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第二十五話:サケ目サケ科サケ亜科タイヘイヨウサケ属

ボクは未熟だ。未熟だ未熟だと日々痛感しながらも、それなのに心のどこかで自分の事を頭が良いと。優れていると誤解していた。

本当に未熟だ。どれぐらい未熟かと言えば、とてもとてもダサいエピソードがある。

「やってくれたねえ小学生」

目の前の小学生に謀られ手玉に取られる始末。

「望愛笑ってたよ」

そう言っている自分の顔が綻んでいるのに気付いているだろうか。

巻かれたマフラーを咥える男の子らしい仕草も、今となっては演出に見えてくる。

釣り竿を投げ終え、一段落の作業を終える。

「初めて絵が出来たんだ。嬉しかったんだろうね」

「初めて?」

「そうだね。大物を初めて釣り上げたってところかな」

なるほど、と頷いて嬉しそうに笑った。

謀略の根幹は善意だと見えるなら、謀られても嬉しくなる。

「ところで色兄ちゃん、やられているよ」

「おやおや」

リールをくるくると回していくと、見事に餌だけを食い逃げされていた。

魚の気持ちも考えないといけない。難しい。

「望愛が言ってた。色兄ちゃんって凄い絵の師匠なんでしょ」

「ボクごときが自分を師匠だとは名乗りたくないね。それに凄いかどうかも見た人が決めるべきだね」

「それじゃあ色兄ちゃんは凄いよ。あの魚の絵凄かったもん」

幸人の竿がしなる。

本人は焦らず、ゆっくりと巻いていく。

「海ならまた違うんだけど」

かかってから3分。ようやく釣り上げた。

「随分と大物だね。これはもしや、ヤマメという魚かな?」

「どこで覚えたのか知らないけど、色兄ちゃん釣った魚全部にヤマメって言うのやめようよ」

携帯を見せてもらう。これはニジマスという魚らしい。

分類としてはサケ目サケ科サケ亜科タイヘイヨウサケ属……まあサケなんだろう。

「……?」

サケなのに、ニジマス?

「サケとは魚の事だと思っていたけど、もしかして分類名なのかな?」

「色兄ちゃん達が言ってるサケはシロザケの事だと思う」

なるほど。よくわからない。

よくわからない事がわかったので、良しとしよう。

「お昼ごろに釣れるから二時マスという魚なのかな?」

それであればマスはなんだろう。スゴロクのマス目、ボックス的な何かだろうか?

「虹色の方だって書いてあるね」

今の小学生は知りたい事をすぐに検索する。文明を使いこなし本当に賢い。

「ところでキミ達は六年生というのは本当かな?」

「望愛はそうだね。ボク達は今度五年生だよ」

「なるほど。彼女は友達がいないからひとつ下の君たちと遊ぶのか」

「すっげー失礼な事言うよね色兄ちゃん。望愛は生きた魚描きたいって言ってきただけだよ」

「見解の相違だね。孤独はいいものだよ少年」

ほーほー、ほほー。

キジバトが鳴いた。発声時には胸を風船のように膨らませ、右に左に視線を動かす。

うるさいなあ、と思いながらも自然と口元は緩んだ。

「釣りのコツは何かな?」

「がまん」

なるほど。理にかなっている。

うんうんと頷く。

最善を尽くした後は、焦らずに待つと。なるほどなるほど。理にかなっている。

時折自分が恥ずかしくなる。ボクよりも一回りぐらい小さい小学生ができることすら、ボクは満足に行えない。

もっと精進せねば。

「精進しないとね」

「あはは」

いいなあ。こういう時間は大切だ。

河の水面に目をやる。太陽の反射が光の粒のように踊ると今更ながら木々の燦歌が耳に入った。

石がなにか動いたと思ったら、バッタだろうか? 小さな虫は草むらに入っていった。

(寒冷期にバッタはないか――ではなんだろうか)

色々と、自分がいかに物を知らないか。何も見て来なかったか。本当に未熟さを痛感する毎日だ。

「色兄ちゃん痩せたよね」

「ダイエットをしているんだ」

しょうがない、と幸人は立ち上がるとナイフを構えた。

「僕は望愛の師匠の師匠だからご馳走してあげる」

確かに彼は釣りの師匠である。しかしこれは良い。弟子というのはこんなにも有益なのか。

おにぎりもあるよと言われ好意に預かる。

クーラーボックスの上で捌いたニジマスに醤油をかけ、おにぎりと食べる。

「イマイチだね。居酒屋の方が美味しいかな」

「色兄ちゃんって良い性格してるよね」

毎週火曜日・金曜日・日曜日に投稿します。

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