たくスラ ~ゆいこが○○に転生したら~
「--なさい」
声が聴こえた、自分を呼ぶ声が。その声が懐かしい気がするのは、なぜだろうか。
「目覚めなさい」
やわらかくも指示してくる声は上位者のそれだった。呼びかけに呼応して、目を開ける。
そこは真っ白い空間だった。どこもかしこも白く、遠近感がなくなる。この場所がどれだけ広いのか分からなかった。そんな空間に、ふわりと浮く神々しい女性がいた。声の主は彼女だ。
「本来のあなたたちを思い出すのです。魂に刻まれた記憶を――」
あなたたち、と言われて、隣にもう一人いることに気付く。自分からは見上げるほどの背の男だ。いや、そもそも自分が小さいことに気付く。
『ここは?』
声を出したつもりだったが、思念がそのまま音で響いた。喉も口も自分にはありはしない。よく確認すると手足すらなかった。それもそうだ。自分はスライムなのだから。
隣の男が大男なのではなく、クッションと変わりない大きさの自分からすればすべてが大きいだけだ。
「世界の狭間です。私があなたたちを喚びました」
「女神のお嬢さんが、俺に何の用だい?」
隣の男の落ち着いた風貌から、ギルドのマスターか何かだろうと予想がつく。少なくとも男は自分と同じ世界の存在のようだ。彼も喚ばれた理由に心当たりがないらしい。
状況的に女神であろう彼女は、問われてつぅと一筋の涙を流す。
「……会いたかったのです」
「ゆいこ?」『ゆいこ?』
泣き顔に見覚えがある、と思った瞬間、彼女の名前が口を吐吐いた。
名前を呼ばれ、ゆいこは涙を決壊させた。
「うわーんっ、ひろし、たくみ、会いたかったよー!」
『って、何でオレ、スライムになってんの!?』
人間の頃の記憶を思い出したせいで、今の自分の姿に驚いてしまう。
「たくみに比べたら、俺は人間だっただけマシだな」
『その憐れみの目をやめろ』
「もー、なんで二人ともモブ系に転生しちゃってるのー!? 全然エンカウントできないじゃない!」
元たくみのオレはスライム、元ひろしはギルドマスターに転生してしまったせいで、女神に転生したゆいこはこれまで会うことが叶わなかったらしい。しかし、辛抱できず女神チートでオレたちを召喚したようだ。
勇者とか女神と関わりあるものに転生しろと文句を言われても、転生先が選べる訳がないだろうが。
「最初はテンションあがったけど、女神なんてつまんなーいっ。転生者のガイドするとき以外めっちゃヒマなんだよ!?」
「そうかそうか。一杯飲むか?」
『どこから出したその酒』
何のための召喚かと思ったら、ゆいこの愚痴にめちゃくちゃ付き合わされたのだった。
ゆいこが『女神』に転生したら、を書かせていただきました。
が、朗読いただいた下野さんに「たくみがスライムに転生した件」、たくスラと命名いただいたので、そちらをタイトルに起用させていただきました。





