女は、いまどこに?」
「ちょっと待って」
CIA のシステムに侵入するのは、難しいどころではないだろう。いったい、どうやってシステムに入り込んでいるのか。
「日本にいるわね。休暇らしいけど」
カーラは本物である確率が高くなってきた。
ありがたい情報に、ライオットはロッドマンに尋ねてみる。
「よく、CIA のシステムに侵入できましたね」
「そんなことしないわよ」
「え?」
別の方法があるというのか? とても信じられない。
だが、タネを明かせば、なんのことはなかった。
「 CIA の友人に訊いているだけよ」
ロッドマンは、あっちの方にも顔が広いらしい。ピーターという CIA の職員が、可能なかぎりの情報を提供してくれるのは非常にありがたい。
彼女に訊くべきことは、もうひとつある。
「クノイチから渡された巻物は、本当に本物でしょうか。偽物であるという疑いは?」
「もし、それが偽物なら、MI6 とクノイチとの信頼関係にかかわるわね」
確かにそうだ。これは、気にする必要のない問題と思っていいだろう。




