麻薬売り 実は粉砂糖
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## ある一生の話
――粉砂糖
彼は、
微細粉砂糖を一キロ手に入れた。
理由は単純だった。
金がなかった。
小分けにして、
それを「麻薬」として売った。
成分の話はしなかった。
効き目の話もしなかった。
人は、
信じたいものを信じた。
金は、
驚くほど簡単に集まった。
彼は思った。
(世の中は、
思っていたより軽い)
長くは続かなかった。
ヤクザが嗅ぎつけた。
売り場に現れ、
笑顔で言った。
「儲かってるらしいな」
選択肢はなかった。
売り上げの
ほぼすべてを取られた。
5年我慢した 多くの売り上げがあった
ただそれが自分の金でなかっただけだ
殴られはしなかった。
それが、
かえって怖かった。
6年目のある日
彼は、
その夜に消えた。
靴底に隠してあった
わずかな資金。
最初から、
逃げ道を考えていなかったわけではない。
偽名屋を探し、
金を渡し、
別の名前を受け取った。
過去は、
そこで終わった。
彼は、
茶碗の製造ラインに入った。
単調な仕事だった。
型に流し、
乾かし、
焼く。
一日、
何百個も。
誰も、
彼の過去を知らなかった。
彼自身も、
思い出さなくなった。
金は増えなかった。
だが、
奪われることもなかった。
年を取り、
指先が鈍くなり、
現場を離れた。
彼は、
最後まで逃げ切った。
成功もしなかった。
破滅もしなかった。
ただ、
生を全うした。
死ぬ前に、
彼は一度だけ思った。
(あれも、
一つの才能の使い方だったな)
後悔でも、
誇りでもなかった。
それだけだった。




