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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 進まない任務
11/47

◇ CIAの女

 エレベーターを降りてビルの外に出たライオットとロッドマンは、歩きながら言葉を交わす。


「ジムが来ないとわかっているなら、連絡してくれれば良かったのに。君も、こんなところへ来る必要もなかっただろ」

「あなたを無関係だと思わせることも大事なのよ。だからわざわざ、わたしが来たの」


 自分より若く見えるわりには、なかなか頭の回転が鋭いようだ。まるで、ベテランのような雰囲気を感じる。


 ライオットは、彼女にたずねてみる。


「日本は、長いの?」

「そうねえ、もうかれこれ……」


 次に話す彼女の言葉は、ライオットに心臓を貫くほどのショックを与えた。


「二十年には、なるわね」


 ライオットの足が止まる。


 ──に、二十年っ!


 それが本当なら、彼女は少なくとも四十歳に達しているのは確実だろう。


 大先輩である。


 ロッドマンが、呆然となって固まっているライオットにふり向いた。


「どうしたの?」


 ライオットは驚いた顔をそのままに、おそるおそる尋ねてみる。


「いま、何歳ですか?」


 ロッドマンが怪訝(けげん)な表情でかえした。


「レディに向かって、歳を訊くつもり?」


 ライオットは、さらに続ける。


「どんな薬を飲んでいるんですか?」


 ロッドマンは両手を腰に当てて、眉をよせる。


「どういう意味よっ」


 ライオットは、声に出さずに叫んだ。


 ──だって、どう見ても二十代前半にしか見えねえじゃん!


 若返りの秘薬というものがあるのかどうかは知らないが、彼女の若さは、そういう類いの薬を使っているとしか思えない。


 ロッドマンが、心の中で取り乱しているライオットの手をひっぱる。


「ほら、馬鹿なこといってないで、行くわよ」


 ライオットは、全然なっとくできない複雑な想いを顔にあらわしながら、ロッドマンといっしょに街中を歩くのだった。




 夕方まで恋人らしくふるまって時間を過ごしていたライオットとロッドマンは、地下鉄の駅で別れた。


 思ったとおり、やはり自分たちの跡をつけてくる者がいた。付きまとっていたのは二人だったが、午後三時からは尾行者の気配を感じなくなった。ライオットとロッドマンは本当に恋人どうしだと思ったのかもしれない。


 別れ際に、ライオットはロッドマンにキスされる。

 二十代前半に見える、自分より十歳以上も年上の女性にキスされて、ライオットは複雑な想いを抱いたまま、自分が泊まるホテルに向かって行く。


 不意に、後ろから声をかけられた。


「ミスター・ライオット?」


 ライオットは足を止める。右手を銃のある懐にしのばせ、用心しながら後ろに顔を向ける。


 知らない白人女性が立っている。二十代後半から三十代前半と思われる彼女は、紺のスーツに茶色のハンドバッグを左肩にかけている。


「少し、お話がしたいのですが」

「君は誰だ? どうして俺のことを知っている」


 黒髪の彼女から、驚くべき言葉が出てくる。


「わたしは、カーラ。CIA の諜報員です」


 カーラはそういいながら、身分証を見せる。


「MI6 のジムとは知り合いで、あなたのこともきいていました」


 目が点になり、その場に立ちつくすライオットに、彼女は言葉を続ける。


「ジムに頼まれていたのです。自分にもしものことがあったときに、あなたに会うようにと。いまから、わたしの泊まっているホテルへ……」

「ちょっと待ってくれ」


 あまりに急すぎる展開に、ライオットの頭がついてゆけない。


「これから、長官の指示をあおぐことになっているんだ。いまはまだ指示を待っている段階で、勝手な行動はできない」


 ヘレン長官から指示が発令されると、ロッドマンをとおしてライオットに連絡する手筈(てはず)になっている。それまで、勝手なことはできない。


 なにより、自分は彼女のことを知らなすぎる。身分証が本物かどうかも怪しいし、彼女が嘘をいっていないという保証もない。




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