砂糖売りの転生者
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## 砂糖売りの転生者
――記憶なき信念
彼は、前世のことを思い出さなかった。
名前も、年齢も、家族も。
ただ一つ、心の奥にだけ、奇妙な感覚が残っていた。
――「絶対に真面目に生きる」
理由は、誰も知らなかった。
彼自身も、知らなかった。
だが、揺らぐことはなかった。
### 幼少期
小さな村に生まれ、
毎日決まった時間に起き、
掃除をし、
食事をとる。
友達に誘われても、
ふざけたり、嘘をついたりはしなかった。
教師に叱られれば、
すぐに直した。
褒められれば、少し照れた。
周囲は言った。
「この子は変わっている」
「でも、悪くはない」
### 成長
村を離れ、街で働くようになった。
仕事は単純作業でも、
彼は全力で取り組んだ。
同僚が手を抜くと、
軽く首を振るだけで、
何も言わなかった。
自分がやるべきことを
淡々とこなすだけだった。
### 逸脱のない日々
恋も、冒険も、金儲けも、
彼の人生には特別な事件は訪れなかった。
だが、誰もが認めることがあった。
――「信頼できる人」
それは、努力の積み重ねではなかった。
過去の記憶が影響しているのでもなかった。
ただ、
彼の魂が、
真面目に生きることを選んだだけだった。
### 老年
年を重ねても、
習慣は変わらなかった。
手を抜くことも、
騙すことも、
自分を偽ることも、
一度もなかった。
死ぬ前日、彼はふと思った。
(なぜ、
俺はずっと真面目に生きてきたのだろう)
答えは出なかった。
だが、問いすら必要なかった。
世界は、
彼の存在に文句を言わなかった。
ただ、
静かに、
平和に、
その日常が積み重なっていった。




